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第76話 聖王国の再生の苦しみ

鑑定を終え今聖王国フィリルスは混乱に包まれていた。


断罪された貴族についてはさほど大きな問題には発展していない。

むしろ悪逆な領主や権威のあるものが一掃され、まっとうなものに引き継がれた。


混乱はあれど、領民の暮らしは改善されていく。


しかし特に大きな問題として浮上していたのが相当深くまで聖教会の信仰心を集めその影響で国の隅々まで、さらには近隣諸国にある聖教会へまで影響力を持つ邪神リナミスの討伐だった。


人の信仰心は厄介だ。

もちろん本来の教義の通り弱い立場の物を守る崇高な者たちも存在している。

しかし多くの聖教会では悍ましい騒動が巻き起こっていた。

今聖王国の多くの兵士たちはその対応に苦慮していた。



※※※※※



重い雰囲気に包まれる聖王の執務室。


今この部屋では聖王エイレルド、宰相であるヒルニガルド公爵、そして近衛兵長で聖王国最強の騎士、ガルメイ・ドッテス子爵がしかめっ面をし、顔を付け合わせていた。


「ガルメイ」

「はっ」

「討伐は可能か?」

「……正直手に余るか、と」


ガルメイのレベルは71。

この世界ではかなりの強者だ。


ジョブは宮殿騎士。

どちらかと言えば守ることに特化しているスキル構成をしていた。


10年ほど前にいきなり現れ、聖教会の本部を瞬く間に掌握した女性リナミス。

元々他国の王族を名乗る彼女は、自身のスキル『救済』を理由に教会のトップへと上り詰めていた。


当時彼女は32歳。

妖艶な雰囲気の陰のある美女。


教皇であるモードレイは即座に彼女の軍門に下っていた。

一説では欲情した彼が逆に手玉にとられたとまことしやかにささやかれてはいたが…


思えばそのころから聖王国は歪み始めていた。


前聖王であるエイレルドの父親ルプナミスは最初から彼女が怪しいと事あるごとに訴えていたが、すでに権力を手中に収めていたモードレイに対し、結局手を出せずに急死する事となってしまっていた。


今回の鑑定は聖王国に激震をもたらした。


前聖王ルプナミスは側近である彼の弟アデリア公爵、現宰相であるヒルニガルドの弟により毒殺されていた事実が判明していた。


聖教会の魔の手は、すでに中枢までその手を伸ばしていたのだ。


「……ゲームマスター美緒さまには感謝しかないな」


ふいにつぶやくエイレルド聖王。

確かに今回聖王国はまさに滅ぶほどの激震に襲われていた。

しかしもし気付かずにあのままであったなら……


早晩聖王国は歴史からその名を消していただろう。

最悪の事態を引き起こして。


「エイレルド聖王……美緒さまたちに助力を願いませんか?我々は今国を立て直すのに全精力を注ぐ必要があります。その最たる根源である悪魔の眷属、我々では対応できませぬ」


問いかけられたエイレルドは遠い目をしてしまう。

確かにそれしか今回の困難、解決の道はないのだろう。


ただ、彼にも矜持がある。

人生で初めて惚れた女性。

恐れ多くもその方は創造神という人知を超えた存在。


比べるのも烏滸がましいがエイレルドは彼女にこれ以上情けない姿を見せたくなかった。


大きくため息をつく。

そして真直ぐに宰相の瞳を見つめた。


「……民が居なければそもそも国など何の価値もない。下らぬ矜持なぞ何の価値もない。……宰相、連絡が取れるのだろうか」

「っ!?……ふっ、成長されましたな。……ええ。通信石よりも数段性能の優れた魔刻石を預からせていただいております。救援の要請、すぐに」


こうして再生へのファーストミッション、邪神討伐。

美緒たちゲームマスター一行へそのオーダーがもたらされた。



※※※※※



「みんな、私に力を貸してください」


ギルド本部サロン。

美緒は皆の前で真直ぐ彼らを見つめ宣言した。


ここ数日の様々な経験で美緒は見違えるほどの成長を遂げていた。

そのまなざしは既に神々しく、その姿はまさに絶世の美しさが醸し出される。


誰もがその姿にため息を零してしまう。


「今回の相手、悪魔の眷属です。一筋縄ではいかない相手。特に邪神とまで崇められているリナミス。この10年力を蓄えた彼女はまさに今までで最強の敵となるでしょう」


静まり返るサロン。

皆の注目が美緒に集まる。


「少数精鋭で臨みます。彼女は惑わす力に特化している。異性では抗うのは難しい。…ルルーナ、ミネア、ミリナ。……そしてミカ」

「「「は、はい」」」

「にゃ」

「それと私とリンネ、その6人でパーティーを組みます。ザッカート」

「おう」

「貴方は部隊を編成し正教会本部と近隣各地の教会の制圧を。……出来ますか?」

「当たり前だ。任せろ」


美緒はにっこりとほほ笑む。

顔を染めてしまうザッカート。


(くそっ、もう勝てねえ。……マジで化けやがった。……畜生、いい女になっちまいやがって)


