聖王国フィリルスで鑑定した夜。
私はサロンで
先ほど鑑定で見てしまった
それに比べ何と美しく誇り高い肉体か。
「ひうっ?!!…み、み、美緒さま?!!!」
「ふふっ、サンテスの肩、スッゴク硬いのね……凄い…カッチカチ」
何故か顔を赤らめますます固くなるサンテス。
私はそっと彼の背中を撫でてみた。
ビクッと肩を震わすサンテス。
彼は顔に似合わないような可愛い声を出し、私はなんだかおかしくなってしまう。
本当にさっきのあの男とは大違いだ。
「ふふふっ、サンテス、可愛い♡……マッサージしてもいい?」
彼の筋肉がしっかりと付いている肩。
私は鍛え上げている彼の肩を揉んでみる。
「凄い……あなたは本当に凄いわ……はあ、なんて鍛え抜かれた筋肉」
あまりの美しさに、私は彼が人知れず鍛錬に明け暮れている情景が浮かんできて胸が熱くなってきた。
本当に、本当に大違いだ。
私は思わず顔を赤らめ、彼の大きな背中に体を預ける。
皆を守るタンク。
その誇り高いジョブを持つ彼……
「私貴方を尊敬します。……5倍クリアしたのでしょう?」
「へ、へい」
「貴方は努力が出来る素敵な人。……ねえサンテス?」
「へ、へい?」
「心臓、凄く早いね」
「っ!???????」
私はそっと彼の背中に耳を当て、心臓の鼓動を聞いてみた。
とくん、とくん、ドックドックドック……
どんどん早くなる心臓。
「貴方の背中……温かい。……凄く安心する」
きっと知らないうちに私はショックを受けていたのだと思う。
だから努力をし、鍛え上げた彼の背中が愛おしくなってしまっていた。
私はそっと自分の体重を預ける。
大きな彼の背中。
彼の温かさが伝わってくる。
誠実な人柄も、伝わってくるようだ。
「……え、えっと……あのね?」
「ひ、ひゃい?!!」
そんなことを思ったせいなのだろう。
私は不意にお父さんの背中を思い出していた。
小さい頃よくおんぶをしてくれたお父さん。
急に私はおんぶしてほしくなってしまう。
「い、嫌なら言ってね……おんぶ、して欲しい、かも……」
「っ!??????」
そっと手を回し、彼に抱き着くような格好になってしまう。
皆が息をのむ。
周りの皆の視線が凄い事になっているのに気づく。
……あれ?
わたし………?!!!!!
とんでもないことしてない?!!!
それになんだか、サンテスの様子がおかしい?
あれ、彼……はっ?!呼吸してない?!!!
慌てて私は回り込み正面から彼を見た。
白目をむき、鼻血を出し意識を失っているサンテス。
たまらずにザッカートが駆け付け私を引きはがした。
「カ、カシラ、どうしたんだ急に?…お、おいっ、サンテス?しっかりしろ、お、おいっ!!」
「あうっ、ど、どうしよう?回復?それとも解呪?」
「あ――――、と、取り敢えずカシラは離れてくれ。サンテスには刺激が強すぎる」
「……刺激?」
そして大きくため息をつくザッカート。
ジト目を私に向ける。
いつの間にかレルダンもすぐ近くに来ている?
「美緒、少しいいか?」
「う、うん。なにかなレルダン」
「お前は可愛いんだ。皆がその、憧れている」
「へ?……憧れて…いる?!!!」
「その、あまり……むやみに男性に触れない方が良い」
「っ!?」
気付けば周りの男性たちが顔を赤らめ私を見つめていた。
いつもよりも情熱的な視線に、私は思わず怯(ひる)んでしまう。
「…昼間の事がショックだったという事は分かる。俺だって胸糞悪いくらいだ。……御父上の事でも思い出したのか?」
「っ!?……う、うん。……あ、あのね?」
「言ってみるといい。話すだけでも気が楽になるものだ」
優しい瞳で私を見てくれるレルダン。
なぜか涙が出てきてしまう。
「……サンテスの頑張っている背中を見ていたら……なんか、お父さんの背中を思い出して……おんぶしてほしくなっちゃったの。……うん、軽率でした。ごめんなさい」
背中とはいえ私は無防備に抱き着いていた。
きっと感じたと思う……わ、私の……む、胸の感触も……
気付いた事実に私は顔から火が出るほど真っ赤になってしまった。
そしてそっとレルダンが私をハグしてくれた。
凄く優しく、ただ包み込むように。
「……レル…ダン……グスッ……ありが…とう……あなたは…とても紳士なのね」
「……本当は力いっぱい抱きしめたい」
「……え?」
「でも今の美緒はまるで子供のようだ。……見てられん……君の父親にはなれんが…辛い時にはいつでも胸くらいは貸そう」
「……うん」
彼の手から私を思いやる気持ちが伝わってくる。
気付けば周りの皆も優しい表情で見つめてくれていた。
昼間鑑定で見えてしまった光景。
無垢な泣き叫ぶ少女に乱暴を働くいやらしく顔を歪ませた男。
頭にこびりついて離れない、悪夢のような情景。
でも。
レルダンの想いが、皆のいたわる気持ちが、私の心を溶かしてくれる。
私は本当に仲間に恵まれていたんだ。
※※※※※
翌朝、私はサロンでサンテスに謝罪した。
「サンテス、ごめんなさい。……驚かせちゃったね。もうしないよ?安心してください」
「う、あっと……美緒さま」
「は、はい」
「その……嬉しかったです」
「っ!?」
「俺っちの努力、認めてくれたんですね」
サンテスはキラキラした目で私を見つめる。
私は彼の奇麗な薄緑色の瞳を見て、心の底から安心感があふれ出してきた。
「もちろんです。……あなたは誇り高い皆を守る要の人です。……大好きです。これからも私を助けてください」
「へ、へい。……へへっ、俺っちは幸せです。美緒さま、俺っち、次は新しいジョブに挑戦します。タンク、カンストしたんす。期待して下せえ」
「うん」
私はがっしりしている彼の手を取り、握手をした。
彼の手は、鍛え抜かれまるで鉄のように硬かった。
でも。
とっても暖かくて……
安心できる、最高の手だったんだ。
その様子を皆が優しい瞳で見ていてくれていた。
※※※※※
「ねえ美緒。……もう大丈夫?」
自室に戻った私にリンネが付いてきていてくれた。
彼女もまた同じ光景を見ている。
そしてわたしよりもずっとつよい。
リンネが私を見つめ呟く。
私は頷きにっこりとほほ笑んだ。
「っ!?……なんか美緒、ここ最近ですっごく成長したね。なんか大人の女性みたい」
「そんなことないよ?……でも、安心はしたかも」
「安心?」
「うん。…私引きこもったでしょ」
「……うん」
私は想いを乗せ、リンネと同期した。
私とザッカートの秘密。
どうしてもリンネには知っていて欲しかった。
「っ!?……全く。そういう事だったのね」
「ごめんなさい」
大きくため息を吐くリンネ。
そして私の手を取る。
「やっぱり成長したよ?お姉ちゃん♡」
「……そう、かな」
「うん」
※※※※※
もう一人の私が経験した新しいルート。
その時の私は多分余裕なんてなかった。
でも今の私には信頼のおける多くの仲間がいる。
私は地球にいた時ゲームしかしていなかった。
だから年齢の割に経験はとても浅い。
どうしても心が蹲ってしまう事がよくある。
でも今の私は、前を向ける。
なんだか私は新しいスタートが切れる気がして、気が付けば漠然とした心細さが無くなって居た。
さあ、どんどん行こう!!