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第74話 聖王国に走る激震

侯爵家襲撃から5日。

余りに濃い5日間が過ぎ、美緒はリンネとエルノール、それからレルダンを率いてシュルツハイン城聖王の執務室を訪れていた。


今日はリンネが宣言した『選別』の日。

すでに謁見の間には多くの貴族、そして聖職者が一堂に会していた。


「ふむ。エイレルドよ。参集具合はどうだ?」

「はっ、リンネ様。重病で来られないものは代理を来させておりますゆえ、全ての対象者、集結しております」


リンネの問いに聖王であるエイレルドが跪き返答する。

何故か顔を赤く染め、目は潤んでいた。


「……ねえエルノール?エイレルド聖王、具合でも悪いの?」

「いいえ。かの御仁はリンネ様に惚れております。嬉しいのでしょう」

「っ!?ほ、惚れている?」


その様子に驚いていると宰相であるヒルニガルド公爵がうやうやしくひざを折り、美緒に対し頭を下げた。


「ゲームマスター美緒さま。この度は御足労、まことに感謝に堪えません」

「え、えっと……そ、その、顔を上げてください。ヒルニガルド宰相」

「ありがたき幸せ。それでは失礼して……っ!?」

「???」


顔を上げ美緒の顔を見る宰相。

たちまち赤く染まる顔。


「お、おお。…創造神様の仰っていたことは誠であった……なんと美しい」

「えっ?……そ、その…ありがとうございます?」

「もったいないお言葉」


ねえ。

リンネ?

貴女何言ったのよ?

宰相目が輝いて、思考がどっか行っちゃってるよ?


「美緒、そろそろ時間のようだ。宰相殿、移動した方が良いのではないか?」

「はっ?!そ、そうですな。……エイレルド聖王、そろそろ」

「う、うむ。そうであるな。……ゲームマスター殿、よろしいだろうか」

「は、はい」

「……流石リンネ様の姉上。お美しい。エスコートは必要であろうか?」


その言葉に反応するレルダンとエルノール。

間をさえぎるように入り同時に二人が私に手を差し出した。


「美緒さま、どうぞ」

「美緒、私がエスコートしよう」


うあ、二人同時?

なんかリンネニヤニヤしてるし?

うう、どうすれば……


「ふむ。ゲームマスターである姉上のエスコートだ。ここは創造神である私の役目だな。さあ姉上?お手を」


なぜか世界の終りのような顔をするエイレルド聖王。

あー、リンネのエスコート、楽しみにしていたのね。


私はエルノールとレルダンの手を同時に両手で取った。


「エルノール、レルダン。……お願いできますか?」

「っ!?は、はい」

「光栄だ。美緒」


差し出した手をプルプルさせ手持ち無沙汰になるリンネ。

ジト目を私に向ける。

私はそんな様子ににやりとし、聖王に声をかけた。


「エイレルド聖王様?我が妹、リンネの手が空いております。……エスコートお願いできますか?」

「っ!?おおっ、さすがはゲームマスター様。仰せのままに。…さあ、リンネ様、お手を」

「………チッ……ええ、お願いしますね」

「ありがたき幸せ」


そう言いまるで宝物に触れるように顔を染め優しくリンネの手を取る。

うあ、色気が半端ない。

……マジだね。


流石にリンネも気付いたらしく、薄っすら顔を赤らめる。

リンネ可愛い♡


「も、もう、美緒、そんな顔しないで。……恥ずかしいじゃない」

「はうっ、り、リンネ様……おお、なんて尊い…」

「……エイレルド、黙って」

「っ!?……は、はい」


その様子に今度は全員が生暖かいものを見るような目を向ける。


「?!もう、ふ、不敬!!」



※※※※※



謁見の間には100人近い貴族と、各町に在る聖教会の責任者、聖教会本部の重責者などおよそ100名、合計200名ほどが整然と整列していた。


すでにリッケル侯爵が失脚し、断罪されることは皆聞き及んでいる。

もちろん教皇であるモードレイの事、そしてその時一緒に居た取巻きたちのことも


まさに今彼らは断罪されるような心境で、戦々恐々としていた。


「それではこれより、選別の儀を始める。創造神リンネ様、お言葉を」


宰相のヒルニガルド公爵が開式を宣言しリンネに視線を向ける。

リンネは魔力をたぎらせ、全員を見渡した。


「この国は腐っている。ひとえに聖王の力不足であろうが、貴様らにも責がある。滅ぼすのは簡単だ。この瞬間にも我の魔力でことごとく滅ぼせる。だがそれはわが姉、ゲームマスター美緒の望むものではない。心せよ。民たちの為に。……今からゲームマスターの奇跡の力、鑑定を持ってそなたたちの心を覗かせてもらう。拒絶することは反逆と同意であると知れ」


