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第23話


 しばらく侵入者たちと追いかけっこをしていると、侵入者たちは追いかけてくるのが、ただの生徒一人であることに気付いたらしい。

 侵入者たちは逃げるのをやめ、逆に俺に向かって戦闘態勢を取った。


「追ってきてるのは、こいつ一人だけみたいだ」


「驚かせるなよ」


「じゃあこいつを殺して、もう一人のあいつも殺せば、目撃者はいなくなるってことだな」


 ものすごく物騒なことを言っている。

 しかし、そう簡単にやられてやるつもりはない。


 そして近付いたことで三人組の姿が明らかになった。

 一人は片手に地図を持った女。あとの二人は短剣を持った男だ。

 状況から考えて、地図作成のスキルを持っているのはあの女だろう。


「もらったあ!」


 襲いかかってきた男の攻撃を避け、男の右手を叩く。

 そして叩かれた衝撃で落ちた短剣を拾い、俺の武器にする。


「なっ!?」


「子どもだからって油断はするな!」


「ああ、分かったよ」


 地図を持っていた女は地図を懐にしまうと、一本の杖を取り出した。

 魔法で戦うつもりのようだ。


 ちなみに魔法は何も持たなくても使用することが出来るが、杖があると狙いが定まりやすく、威力が強くなる効果がある。


 そして物理攻撃をしてくる相手なら、ある程度の攻撃予測が出来るから回避が可能だが、魔法となると何が飛んでくるか分からない。

 魔法を使われる前に女を無力化するべきだろう。


 俺は男たちを無視して一足飛びで女に近付くと、腹に容赦のない一撃を叩きこんだ。


「ぐあっ!?」


 女が苦しそうに腹を押さえた。

 その隙に杖を奪い取り、廊下の端に投げ飛ばす。


『おなごを殴るのはどうなんじゃ、フィンレーよ』


(俺だって殴りたくはなかったけど、三対一で魔法まで使われたら対処が出来なくなる)


『とはいえ可哀想じゃろう。ずいぶんと痛がっておるのじゃ』


(分かったよ。痛くないようにすればいいんだろ)


 俺は女の首を叩き、女を気絶させた。


(ほら。これでもう痛くないだろ)


『フィンレーお前……味方ながら、儂、ドン引きじゃ』


 ゴッちゃんが、ケダモノを見るような目を俺に向けてきた。

 痛くなくなったんだから良いだろ、と抗議をしようとしたが、放置していた男の一人がそれを許してはくれなかった。


「隙あり!」


 俺が隙を見せていると感じたのだろう男が襲いかかってきた。

 これを避けた……はずだが、その直後から身体の動きが悪い。


「見たか! これが俺のスキル、糸操りだ!」


 よく見ると、俺の腕には糸のようなものが光っている。

 しかし糸を短剣で切ろうとしても、上手く切ることが出来ない。


「この糸は、俺の意志でしか切ることが出来ない特殊な糸だ!」


「へえ。強力な糸だ……が、すごい硬度には思えないんだよな」


 糸は俺の腕に巻きついてはいるものの、そのせいで腕が切断されたりはしていない。

 巻かれているのは、あくまでもただの糸に見える。


「切れないことは脅威だが、言い換えれば、ただの切れないだけの糸だ。それなら!」


 俺は勢いよく男に近づいた。

 男に近づく分には糸がたるみ、腕も自由に動かせる。


「あんたを倒せば消えるんじゃないのか? 糸を維持させようというあんたの意志が消えるんだから」


 俺は男の頭を持って、膝蹴りを食らわせた。

 あごにクリーンヒットの入った男は、その場に倒れた。

 その瞬間、俺の腕に巻きついていた糸が消えた。


「やっぱりな」


『薄々感じておったが、フィンレーは脳筋じゃよな? 気絶させれば何でも解決すると思っていそうじゃ』


(実際、解決しただろ)


『……儂、フィンレーは犯罪者予備軍だと思うのじゃ』


(失礼だな!?)


 ……って、ゴッちゃんにツッコミを入れている場合ではなかった。

 敵はもう一人残っているのだ。

 しかし最後の一人をにらんだ俺は、妙な既視感を覚えた。


「あんた、もしかして俺と会ったことがあるか?」


 男の顔には見覚えがあるような気がするが、どこで見たのかは思い出せない。


「会ったことがあるか、じゃねえよ!」


 男は苛立ちを隠さずに怒鳴った。

 この声にも聞き覚えがある気がする。


「うーん。会ったことがあるような気がするんだけど……でも知らない人なんだよな……」


 イマイチ思い出せない俺に、男が自身の名前を告げた。




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