宗太郎と鮎子は広島で新たな家族の時間を過ごし、静かな日々を積み重ねていた。花が生まれてからちょうど2年が経過した。鮎子のお腹に宿った命が花として実り、家族3人の絆はますます深まっていた。
花は2歳になり、元気いっぱいに歩き回るようになっていた。宗太郎は旅の続きを考えるようになり、広島での生活を振り返りながら新たな決意を固めた。これまで歩いて日本各地を巡ってきたが、鮎子と花の体調を考慮し、旅の負担を軽減する方法を模索していた。ある日、オランダ出身の友人ヨハンを通じて知り合った農家から馬を譲り受ける機会が訪れた。宗太郎はこれを機に、馬での旅を決心した。
「鮎子、花が2歳になった今、旅の続きを再開しようと思う。歩く旅はこれまで楽しかったが、そなたと花の体を考えて、馬を譲ってもらった。新しい旅の形を試したい。」
鮎子は宗太郎の手に寄り添い、微笑んで答えた。彼女の声には旅への期待と家族への愛情が込められていた。花は宗太郎の膝に座り、好奇心旺盛な目で父親を見つめていた。
「あなた、うん、馬での旅なら安心だね。花も楽しそうにしてるし、私もまたあなたと旅に出たいよ。広島を離れるのは少し寂しいけど、新しい思い出が作れるよね。」
宗太郎は鮎子の頬に手を添え、優しく微笑んだ。家族3人の未来を思い描き、旅の再開に胸が躍った。
「はい、鮎子、そなたと花が一緒ならどこへでも行ける。馬での旅は新しい挑戦だが、そなたの笑顔と花の成長が俺の力だ。広島での日々を胸に、再び出発しよう。」
出発の前日、宗太郎は自宅で旅の準備を進めていた。夕方、ヨハンが訪ねてきて、意を決した様子で懇願した。ヨハンの目は真剣で、日本の文化を母国に伝える使命感に満ちていた。
「宗太郎殿、私もそなたについて行きたい。オランダに日本の素晴らしさを伝えるためだ。旅を通じて見聞きしたものを、母国に持ち帰りたい。どうか頼む。」
宗太郎はヨハンの熱意に心を動かされ、これまでの友情を思い出した。ヨハンが振る舞ったオランダ風スープや、新聞記者・康次との交流で旅の評を広めた支援に感謝の念が湧いた。彼は頷き、決断を下した。
「ヨハン、そなたにも世話になった。わかった、では明朝ここに集合したまえ。そなたの目を通した日本の旅も楽しみだ。一緒に新たな道を歩もう。」
ヨハンは喜びを隠せず、握手を求めた。彼の声には友情と興奮が込められていた。
「ありがとう、宗太郎殿! 明朝、必ず来るよ。オランダと日本の架け橋になれる日を夢見るぜ。」
鮎子はヨハンの言葉を聞き、微笑みながら花を抱き上げた。
「あなた、ヨハンさんも一緒なら楽しい旅になりそう。花も新しいお友達ができたみたいで嬉しいよ。」
宗太郎は家族とヨハンを見やり、旅の再開に希望を感じた。馬が庭に繋がれ、荷物が整えられていく様子が新たな旅の始まりを予感させた。
翌朝、宗太郎、鮎子、花、そしてヨハンが自宅前に集まった。馬は穏やかに鼻を鳴らし、旅の準備が整っていた。辰五郎が玄関で見送り、孫と娘、そして友を見守った。彼の声には誇りと少しの寂しさが混じっていた。
「宗太郎、鮎子、花、ヨハン、無事に旅を続けてくれ。広島に帰ってきたら、また家族で会おう。俺はおじいさんとして待っておるぞ。」
宗太郎は辰五郎に頭を下げ、感謝を述べた。
「辰五郎殿、ありがとう。広島を拠点に、旅を再開します。そなたの期待に応え、家族とヨハンと共に素晴らしい旅を刻みます。」
鮎子は花を抱き、辰五郎に微笑んだ。
「お父さん、ありがとう。あなたに見送られて旅立つなんて、嬉しいよ。広島に帰ったら、また会えるよね。」
ヨハンは馬に近づき、宗太郎に助けられて鞍に跨った。彼の声には新たな冒険への意欲が込められていた。
「宗太郎殿、準備はいい。オランダの友人たちに、日本の美しさを伝える旅、始めようぜ!」
宗太郎は馬を手に持ち、鮎子と花を支えながら歩き出した。家族3人とヨハン、馬が連なる一行は、広島の街を後にした。旅の道すがら、宗太郎は花の笑顔を見ながら、旅の評を全国に広める決意を新たにした。瀬戸内海の風が彼らを包み、旅の再開が新たな物語を予感させた。