ざわめく貴族たち。

そして一部の聖職者が声を上げた。


「お、横暴だ。な、なんの権利があって…」

「そ、そうだ、そうだ。……大体人間を鑑定する?あり得ない。……きっともう決まっているんだ。これは我らリナミス様を崇(あが)める聖教会に対する冒涜だ」


便乗し陰に隠れながら声を上げる男。

彼は聖教会の資金を管理する教会の2番手だ。


その男の正面に突然リンネが姿を現す。

そしておもむろに胸ぐらをつかみ上げ引きずり出し美緒の前へと放り投げた。


「ふむ。ならば貴様が最初に体験するといい。美緒、遠慮はいらない。レジストすらできない全開でこの男を鑑定して」

「うん。分かったよ……はああ『鑑定』!!……?!……在りえない……」

「ぐ、ぐうっ?!な、なんだ?この感覚……ひぐう、ぐあああ……」



※※※※※



美緒は鑑定の結果を、この会場全ての者と『同期』した。

そして全員に流れ込む情報。

皆が息をのみ、多くの教会関係者が目を見開く。


そして崩れ落ちる邪神リナミスの眷属たち。



教皇補佐筆頭ルイジード・リスパニア

48歳。

ヒューマン。

ジョブ聖職者

サブジョブ異常者(邪神による付与)


妻キャメロン44歳。

長男ルイス25歳。

次男ナルサス22歳。

長女ナイマルナ20歳。


邪神リナミスの眷属(傀儡状態)


教会の教義(邪神により歪められし物)により175名を殺害。

同じく若き女性221人を凌辱、53名を殺害、168名を娼館へと人身売買済み。

(同じ邪神の眷属となった聖職者29名が同じように彼女たちを凌辱)


助けを求めてきた貧民を騙し違法の薬物での実験を行う。

その犠牲者381名。


私腹を肥やし大手の商会とつながり金貨22615枚を不当に所持。

妙齢の女性に対する凌辱では飽き足らず、年端のいかぬ8歳から12歳の少女に乱暴を働く被害者数132名。

(うち精神が崩壊し自死した子68人、娼館ないし幼女愛好家へ64人、以降弄ばれ死亡)


合計741人もの民衆の命をその手に掛けていた。


精神は傀儡状態。



※※※※※



美緒の鑑定。

凄まじい力を持っている。


全力で行った鑑定。

それゆえ情景までもが皆に共有されていた。

余りの悍ましい情景に、思わずえずく美緒とリンネ。


「……貴様、何か言う事はあるか?」


口元をぬぐい、ゆらりと立ち上がり魔力をまとい睨み付けるリンネ。

ルイジードはがっくりとうなだれ、まるで懺悔(ざんげ)するかの如く涙を流しとぎれとぎれに口を開いた。


実はこの鑑定、同時に美緒は『隔絶解呪』も行っていた。


彼、ルイジードは解呪され、邪神リナミスの束縛から解放されていたのだ。


「私は……何とおぞましいことを……ゲームマスター美緒さま」

「……はい」

「どうかわたしを、断罪してください。……もう生きている事、できませぬ。目が覚めた今……それだけが私にできること。どうか我が資産、全て被害に遭われた皆さまの補償に」


「……分かりました。後で沙汰を決めます。控室へ」

「…はっ」


水を打ったように静まり返る謁見の間。

退出するルイジードの足音だけが響き渡っていた。


「…美緒、大丈夫か?」


ふらつく私を支えてくれるレルダン。

彼の大きな手から私をいたわる気持ちが伝わってくる。


「……ありがとう、レルダン。………貴方がいて…心強いです」

「っ!?……光栄だ」


「さて、皆実感したであろう?わが姉、ゲームマスターである美緒の力を。よもや覗かれ晒される愚を犯すものはいまい?正直に全てを話せ。ヒルニガルド」

「はっ」

「これを」


リンネはおもむろに魔刻石を取り出しヒルニガルドへと手渡した。


「こ、これは……魔刻石?見たことのない術式……もしや?」

「うむ。美緒の鑑定の術式だ。ある程度は覗けよう。任せて良いか?」

「はっ。このヒルニガルド、誠心誠意職務を全ういたします」

「任せた。エイレルド」

「はっ」

「王たる貴殿にここの取りまとめを頼む。わが姉は消耗された。少し休むがよいな?」

「仰せのままに」


そうして数時間をかけ、聖王国のすべての貴族の鑑定が行われた。

問題のある貴族49名。

邪神に乗っ取られていた聖職者42名。


合計91名が断罪される事となった。


聖王国フィリルス。

その再生には激しい大激震が走ることとなった。


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