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第17話

 朝のギルド。

 受付カウンターには、定例業務を装って配布された書類が一枚。

 その裏にだけ、魔王軍専用暗号で記された処理候補リストが貼られていた。

 サマンサは、そのリストをにこやかに確認する。


【本日のリストラ対象】

 ①ユメタリーナ

 種族:夢語り族・中位魔族

 特徴:遭遇者に「昨晩の夢」をノンストップで語り続ける。

 ・夢の内容は意味不明な比喩・象徴に満ちており、聞き手のSAN値(理性)を削る。

 ・停止指示を理解せず、“語り終わる”まで逃げられない。

 過去被害:

 →15時間連続語りで部隊が集団昏睡

 →“聞いた夢”がうつり、別部隊が同じ悪夢に侵されて戦力化不能に

 ②アモレオル

 種族:応援型ケンタウロス

 特徴:特定の勇者を“推し”と決めており、敵味方の立場を問わず全力応援。

 問題点:

 ・戦場で推しが出現すると「がんばれー♡」と大声で励ます

 ・作戦中に勝手にフラッグを振り回す、紙吹雪を撒くなど、ステルス戦術全崩壊

 ・“推しの活躍”を支えるために戦術情報を敵に漏洩した過去あり


 サマンサは紅茶を一口啜りながら、心の中で呟く。

(……なんで魔王軍、こんなにサブカル気質ばっかりなのかしら)

 ちょうどそのとき、受付に現れたのは――

 意識高い系新米冒険者・ミルミ。

 ポエムで語りがち、すぐ“生き方”を語るタイプ。

「私、もっと世界の“内面”と向き合いたいの。言葉とか夢とか、そういう次元で……」

(ドンピシャ)

「ミルミさん、まさにぴったりな依頼がありますわ。“夢を語るモンスターの対話調査”。あちらの高台で静かに、彼女のお話を“受け止めるだけ”の簡単なお仕事です♪」


【現場:風見の丘】

 夕暮れの丘に、風に髪をなびかせながら佇むモンスターがいた。

 その名は――ユメタリーナ。

 ドレスのような霞をまとい、目を閉じたまま語り始めた。

「昨夜の夢は、黄色いバスに乗った私が、マヨネーズの大海原を泳ぐチーズの妖精を見ていたの。けれど海はやがて塩辛くなって、バスのタイヤは時計に変わり――」

 ミルミ「わかる……気がする……」

「そこへ牛が現れて、“お前はアイスかヨーグルトか選べ”と叫ぶの。でも私は、私は……サラダだったのよ……!」

 ミルミ「重層的……これ、人生のメタファー……!」

【3時間後】

 ユメタリーナ「そのとき、地平線に現れたのは“寝坊したサンドイッチの神”で――」

 ミルミ「……ね、眠い……私、まだ、夢と……向き合えて……(バタン)」

【4時間後】

 ユメタリーナ「次に見た夢は、“夢の中で夢を見ていた私が、また夢を見て”……」

【5時間後】

 サマンサが差し向けた【強制回収部隊】が、寝落ちしたミルミを担架で回収。

 ユメタリーナは、夢の続きを誰かに聞かせるべく、淡々と語り続けていた。


【ギルド受付】

「ユメタリーナ――処理完了。接触対象者の“理性睡眠”確認。以後、“夢魔領域”へ封印。聞き役配置不可」

 サマンサは、“回収後に詠まれたミルミの謎ポエム”を横目で読みながら、書類にサイン。

「“夢と人生の境界は、チーズの断面にある”……これはこれで才能あるのかも」

 そして――

 次の依頼書には、大きな星マークが書かれていた。


【依頼名】:馬っぽいヤツの応援がウザい件について

 対象:ケンタウロス・アモレオル

 備考:推しの勇者が現れたらテンションがMAXになる

 危険度:精神的にしんどい


「ふふっ……“裏切り系ファン”って、一番タチ悪いわよね♪」


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