しばらく侵入者たちと追いかけっこをしていると、侵入者たちは追いかけてくるのが、ただの生徒一人であることに気付いたらしい。
侵入者たちは逃げるのをやめ、逆に俺に向かって戦闘態勢を取った。
「追ってきてるのは、こいつ一人だけみたいだ」
「驚かせるなよ」
「じゃあこいつを殺して、もう一人のあいつも殺せば、目撃者はいなくなるってことだな」
ものすごく物騒なことを言っている。
しかし、そう簡単にやられてやるつもりはない。
そして近付いたことで三人組の姿が明らかになった。
一人は片手に地図を持った女。あとの二人は短剣を持った男だ。
状況から考えて、地図作成のスキルを持っているのはあの女だろう。
「もらったあ!」
襲いかかってきた男の攻撃を避け、男の右手を叩く。
そして叩かれた衝撃で落ちた短剣を拾い、俺の武器にする。
「なっ!?」
「子どもだからって油断はするな!」
「ああ、分かったよ」
地図を持っていた女は地図を懐にしまうと、一本の杖を取り出した。
魔法で戦うつもりのようだ。
ちなみに魔法は何も持たなくても使用することが出来るが、杖があると狙いが定まりやすく、威力が強くなる効果がある。
そして物理攻撃をしてくる相手なら、ある程度の攻撃予測が出来るから回避が可能だが、魔法となると何が飛んでくるか分からない。
魔法を使われる前に女を無力化するべきだろう。
俺は男たちを無視して一足飛びで女に近付くと、腹に容赦のない一撃を叩きこんだ。
「ぐあっ!?」
女が苦しそうに腹を押さえた。
その隙に杖を奪い取り、廊下の端に投げ飛ばす。
『おなごを殴るのはどうなんじゃ、フィンレーよ』
(俺だって殴りたくはなかったけど、三対一で魔法まで使われたら対処が出来なくなる)
『とはいえ可哀想じゃろう。ずいぶんと痛がっておるのじゃ』
(分かったよ。痛くないようにすればいいんだろ)
俺は女の首を叩き、女を気絶させた。
(ほら。これでもう痛くないだろ)
『フィンレーお前……味方ながら、儂、ドン引きじゃ』
ゴッちゃんが、ケダモノを見るような目を俺に向けてきた。
痛くなくなったんだから良いだろ、と抗議をしようとしたが、放置していた男の一人がそれを許してはくれなかった。
「隙あり!」
俺が隙を見せていると感じたのだろう男が襲いかかってきた。
これを避けた……はずだが、その直後から身体の動きが悪い。
「見たか! これが俺のスキル、糸操りだ!」
よく見ると、俺の腕には糸のようなものが光っている。
しかし糸を短剣で切ろうとしても、上手く切ることが出来ない。
「この糸は、俺の意志でしか切ることが出来ない特殊な糸だ!」
「へえ。強力な糸だ……が、すごい硬度には思えないんだよな」
糸は俺の腕に巻きついてはいるものの、そのせいで腕が切断されたりはしていない。
巻かれているのは、あくまでもただの糸に見える。
「切れないことは脅威だが、言い換えれば、ただの切れないだけの糸だ。それなら!」
俺は勢いよく男に近づいた。
男に近づく分には糸がたるみ、腕も自由に動かせる。
「あんたを倒せば消えるんじゃないのか? 糸を維持させようというあんたの意志が消えるんだから」
俺は男の頭を持って、膝蹴りを食らわせた。
あごにクリーンヒットの入った男は、その場に倒れた。
その瞬間、俺の腕に巻きついていた糸が消えた。
「やっぱりな」
『薄々感じておったが、フィンレーは脳筋じゃよな? 気絶させれば何でも解決すると思っていそうじゃ』
(実際、解決しただろ)
『……儂、フィンレーは犯罪者予備軍だと思うのじゃ』
(失礼だな!?)
……って、ゴッちゃんにツッコミを入れている場合ではなかった。
敵はもう一人残っているのだ。
しかし最後の一人をにらんだ俺は、妙な既視感を覚えた。
「あんた、もしかして俺と会ったことがあるか?」
男の顔には見覚えがあるような気がするが、どこで見たのかは思い出せない。
「会ったことがあるか、じゃねえよ!」
男は苛立ちを隠さずに怒鳴った。
この声にも聞き覚えがある気がする。
「うーん。会ったことがあるような気がするんだけど……でも知らない人なんだよな……」
イマイチ思い出せない俺に、男が自身の名前を告げた。