『やったのう、フィンレー。これで二人分のスキルが奪えるのじゃ』
(ああ、そうだな。でもその前に)
俺は一部始終を見守っていたリリーに声をかけた。
「ごめん、リリー。俺が良いって言うまで、目を瞑って耳を塞いでくれるか?」
「へ? あっ、はい。分かりました!」
リリーはすぐに、俺に言われた通りにその場で目をぎゅっと瞑って、両手で耳を塞いだ。
そのことを確認した俺はスキルを奪う準備を始めた。
パトリシアとルナに近づき、彼女たちの手を触る。
「スキルホルダー」
俺はスキルによって出現したカメラでパトリシアとルナ、それぞれの写真を撮った。
そしてカメラから出てきた写真を、ファイルに収納する。
『スキル収納、完了じゃ!』
ゴッちゃんが嬉しそうに俺の周りを飛び回った。
これで将来有望な二人の新入生は、スキルの使用が出来なくなった。
「やっぱり良いことをしてる気はしないな……」
俺は二人から離れてリリーのもとへ行くと、もう目を開けても良いと伝えた。
しかしリリーに反応は無い。
「リリー?」
『耳を塞いでおっては聞こえんじゃろう』
「あ、そうだった」
耳を塞いでいるリリーに俺の声は聞こえていないようだ。
律義にしっかりと耳を塞いでくれていたらしい。
『こんなところで目も耳も塞ぐなんて不用心じゃのう』
「確かにちょっと素直すぎるかもしれないな」
こんなところで目も耳も塞いだら、何かをされてもすぐには反応が出来ない。
……この状態をリリーに頼んだのは俺だが。
「リリー、ありがとう。もう終わったよ」
俺はリリーの肩を叩いて終了の合図をした。
肩を叩かれたリリーがゆっくりと目を開ける。
「は、はい。それで、フィンレー君、あの二人は……」
リリーが、気を失っているパトリシアとルナを見た。
「起こした方が良いですよね?」
授業で使うということはこの森は学校が管理しているのだろうが、それでもこの状態のまま二人を置いて行って何かが起こったら寝覚めが悪い。
「起こしてもすぐに噛みついてくる元気は無いだろうから、起こしてから行こうか」
俺はパトリシアとルナに近付くと、パトリシアを持ち上げて、ルナの上から退かした。
「フィンレー君って意外と力持ちですよね」
「学校に入るまでに鍛えたから。とは言っても、子どもにしては力がある程度だけど」
この身体ではそれが限界だ。鍛え上げた大人の力には敵わない。
『それはそうじゃろう。大人よりも力の強い十二歳は怖いのじゃ』
(でも単純な力では敵わないけど、剣術を駆使すればこの身体でも大人に勝てるはずだ)
『確かに学校に入る前にも、大人と戦ったことがあったからのう。末恐ろしいやつじゃ』
二年間スキルを集める中で、俺はすでに大人とも戦っている。
相手は戦い慣れていないようだったが、それでも子どもの身体で大人に勝つことが出来た実績は、俺に自信を与えてくれた。
とはいえ、スキルホルダーの能力がバレることは避けたかったので、ほとんどのスキルは闇討ちのような方法で集めたが。
「パトリシアさん、ルナさん」
リリーが呼びかけたが、二人は目を覚まさなかった。
そのため俺は、パトリシアとルナの頬を軽く叩いて、強制的に二人の目を覚まさせた。
「うっ……」
「あっ……」
二人はまだ本調子ではないのだろう。
ボーっとした目で俺たちのことを見た。
「おはよう」
俺は屈んで二人と目線を合わせてから、にっこりと笑いかける。
「俺たちはもう行くから、ボールは自力で見つけろよ」
俺の言葉を聞いたルナが、俺のことをにらみつけた。
一方でパトリシアはまだ意識がハッキリとはしていないようだ。ボーっとしたまま虚空を眺めている。
「この、覚えてろよ……」
「そんな口を利く元気があるなら大丈夫そうだな。パトリシアのことは任せたぞ」
「ふっ、馬鹿が。私の壁生成スキルなら、この状態でもお前の行く手を遮ることが出来るんだよ!」
ルナは手をかかげると、スキルを使用しようとした。
「食らえ! 壁生成!」
しかし、スキルは発動しない。
なぜなら俺が奪ったから。
「……あれ。壁生成! 壁生成!」
ルナは何度もスキルを使用しようとしたが、一向に壁は出現しない。
困惑するルナとボーっとしたままのパトリシアを置いて、俺とリリーは森の入口へ戻ることにした。
「じゃあ俺たちはもう行くな」
「待て。お前、私に何をしやがった! 私のスキルをどこにやったんだ!?」
叫ぶルナに、肩をすくめながら答える。
「さあね。そこに無いなら無いですね」
「白々しいことを抜かしやがって! 覚えてろよ、この野郎ーーー!!」
ルナの叫び声を聞きながら、俺とリリーは森を脱出した。