「おや。今日はお客さんが多いですねえ」
校長は、くるりと俺に背を向けて、机の方へと歩き出した。
何か聞こえてきたと思ったら、机の上に置かれた水晶玉には森の様子が映っている。
「便利でしょう? この水晶で外の様子が見られるようになっているんですよ」
「便利ですけど、机の上を片付けないと水晶玉が落ちて割れちゃいますよ」
「耳が痛いですねえ」
笑っている場合ではない気がする。だって問題の水晶玉は、本に押しやられて今にも机から落ちそうだ。
俺は起き上がって机の前まで行くと、水晶玉を安全な位置に移動させた。
その際に水晶玉に映っているものが見えた。
水晶玉に映っていたのは、何故か森で言い合いをしているアレッタとパトリシアだった。
(さっきのは絶対にフィンレーの声ですわ!)
(お前、そこ退けよ!)
(あなたこそ、と言いますか、あなたは誰ですの!?)
(んなことはどうでもいいんだよ。邪魔だって言ってんだ!)
(わたくしが邪魔ですって!? お口に気を付けなさい!)
(というか、なんでお前はこんな時間にこんなところに居るんだよ!?)
(自室の窓から、森へ入って行くフィンレーが見えたので、スキルを復活させるトラップを探しに行くのだと思って追いかけて来ましたのよ! でもそれがあなたに何か関係あって!?)
俺が寮から抜け出したことはバレないだろう、というフラグは、パトリシアによって回収されたようだ。
それにしても、二人して大声で何をやっているのだか。このままだと戦闘が始まりそうだ。
「フィンレー君、森へ行って彼女たちをなだめてはくれませんか? あまりこの場所を知られたくないものでして。君が出て行って説得をしたら、彼女たちは帰ってくれるでしょう?」
「……分かりました。スキル増幅石の破壊に協力的だった校長先生を、敵に回したくはありませんからね」
それに校長は師匠の師匠だ。逆らえるわけがない。
「二人が帰ったら、君も早く寝るんですよ」
俺は笑顔で見送る校長にお辞儀をすると、校長室を出て行った。
洞窟から出て、アレッタとパトリシアの声を目印に進んでいくと、すぐに森の中で悪口を言い合う二人を見つけることが出来た。
「二人とも、今日はもう帰ろう」
俺の声を聞いたアレッタとパトリシアは言い合いをやめて、一目散に俺のもとへと走ってきた。
「スキル増幅石はどこだ!?」
「スキル復活トラップはどこですの!?」
詰め寄る二人に、俺は苦笑いで告げた。
「そこに無いなら無いですね」