1年後、ダークレイムの街は少し変わっていた。
人間の商人や旅行者の姿が増え、魔物たちも彼らに慣れた様子で接していた。以前は考えられなかった光景だ。
ギルド「闇夜の爪痕」も忙しさを増していた。
人間と魔物が協力する合同任務が増え、種族を超えた冒険者チームも珍しくなくなっていた。
受付には今日も、青い肌のオーガ族の女性が立っていた。彼女の隣には、金髪の人間の男性の姿もあった。
「では、この依頼は承りました」ゾルガは微笑みながら依頼書を受け取った。
レオンは彼女の隣で、新人冒険者に助言をしていた。
彼は今、ギルドのアドバイザーという公式な役職に就いていた。
種族間の架け橋となる存在として、新人の指導を任されていたのだ。
「あのさ」レオンが休憩時間に彼女に近づいた。
「今度の休みは、人間の国の山に行ってみない?綺麗な温泉があるんだ」
「いいわね」ゾルガは嬉しそうに答えた。
「私、温泉行ったことないの」
「それなら決まりだ」彼は彼女の手を取った。
2人の指には、同じデザインの銀の指輪が光っていた。
正式な婚約を交わしてから3ヶ月が経っていた。
結婚式は半年後に予定されていて、両国から多くの来賓が招待されることになっていた。
「また物語にされるかもね」ゾルガは苦笑した。
「魔物と人間の初の公式結婚なんて」
「気にしない」レオンは肩をすくめた。
「僕たちはただ、自分たちの人生を生きるだけさ」
その通りだった。
彼らは歴史の象徴でもあるかもしれないが、何よりもまず、互いを愛する二人の存在だった。
ギルドの窓から差し込む夕日が、ゾルガの青い肌とレオンの金髪を赤く染めていた。異なる世界から来た二人が、同じ光に包まれている。
受付嬢としての日常は続いていく。
日々の小さな出会いや別れ、笑いや涙。そして、種族を超えた絆が、少しずつ世界を変えていく物語も。
魔王の国の首都・ダークレイムのギルド「闇夜の爪痕」では、今日も冒険者たちが行き交い、新たな物語が始まっていたのでした。
(おわり)