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第24話


「俺はモーゼズだ!」


「モーゼズ……?」


『お前が初めてスキルを奪った相手じゃな』


 まだピンと来ていない俺を見兼ねたゴッちゃんが答えをくれた。


「ああっ! 超成長スキルのモーゼズ!」


 思い出した。

 モーゼズは二年前のスキル判定式の後、帰り道で俺に絡んできた少年だ。


 過去の俺は、彼のせいでミンディにアップルパイをあーんしてもらうことが出来なかった。

 しかし過去に戻ってきた俺は、彼を返り討ちにしてスキルを奪った。

 そのおかげで、無事にミンディにアップルパイをあーんしてもらうことに成功したのだ。


 このようにモーゼズのことは、苦い思い出、克服した思い出として記憶していたが、思い出の中のモーゼズはでっぷりとした巨漢だった。

 そのため目の前の筋肉質な男とあのモーゼズが結びつかなかったのだ。

 今も昔も年齢よりも身体が出来上がっていることは変わらないが、ダイエットでもしたのだろうか。


『痩せて鍛えた姿で、ミンディちゃんに再アタックするつもりなんじゃないかのう』


(ミンディは体型で人を判断するタイプじゃないと思うぞ。つまりモーゼズはまた玉砕するだろうな)


 それはさておき。


「超成長スキルのモーゼズが、どうして学校に忍び込んでるんだ?」


「うるせえ! その話をするんじゃねえ!」


 モーゼズが鼻息を荒くしながら怒鳴った。


「どうしたんだよ」


「俺は超成長のモーゼズじゃねえ。俺には超成長のスキルが無かったんだよ。あのあと何日経っても剣の腕も魔法の腕も並程度だったから、運営に連絡してスキルを判定し直したら、俺にはスキルが無いと言われた。最初の判定式でミスが起こったって」


「……そうか」


 もともとモーゼズには超成長のスキルがあった。

 しかし俺に奪われたことで、二度とスキルを使用することが出来なくなってしまったのだ。

 そのことを、当のモーゼズは知らない。


「俺はグレた。スキル無しだなんて、大ハズレも良いところだ! そんなのグレるしかねえだろ!? それで脅迫や窃盗を繰り返して……それもこれもスキルが無かったせいだ!」


 残念だが、それは違う。モーゼズのスキルが無くなったことは俺のせいだが、スキルが無かったとしても、まっとうに生きることは出来る。

 脅迫や窃盗を繰り返したのは、スキルのせいではなく、モーゼズ自身の「選択」だ。


「スキルに頼らなくても、努力をすれば剣も魔法も極めることが出来るぞ」


「俺が百の力でやっと出来ることが、超成長のスキル持ちなら一の力で出来るんだぞ!? やってられっかよ!」


 気持ちは分からないでもない。

 しかし持っていないものはどうしようもないのだから、地道に努力をすればいいのに。

 それが出来ないのは、モーゼズ本人の性格だ。


「スキル云々じゃなくて、単にモーゼズが何かを極めることに向いてないだけじゃないか? 努力することが出来ない性格ってだけだろ。その体型もダイエットじゃなくて喧嘩に明け暮れた結果と見た」


「うるせえ! 俺がもし超成長のスキル持ちだったら…………あれ。俺、スキル判定式の帰りにお前と戦った? しかも戦いながら成長してたような気がする……?」


 あっ。モーゼズが何かに気付いてしまったらしい。

 モーゼズに掛けた記憶混濁の魔法はとっくに解けているだろうから……うん、マズい。


「そうだ! 三対一で負けた情けなさから記憶を封印してたっぽいが、俺はあのときお前と戦いながら簡単に成長してた!」


 そりゃあ、あのときのモーゼズは超成長スキルを持っていたから。

 今はもう無いが。


「……お前、俺に何かしたのか!?」


『大正解ーーー!!』


 俺の代わりにゴッちゃんがモーゼズの質問に答えた。

 もちろんモーゼズには、ゴッちゃんの姿も見えなければ声も聞こえないが。


「そんなわけないだろ。あのときは俺も十歳だったんだぞ。十歳の少年に何が出来るって言うんだよ」


 信じてもらえるかは分からないが、一応否定をしてみる。


「きっと俺には本当に超成長のスキルがあったんだ! それなのにお前に奪われた!」


 駄目だ。モーゼズは俺の言葉を一切信じていないようだ。

 決定的な何かを思い出してしまったのかもしれない。


「俺のスキルを返せよ! 俺のスキルはどこにあるんだよ!?」


「あー……そこに無いなら無いですね」


「馬鹿にしやがってーーー!!」


 俺の答えを聞いたモーゼズが襲いかかってきた。

 サッと足払いをして、モーゼズの体勢を崩す。

 しかしモーゼズも負けておらず、体勢を崩しながらも俺の胸に短剣を持った手を伸ばした。


「……くっ」


 俺は避けきることが出来ずに、手で短剣を押さえる。

 手からはだらだらと血が流れているが、ここで短剣を離して心臓を刺されるわけにはいかない。


「こんのっ!」


 痛みを感じながら、短剣に力を込めるモーゼズの身体を蹴り飛ばす。

 攻撃に集中していたせいでモーゼズは足元がおろそかになっていたらしい。

 小柄な俺の蹴りでも、モーゼズを床に倒れさせることが出来た。

 そしてトドメとばかりに、モーゼズの頭にかかと落としを決める。


「……勝負あったな」


 しばらくぴくぴくとしていたが、ついにモーゼズは動かなくなった。気絶をしたようだ。


『危ないところじゃったのう』


(あれは本気で殺す気だったな)


『うむ。スキルを奪われた恨みがこもっておった』


(スキル……ああ、スキルを奪わないとな)


 俺はモーゼズから離れ、地図作成スキルの女と糸操りスキルの男から、スキルを奪った。




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