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第22話


 暗くなった校舎内をオーウェンとともに歩く。

 二人分の足音が静かな廊下に響いている。


「足音を立てないように歩いてるつもりでも、こう静かだと響くね」


「そもそも真っ暗な校舎内に誰かいるのか? 誰もいないなら、そこまで気にすることもないと思うけど」


 てっきり誰かが校舎内に残っているものだと思っていたのに、どの教室にも明かりが点いていない。

 これなら気付かれる心配はないのではないだろうか。


 俺がそんなことを思っていると、オーウェンが小声で囁いた。


「警備員はいると思うよ。不審者に侵入されて学校を荒らされたら困るだろうから」


「ああ、そっか。じゃあ引き続きこっそり歩こうか」


 明るい光魔法を使うとバレそうなため、小さなランタンを持って廊下を進む。

 ランタンのおかげで、遠くまでは見えないものの進む先に何があるのかは把握することが出来る。


「夜の学校って、何も起こらなくてもドキドキするね」


「分かる。雰囲気があるよな」


 俺たちが廊下を歩いていると、角を曲がった先に人影が見えた。

 一旦隠れて、顔だけを出して人影を確認する。

 暗いせいで男か女か大人か子どもかすら分からないが、人間なことだけは確かだ。


 唇に指を当てて、オーウェンとともにこっそり人影を観察する。


「人数は三人みたいだね」


「上級生か? ここからじゃ、よく分からないな」


「話しかけてみる?」


 三人の人影に接触しようとするオーウェンを押さえた。


「ちょっとだけ待ってくれ」


「え? 別にいいけど……どうかしたの?」


 俺は話し相手を、オーウェンからゴッちゃんへと切り替えた。


(ゴッちゃん、あれは生徒だよな? 間違えて先生に話しかけたくはないから、教えてくれよ)


『こういうときばっかり儂を頼りおって。都合が悪くなると儂のことを無視するくせに。儂はフィンレーにとって都合の良い女なのか!?』


(変な小芝居を挟むなよ。どこからどう見ても女じゃなくて爺さんだし)


 ゴッちゃんは、よよよとしなを作る小芝居を続けながら、人影を見に行った。


『おや。あれは生徒ではないのじゃ。しかし教員でもないのう』


(じゃあ誰なんだ?)


『この学校の関係者ではない部外者じゃ』


「どうして部外者が学校に……?」


 思わず漏れ出た俺の言葉を聞いたオーウェンが、不思議そうな顔をした。


「部外者? フィンレーはなんでそんなことが分かるの?」


「えっと、匂いというか……でも確実に学校の関係者じゃないんだ」


 こう伝える他ない。

 まさかゴッちゃんに確認してもらったとは言えるはずもないのだから。


「そう言われると、道に迷ってるような歩き方かも。関係者なら校舎内で迷ったりしないよね?」


 部外者と聞いたオーウェンが、目を凝らして三人を観察した。

 俺も一緒に人影を凝視する。

 オーウェンの言う通り、三つの人影は明確な目的地があるような歩き方はしていない。

 あっちへふらふら、こっちへふらふらとしている。


「何かを見ながら歩いてるみたいだな。あれは……地図?」


『ちょっと違うのじゃ。地図を見ているのではなく、地図作成スキルで白紙に学校の地図を記入しておるのじゃ。地図作成スキルは、歩くことで地図が作成できる便利なスキルじゃよ』


(へえ。そんな便利なスキルもあるのか……って、部外者が学校の地図を作ってる!?)


 それはマズいのではないだろうか。

 というか、なぜ彼らはそんなことをしているのだろう。

 彼らが何者なのか会話を聞いて探ろうとしたものの、距離があるため彼らの会話はよく聞こえない。


「もうちょっと近付かないと何を話してるのか分からないな」


「こっちなら死角になってるはずだよ」


 オーウェンに着いて行くと、柱の陰に案内された。

 柱の陰から耳を澄ませると、彼らとの距離が縮まったことで、全てではないが彼らの会話が漏れ聞こえてくる。



「……私のスキル……地図作成は簡単に……」

「……これで俺たちも……に認められる……」

「……正式に……構成員として……」



 途切れ途切れだが、地図作成という単語は拾うことが出来た。


「本当に学校の地図を作ってるみたいだな」


「学校の地図を、部外者が?」


 オーウェンが驚いたように俺のことを見た。

 俺はこれには答えず、彼らを指差すジェスチャーをして、さらに彼らの会話に耳を傾けるよう合図をした。

 今、彼らは「構成員」と言っていた。何の団体かは分からないが、きっと彼らにはもっと多くの仲間がいる。



「……でも一体……この学校に何が……」

「……金か……でも校舎内にあるか……」

「……認められ……教えてもらえる……」



 どうやら彼らは自分たちでも、何のために学校の地図を作成しているのか分かっていないようだった。

 自分たちの行為の理由すら教えてもらえないような、下っ端なのだろう。



「……私たちは……地図を作るだけ……」

「……認められれば……アジトや集会に……」

「……学校襲撃に……俺たちも参加できる……」



「学校襲撃!?」


 衝撃的な単語を聞いたオーウェンが大きな声を出した。

 その瞬間、三つの人影がこちらに振り向いた。


「逃げろ!」


 俺たちに気付いた三人は一目散に逃げだした。

 三人の後を急いで追いかける。


「待て、侵入者!」


「おい、フィンレー!?」


 そして後ろを向いて、その場に立ち尽くしているオーウェンに指示を出す。


「大人に伝えてくれ。学校に忍び込んで校舎の地図を作ってるやつがいるって!」


「フィンレーは何をする気なんだ!?」


「逃がさないように、あいつらを追いかける!」




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