朝のギルド。
受付カウンターには、定例業務を装って配布された書類が一枚。
その裏にだけ、魔王軍専用暗号で記された処理候補リストが貼られていた。
サマンサは、そのリストをにこやかに確認する。
【本日のリストラ対象】
①ユメタリーナ
種族:夢語り族・中位魔族
特徴:遭遇者に「昨晩の夢」をノンストップで語り続ける。
・夢の内容は意味不明な比喩・象徴に満ちており、聞き手のSAN値(理性)を削る。
・停止指示を理解せず、“語り終わる”まで逃げられない。
過去被害:
→15時間連続語りで部隊が集団昏睡
→“聞いた夢”がうつり、別部隊が同じ悪夢に侵されて戦力化不能に
②アモレオル
種族:応援型ケンタウロス
特徴:特定の勇者を“推し”と決めており、敵味方の立場を問わず全力応援。
問題点:
・戦場で推しが出現すると「がんばれー♡」と大声で励ます
・作戦中に勝手にフラッグを振り回す、紙吹雪を撒くなど、ステルス戦術全崩壊
・“推しの活躍”を支えるために戦術情報を敵に漏洩した過去あり
サマンサは紅茶を一口啜りながら、心の中で呟く。
(……なんで魔王軍、こんなにサブカル気質ばっかりなのかしら)
ちょうどそのとき、受付に現れたのは――
意識高い系新米冒険者・ミルミ。
ポエムで語りがち、すぐ“生き方”を語るタイプ。
「私、もっと世界の“内面”と向き合いたいの。言葉とか夢とか、そういう次元で……」
(ドンピシャ)
「ミルミさん、まさにぴったりな依頼がありますわ。“夢を語るモンスターの対話調査”。あちらの高台で静かに、彼女のお話を“受け止めるだけ”の簡単なお仕事です♪」
【現場:風見の丘】
夕暮れの丘に、風に髪をなびかせながら佇むモンスターがいた。
その名は――ユメタリーナ。
ドレスのような霞をまとい、目を閉じたまま語り始めた。
「昨夜の夢は、黄色いバスに乗った私が、マヨネーズの大海原を泳ぐチーズの妖精を見ていたの。けれど海はやがて塩辛くなって、バスのタイヤは時計に変わり――」
ミルミ「わかる……気がする……」
「そこへ牛が現れて、“お前はアイスかヨーグルトか選べ”と叫ぶの。でも私は、私は……サラダだったのよ……!」
ミルミ「重層的……これ、人生のメタファー……!」
【3時間後】
ユメタリーナ「そのとき、地平線に現れたのは“寝坊したサンドイッチの神”で――」
ミルミ「……ね、眠い……私、まだ、夢と……向き合えて……(バタン)」
【4時間後】
ユメタリーナ「次に見た夢は、“夢の中で夢を見ていた私が、また夢を見て”……」
【5時間後】
サマンサが差し向けた【強制回収部隊】が、寝落ちしたミルミを担架で回収。
ユメタリーナは、夢の続きを誰かに聞かせるべく、淡々と語り続けていた。
【ギルド受付】
「ユメタリーナ――処理完了。接触対象者の“理性睡眠”確認。以後、“夢魔領域”へ封印。聞き役配置不可」
サマンサは、“回収後に詠まれたミルミの謎ポエム”を横目で読みながら、書類にサイン。
「“夢と人生の境界は、チーズの断面にある”……これはこれで才能あるのかも」
そして――
次の依頼書には、大きな星マークが書かれていた。
【依頼名】:馬っぽいヤツの応援がウザい件について
対象:ケンタウロス・アモレオル
備考:推しの勇者が現れたらテンションがMAXになる
危険度:精神的にしんどい
「ふふっ……“裏切り系ファン”って、一番タチ悪いわよね♪」