わずか数日。

すでに美緒はその精神に経験を刻み付け、はるか高みへとその存在自体を昇華させていた。


誰もが納得せざるを得ないその美貌。

そしてそれを凌駕する精神性。


美緒は完璧な超絶美女へと称号自体まで進化、さらにそのレベルを上げていた。


「レルダン」

「はっ」

「ザッカートの補佐、あなたに任せます。一人たりとて欠けること、許しません」

「承知」

「マール、アルディ、エルノール、それにレグ」

「うむ」「はいはい」「はっ」

「ふふっ、なんなりと」


「貴方たちは転移魔法で二手に分かれてください。聖王国遠方にある聖教会とその施設の監視と虐げられている民の保護を。全力を許します。数人連れて完遂してください。無辜の民、守ってあげてください」


「ドレイク」

「おう」

「隣国ゾザデット帝国に不穏な気配を感じます。確かあそこには転移門がありますので、モナークと二人探ってください。……聖教会に気を付けてください」

「わかった。……心配すんな。無茶はしねえ」


「ダリーズ、カイ」

「「はっ」」

「あなたたちは転移門を使い神聖ルギアナード帝国へ赴き戦える勇士2名を伴い、4名でシュルツハイン城の兵たちとともに警戒を。第2拠点の守りは3名にしてください。人選は任せます」

「「はっ」」


よどみなく紡がれる美緒の指示。

軍師のスキル、全員にその効果をもたらす。


皆の心の底から力が沸き上がってくる。


「勝ちましょう。そして掴みます。……終わったら全員でパーティーしましょう」

「「「「「「「「「「「「おうっ!!!!」」」」」」」」」」」」


思えば初めての戦闘に特化したミッション。

力を蓄えた人外集団のデビュー戦。


歴史は目撃する。

その鮮烈までの彼らの力を。



※※※※※



「ひゃははっ、終わりだ、もうおしまいだ……せめて最後くらい…好きにさせてもらう」

「ひいっ、いや、やめて……」

「あうっ、痛いっ!!」


聖王国北方の辺境の町ノーズイック聖教会の一室。


二人のうら若きシスターがまさに今教会の聖職者、同僚であった5名に、その純潔を散らされそうになっていた。


「はあ、はあ、……ずっと目に焼き付いていた……けしからん体だ…無駄に育ちやがって」

「うあ、いや、やめ、痛いっ」


そう言い女性の胸を力任せに握り締める。

激しい痛みと恐怖に彼女は涙を止める事が出来なかった。


「おとなしくしろ……今からお前らに慈悲をくれてやるんだ……なあに、5人全員でお前たち二人をじっくりたっぷり犯してやる。ずっと見てたんだお前のその体を。ずっと我慢してた。ああ、もう我慢できねえ……神リナミスよっ!!感謝を!!……簡単に死ぬなよ?……感謝しろ?ひゃははははっ!!!」


いうが早く乱暴に切り裂かれるシスターの修道服。

白くたおやかな肢体がさらされる。

5人の悍ましい欲望にまみれた手が彼女たちを押さえつける。


「い、いやあああああああ―――――――――!!!!!」

「クズが。ふむ。もう心配はいらない」


刹那、彼女たちは清廉な風を感じた。

伝説の忍、マールデルダ。

禁忌の魔女ガーダーレグトとともに、5人の狂信者の首を刎ね、二人を見下ろし佇んでいた。


二人の純潔が守られた瞬間だった。



※※※※※



「ねえエルノール」

「ああ。……ここまでとは。……これは私たちの仕事だ。美緒さまに見せられる事ではないな」


聖王国東方の辺境の地モズウェル地方の聖教会が運営する孤児院。


夥(おびただ)しい数の子供の死体が散乱する中、襲われていた幼女を保護したところだった。


「人はさ、弱いんだよ。……僕は2000年、いくつもの悲劇を見てきた。……神があきれるのも良く判る。これもまた人の本性だ。……ねえ、僕たちは本当に正しいのかな」

「正しいさ。何よりも美緒さまの願いだ」

「……そうだね。ははっ、君も随分と成長したんだね」

「そうありたいと願う。……私は美緒さまを諦めることなんてできない」

「ははっ、羨ましい。……僕にはもうその資格はない」

「………コホン。次を当たろう。まだ助けられる命はあるはずだ」

「……そうだね」


街の領主館へ保護した数人の子供を預け、二人は次の街に転移していった。



※※※※※



「おいおい、どうなっていやがる」

「……ああ、こりゃあやべえな」


美緒の指示でゾザデット帝国へと訪れたドレイクとモナークは帝都の転移門の施設を出た瞬間、あたりを包む異様な瘴気を感じ、身震いをしてしまう。


街の人々に異変は見られない。

ただすべての人が咳込んでいたり、何故か暗い表情をしていた。

おそらく慢性的にこの瘴気にさらされていたのだろう。


気付かぬうちに、精神までをも侵食されていた。


「……城だな」

「ああ。どうする?探るか?」


ちらりと瘴気の濃い方へと視線を投げる。

その先には帝国の皇帝の居城である、ソルジード宮殿がその荘厳な威容を誇っていた。


「……帝国は聖教会が国教ではないよな」

「ああ。確かこの帝国は建国の英雄である大地の大精霊を信仰していたはずだ」


「よし。……おい、隠密のスキル、あてにするぞ?」

「任せろ。……デストロイヤーはそういう系当じゃねえのか?」

「あん?お前の方が上だろうよ。…信頼してるぜ」


一瞬で気配が消える二人。

そして城へと忍び込むため、素早く移動を開始していた。


これが新たなシナリオへと繋がっていくきっかけとなる。


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