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第11話


「今ここにいるのがダンジョン探索希望者か」


「かなり人数が減りましたね」


 サークルの集まりで食堂へ行くと、食堂にはいつもの五分の一の数のメンバーしか集まっていなかった。

 美影と乾と、男連中が三人。そこに俺を合わせた全部で六人が、今回のダンジョン探索メンバーだ。


 事前にメッセージアプリで欠席連絡が飛び交っていたため予想通りといえば予想通りだが、実際に目の当たりにすると溜息が出てしまう。

 ここにいない大多数が、軽い気持ちでダンジョン探索に参加していたなんて。


「死体を見たんだ。潜りたくなくなる人も当然いるだろうな」


「ダンジョン内で殺人事件が起こったことに怯えてる人もいましたね。実は私もちょっと怖いです。参加しますけど」


「今いるのは、戦士が四人、回復術師が一人、魔法使いが一人っすね」


「バランス良く残ってくれたのはありがたいわね」


 確かにダンジョン探索に前向きなメンバーのバランスが良いことは助かる。

 これなら、ここにいるメンバーだけでもダンジョン探索が問題なく出来そうだ。

 むしろ少数精鋭で、足を引っ張る者がいない分、いつもより探索が楽になる可能性すらある。


「戦士の内訳は、格闘家が一人、剣士が二人、それに俺か。前衛が三人で、俺だけ後衛の編成が良いだろうな」


「宵野木先輩って、全員の顔と能力を覚えてるんですか? 探索者サークルはかなり人数が多いと思いますけど」


 すぐに戦士三人の具体的な能力を言い当てる俺のことを、乾が驚いた顔で見てきた。


「俺、他人の顔を覚えることが得意なんだ」


「便利な特技ですね。羨ましいです」


「宵野木君の特技の話はどうでもいいけれど、この人数での探索は初めてかもしれないわね。今回の作戦は?」


 雑談に逸れそうになった会話を、美影がダンジョン探索に引き戻した。


「いつも通り、モンスターを発見したら弱らせて美影に渡してくれ。そして美影がモンスターの操作権を入手したら、モンスターを先頭にして罠を確認しながらダンジョンを進む。ボスモンスターまでは、前衛職が敵を倒してくれ。怪我をしたら適宜後衛にいる乾に回復を頼むように」


