一方指示を出し、皆を聖教会本部前へと転移させた後、美緒は今ウィリナークの街にいるロッドランドを訪れていた。
「美緒さん?!……どうしたの?……僕に協力できることなの?」
私の表情を見て即座に正解にたどり着くロッドランド。
彼はまさに最強の聖騎士の資格を得ていた。
「ええ。あなたの助けが欲しい。邪神を討伐します」
「っ!?……詳しく聞いてもいい?」
「もちろん。……ティリミーナは?」
いつも彼の傍にいるティリミーナ。
そばにいないのは珍しい。
ロッドランドはなぜか遠い目をし、ため息交じりにつぶやいた。
「里帰り中、なんだよね」
「ん?里帰り?」
「うん。この前違う妖精が来てさ、えっと、ディーネさん?レグさんの監視役だった…。何でも精霊王様が用事あるらしくて」
あー、確かティリミーナ、勝手に飛び出していたのよね。
それにこれって……
うん?
違和感がある?!
「それで相手は何?僕、確かに美緒さんのおかげで力増したけど…実戦経験殆どないんだよね……役に立てるかな」
そう言いポリポリと頬をかく。
私は自身の中にある暗黒の魔力を練り上げ、彼に対し傀儡の魔法をぶつけた。
「うあっ?!……………あ、あれ?…何とも、ない?!!!」
「ふふっ、流石ねロッド。……今回の相手は惑わすことに特化した悪魔の眷属。自らを邪神と名乗る女性なの。……今の私の魔力を撥ね退けるあなたが必要。ね、助けてくれる?」
きっと今の私の魔法。
レジスト出来る者などほとんど存在しない。
色々と経験し、精神的に成長した私。
魔物とかとの戦闘を最近ほとんどしていなかったにもかかわらず、全てのステータスが伸びていた。
「分かったよ。いつ行くの?」
「今からだよ。行くよっ!!」
「うあ、い、いきなり?」
私はロッドの手を取り王都中央区へと転移した。
聖教会本部、邪神リナミスの巣くう魔境へと。
そして私の信頼する仲間とロッドランド。
最強のパーティーが誕生した。
※※※※※
聖教会本部神の間――――
豪華な玉座に腰を掛けリナミスはその顔にいやらしい笑みを浮かべていた。
「どうやら客のようじゃな。ふむ。リルガーノ」
「はっ」
リナミスの年齢は42歳。
すでに女性としてのピークは過ぎているにもかかわらず、妖艶なオーラに包まれ怖気づいてしまうような美貌を振りまき、彼女は目の前に跪く教皇代理リルガーノの髪の毛をそっと撫でた。
「っ!?…おお、なんという身に余る光栄……何なりとお申し付けください」
「ふふっ、可愛いリルガーノ……われは怖い……助けてくれるかのう?」
「はっ、命に代えても」
リナミスはにやりと笑い、恍惚の表情を浮かべるリルガーノの顎をくいっと持ち上げ、おもむろにキスをする。
「っ!?……ぷはっ、リナミス…さま?!…‥ぐうっ、うがああああああああああ――――??!!!」
みるみる邪悪な気配が膨らみ、リルガーノはもだえ苦しむ。
そしてその肉体は恐ろしいほど膨張、悍ましい魔力をまき散らし始めた。
「ふむ。まあまあじゃな。レベルは120といったところか……命に代えるといった忠誠、見せてもらおうかのう?……可愛いリルガーノ?」
「グルル、フシュア――――」
異形の魔物と化し、佇むリルガーノだったもの。
その後ろには同じような者たちが10人ほど、決戦に向けその力をたぎらせていた。
「ふふ、ふはははは、あはははははははははははははははあ………ゲームマスター?くだらない。しょせん弱く愚かなヒューマンのすがる心が作り上げた幻想。……力を得た真の絶対者であるわらわの前にひれ伏すがよい。ひゃはははははははははははははははは………」
※※※※※
悪魔の眷属、邪神リナミス―――
妖魔リリスとヒューマンのハーフ。
実年齢286歳。
レベル182。
惑わす力と男性から精気を奪い取り異形の狂戦士を作成する能力を持つ―――
虚無神の眷属。
本性を現すかのようにすでに体は数倍に膨れ上がり、醜い触手な様なものがあたりの床を叩くかのように動き出す。
新たな脅威がその産声を上げていた。
※※※※※
「なんだコイツら……おっと?!強ええな。おい、サンテス」
「おうっ!!」
大盾を構え、アーツ『蟻地獄』を発動させるサンテス。
たちまち出鱈目に暴れていた、おそらく元『人』であろう化け物の数体が、ただひたすらにサンテスの大盾めざしのろのろと攻撃を集中させていった。
ズガガガガガガガーーーーーン!!!!
