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第71話 ザッカートの秘密と引きこもる私

ギルド本部2階、個人部屋が連なっているフロア。

私は今一人でこの場所を訪れていた。


サンテスのお見舞いに行くところだ。


「えっと……ふふっ、みんな真面目だよね。ちゃんと名前書いてある。可愛い♡」


盗賊団という一般的には忌避きひされる職業の彼等。

世の中の盗賊団は数あれど、ここまで規則正しい盗賊団は他にはいない。

頭領のザッカートの影響か、彼らはとっても真面目だった。


暫く部屋の名前を確認しながら歩いていると、わずかに開いた『ミルライナ』と書かれたプレートのあるドアから話声が聞こえてきた。

ちょっと興味を持った私はそっと耳を傾ける。


(……男の人たちって……どんな話してるんだろ?)


何故かいけない事をしているような感じに私はドキドキと胸を高鳴らせてしまう。

この後激しい後悔に襲われるとも知らずに。


「……お前今回、かなり活躍したみてえだな、あのクソガキ、シメたんだって?」


(この声……レイルイドだね)


「まあな。でも当然だろ?あのクソガキ、美緒さまの胸触りやがったんだ。しかもあの美しい髪の毛まで匂い嗅いだんだぞ?ぜってえ許さねえ。殺されないだけ感謝してほしいくらいだぜ」

「あー、まあな。……お前、美緒さまの事……どう思ってるんだ?」


(あとはやっぱりミルライナだねっ、て……!?ええっ?な、何で私の話?………ど、どうしよう…い、いまさら顔出せない?!)


「どうって……美緒さまは俺の女神だ。敬愛を捧げるただ一人のお方だ」

「おまっ……はあ。……ったく、もっとこう、ねえのか?お近づきになりたいとか」

「ば、馬鹿なこと言うなっ!!……恐れ多い。……まあ、そ、そりゃあ、お、俺だって……」

「んん?ほう?俺だって、なんだ?」


(はうっ!?こ、これは……聞いてはいけない事なのでは?!!)


私は一人顔を赤く染めパニックにおちいっていた。

しかし話はどんどん続いていく。


「か、か、可愛い……って思う」

「うんうん。美緒さまは超可愛い。そうそう。そういう事。……なんだよ、安心した。……お前も思いつめすぎるなよな?親方みてえに自爆するんじゃねえぞ?あんな顔する親方、もう見たくねえっつーの」


(ん?……ザッカート、自爆???なんだろ……)


「ん?ああ、娼館の件か……あー、確かにな。気持ちは分かるけど……ありゃあねえよな」

「秘密だぞ?親方あれで結構乙女なんだ。俺達みんなが知っている事バレたらそれこそ家出しちまうぞ?」

「当然だ。言う訳ないだろうが。大体俺は親方にだって返せねえ恩があるんだ。裏切る真似は絶対にしねえよ。お前らだってそうだろうが」


(……しょ、娼館?……お、男の人は……う、うん。しょ、しょうがない事よね。うん)


「それにしてもなあ。好きなら好きって言っちまえばいいのに。俺は断然応援するけどな」

「うーあー。だ、だけど……美緒さまが誰かの物になるとか……考えたくねえな」

「わかる。俺達じゃ釣り合わねえけど……美緒さま優しいもんな。……ほんと俺達上司には恵まれてるよな」

「違いない。……まあ分からなくもねえけどな。俺だって恥ずかしいけど、何度美緒さまのこと思いながら……お、おい、笑うなよ?しょうがねえだろうが。お前の言う通り美緒さま可愛いんだ。それに誓って手を出したりはしねえし……」

「わりいわりい。ははっ、心配すんな。みんな同じだ。そしてみんな心の底から信望している……けどな、最近の副団長みてみろよ?ありゃあ完全に美緒さまにイカレちまってる。まあ副団長は間違っても代わりなんて頼まねえだろうけどな。そもそも娼館行かねえし?あの人一途だから」

「おいおい、蒸し返すなよ。親方だって一途だろ?普段娼館なんか行かねえ人だ。俺達の付き添いだけじゃんか。……あの時くらいだろ?……あんとき親方すっげ―悩んでたしな。……なんかあったんだろうさ。……わざわざ美緒さまに似てる黒髪で小柄の若い女、さらには小さめな胸を選ぶくらいだ。……死にそうに後悔してたらしいが……っ!?」


突然ドアの外に人の気配が膨れ上がる。

自分の部屋に居たことで警戒を解き、ゆるみ切っていたミルライナが即座に部屋を飛び出した。


「っ!?なっ?!……み、美緒さま?!」

「あ、あう、そ、その…ご、ごめんなさい」


真っ白だった。

頭の中……完全に何も考えられなくなっていた。

私は聞こえた話に理解が出来ずになりふり構わず自室へと転移し、布団をかぶり頭を抱えてしまう。


心臓が爆発するくらい激しく高鳴る。

目がぐるぐる回り、感情がまとまらない。


(私が好き?!!……私に似てる女……ザッカート????……えっちなこと……大人のそういう事……)


「うわあああっ!!うわあ!!!ひううっ!!!!わああっ!!」


声にならない声を上げる私。

ダメだ、全く理解が追い付かない。


やがて少しずつ落ち着いていく。

そしてさっきの言葉がリフレインしてしまう。


「……私に似た女と……ううっ」


思わず枕を抱きしめる。

自分の感情が分からない。


嬉しい?怖い?気持ち悪い?……

分からない……


ザッカート……

最近凄く優しい。

さっきだって……


きっと私、彼のこと好き……だと思う。

もちろん親愛の感情は上限を突破している。

もう家族同然だ。


だけど……


うあああああ、ど、どうしよう。


彼が私の体を………??

キ、キスとか……

え、えっちな事とか?!!!


したいから、選んだ?

本当は私と……したい???


「うあああああっ!!!!」


ダメだ、想像できない。


もちろん私だって知識くらいはある。

えっちな事だって、情報としては知っている。


でも……


「うああっ、うああああああああっっ!!……うああっ!!」



※※※※※



私は何とそれから2日間。

部屋から出る事が出来なくなってしまっていた。


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