「了解っす」


「作戦自体は人数が多いときと変わらないんですね」


「ああ。ただし、作戦自体は変わらないが、人数が少ない分サクサク進もう。無視できる雑魚モンスターとの戦闘はなるべく避けて体力を温存するんだ」


 四人の戦士のうち、前衛は三人だけだ。

 ちんたら戦ってモンスターに囲まれることは避けたい。


「そうっすね。無駄な戦闘はしない方が良さそうっすね」


「いつも通りボスモンスターは宵野木先輩が倒す流れですよね?」


「倒したいやつがいたら譲るぞ。ボスモンスターを倒したいやつはいるか?」


 俺以外の三人の男連中に視線を送ると、全員が首を横に振った。


「宵野木君なら遠距離から倒せるわ。わざわざ前衛がボスモンスターに近付くのはハイリスクよ」


「はい。私もいつも通り、宵野木先輩が倒す流れで良いと思います」


 美影と乾も、俺がボスモンスターを倒すいつもの流れに賛成のようだった。

 それならダンジョン内での作戦の話はこのくらいにして、次の話題に進もう。


「潜るダンジョンは、当初予定してたダンジョンでのどっちかでいいか?」


 俺は印刷をしてきたお決まりのダンジョンマップを広げた。

 そして先週末に潜る予定だったダンジョンの二つにマグネットを置いた。


「うーん。いつもよりも人数が少ないから、こっちのダンジョンに変更をするのはどうかしら」


 美影が俺の置いた物とは違う色のマグネットをダンジョンマップの上に置いた。

 予定していた二つのダンジョンよりも、小さく難易度が低いとされるダンジョンだ。


「なるほど。予定していたダンジョンは十人以上で潜るつもりで決めたっすからね。ダンジョンを変えるのはアリっすね」


「一理あるな。ダンジョンマップによると、こっちのダンジョンの方が難易度は低いらしい」


「その分、達成報酬も低いと思いますけど……でも、私も無茶をするのは嫌です。この人数で潜るのは初めてですから、簡単なダンジョンが良いです」


 難易度の低いダンジョンか。

 俺としては難しいダンジョンの方がスリルがあって好きなのだが。


 その気持ちが顔に表れてしまったのだろう。

 美影が俺を諭すように話し出した。


「ここに集まったメンバーは、ダンジョン探索に参加する意志があるけれど、でも死体を見つけた件の影響が全くないとも思えないのよ。自分でも気付いていないだけで、精神的にダメージを負っている可能性もあるわ」


「万全を期すに越したことはない、か」


「ええ。いつも通りではないのだから、用心するべきだと思うの」


「……みんなはどう思う?」


 集まった全員に質問をする。

 すると乾が遠慮がちに手を上げた。


「回復術師が私一人なので、私は安全なダンジョンの方がいいです」


 乾に続いて他のメンバーも手を上げて意見を言っていく。

 別に手を上げる必要はないのだが、まあいいか。


「今回は編成からイレギュラーなので、いつも通りの難易度のダンジョンに挑むのは危険だと思うっす」


「もちろんあたしも、こっちの難易度の低いダンジョン希望よ」


「弱気なことは言いたくないが、前衛が三人だけだしな。俺も念のため簡単な方のダンジョン希望だ」


「じゃあ俺もこっちのダンジョン希望で」


 俺以外は満場一致で難易度の低いダンジョン希望のようだ。

 それなら俺だけがワガママを言っても話が進まないだろう。


「分かった。たまには簡単なダンジョンに潜って、無双するのもいいかもしれないな」


「それ楽しそうだな。週末は無双しようぜ」


 こうして週末のダンジョンに向けた話し合いは無事に終わった。




「……で、宵野木先輩。あの後どうだったんですか?」


「あの後って?」


 荷物をまとめて帰ろうとしていると、乾が楽しそうな顔をしながら話しかけてきた。


「しらばっくれないでくださいよ。遊園地デートですよ。舞浜さんとイチャイチャしたんでしょう?」


「あー……今、舞浜とはちょっと気まずいかも」


「えっ。遊園地デートでどうして気まずくなるんですか? 待ち時間が長くて会話が続かなくなっちゃったとかですか?」


 遊園地では佐原と乾と別行動のまま解散をしたから、二人は俺たちがあの後どうなったのかを知らない。

 とはいえ舞浜から告白をされたことは、あまり言い触らさない方が良いだろう。


「そういうわけじゃないが……もうこの話はやめないか?」


「なんでですか? せっかくダブルデートをしたのに喜びを分かち合えないなんて」


「ダブルデート!? 俺と舞浜は付き合ってないからな!?」


「そうなんですか!? 私、てっきり……」


 俺たちが話していると、俺たちの会話を聞いたらしい美影がニヤニヤしながら近付いてきた。


「あら、宵野木君。楽しそうな話をしているじゃない。ダブルデートをしたの?」


「別に楽しい話じゃないぞ」


「それが、違ったみたいなんです。ダブルデートは私の勘違いだったようで……宵野木先輩は今フリーらしいですよ!」


 乾の言葉を聞いた美影が、ニヤニヤしたまま片手を上げた。


「じゃああたしが彼女に立候補しちゃおうかしら」


「美影は、隙あらば俺をからかおうとしてくるよな」


「あら。これも一種の愛のカタチだとは思わない?」


 そんな愛の形は嫌だ。

 そして美影は俺をからかいたかっただけらしく、ひとしきり笑うとさっさと一人で帰ってしまった。




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