ドゴオッ!!!!!
「くうっ?!……なんちゅうバカ力だ……こいつら?!…親方、グールなのか?!!」
聖教会本部前広場―――
ここは既に魔境ともいえる異様な魔力に包まれていた。
美緒により皆で転移してきたザッカートとリンネたち。
初めはただ普通の人たちであった聖教会所属のテンプルナイツ数名を無力化し、いよいよ建物内部へと侵入を試みる、そのタイミングで湧いて出てきた異形の者たち。
その力と姿は、かつて見たことのないものだった。
「兄さん、指示を出して!!射線が確保できない」
「ああっ?!わかった。おいっ、てめえら、ルルーナがぶちかます。3秒後にはけろ!!」
「「「「「「「「「おうっ」」」」」」」」」
異形となった彼等。
力はすさまじいがその動きは遅い。
押さえていた団員たちが一斉に距離をとる。
「はあああああああああああっ!!くらえっ!!『聖刃乱舞』!!!!ぶっ飛べええええええええ!!!」
新たに美緒により錬成された聖剣『キュアラド・ビスト』
浄化属性を付与されたその刀身が清廉な青き光に包まれ、おびただしい数の光の刃が形成されていく。
地面を削り取りながら、破壊をもたらしグールの集団を蹂躙していくっ!!
「っ!?」
「グギャアアアアアアアアア――――!!!!」
「ヒギウッ、グガアア―――!!」
ルルーナの一撃。
それでほぼ半分が体を維持できずに浄化されていった。
「ふはっ!マジでやべえな。こいつもくらえっ!!」
その様子ににやりとし、ドルンが魔刻石を投入れた。
残っているグール5体ほどの上で激しい光を放ち、周囲の魔力を吸収、超高熱の地獄が顕現する!!!
「グギャアアアアアアアアア―――――――」
「っ!?ぐうううっ、ガアアアアアアアアアアア――――」
「よしっ、てめえら、気合入れろ!!残り数体、個別に倒すぞ!!」
「「「「おうっ」」」」
すでに人外となったザッカート義賊団。
遠巻きに様子を見ていた民たちは知らぬうちにみな手を組み、祈るような瞳で見つめていた。
そこに全てを凌駕するような膨大な魔力があふれ出す―――
美緒がロッドランドを伴い現れ、周囲に包み込むような圧倒的魔力を展開、即座に女性陣5名が集結、最強の美緒パーティーがそろい踏みをする。
「お待たせ、みんな……っ!?な、何あれ?……酷い。……無理やり呪詛で変化させたのね……もう、元には戻らない……」
「ねえ、美緒さん。……これってその邪神がやったことなの?」
「うん。……今から倒すよ。ロッド、力貸してね」
「……許せないね……どこまでできるか分からないけど…全力を出すよ」
そんな中、襲いかかってきたグールらしきものを切り刻みザッカートが美緒の前に来る。
「美緒、ここは任せろ!!お前たちはこいつらがまた湧き出す前に、親玉を頼む」
「分かったよザッカート。……死なないでね」
「たりめーだ。早く行けっ……ルルーナ、ミネア、カシラを頼むぞ」
「うん」
「にゃ!」
美緒は前を向く。
そして渾身の魔力をほとばらせ、呪文を紡ぐ。
「オーラフィールド!!おまけにオールリジェネ!!とどめの戦意高揚!!!」
ザッカートはじめ団員全員、さらには美緒本人にロッドランドの体に、虹色の魔力がまとわりつく。
そして消耗した体力や魔力が回復をはじめ、上昇を始めるステータスと沸き上がる歓喜と戦意。
「おわあ、すげえ……まるで美緒さまに抱きしめてもらってるみてえだ……ははっ、もう何も怖くねえ……体が軽い……おらっ、かかってこいや、雑魚どもっ!!」
猛るクロット。
バフで強化された武闘家の力で化け物たちを蹴散らし始める。
「すげえ、すげえ……ああ、美緒さま……あなた様に勝利を……抜け忍の力、思い知るがいい」
瞬間体がぶれ、いきなり3人くらいに分裂するミルライナ。
彼の放つ凶刃が人の形を無くしていく化け物を切り刻んでいく。
拮抗していた戦況が完全に優位に変わっていく。
「ふう。ここは大丈夫だね、リンネ、みんな、いくよっ!!」
「うん。美緒、ケリつけよう」
「ふふっ、美緒殿との共闘、心が沸き立ってしまうな……師匠ではないが…たぎってきたああああ!!!!」
そして私たち6人の女性とロッドランドは聖王国を蝕んでいた元凶、邪神リナミス討伐の為、聖教会本部建物内へと進んでいった。