目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第79話 勇者誕生?シナリオおかしいよね?!

「『隔絶解呪』!!………ふうん。確かに美人さんなのね」


ぴくりとも動かない邪神リナミスに、美緒は隔絶解呪を試みていた。

本来は殺すはずだった。

何より倒さなければ経験値は得る事が出来ない。


しかし殺す前に、どうしても聞きたいことがあるのは事実だ。

まず一つ。

ティリミーナの封印について。


あれは普通の人間では絶対に紡げない術式。

悪魔の眷属、しかも相当の力がないとできない芸当だった。


そして彼女の目的。

それ如何ではこれからの行動にも影響を及ぼす。


美緒の隔絶解呪で、元の姿に戻り倒れ伏すリナミス。

今度はその状態で美緒は鑑定を行った。


「鑑定………ふう。この人……少し可哀相かも……まあ、許せないし目を覚ましたらやっぱり……」


もちろん彼女は呪われていた。

でも……彼女はヒューマンを元々恨んでいた。


もう、改心とか言うレベルではない。

彼女は……


「……覗きおったな……ふっ、貴様こそ淑女として失格ではないか……」

「………そうね」


のそりと起き上がるリナミス。

瞬時に臨戦体勢に入るロッドランドとミリナ達。

美緒がそっと手を上げそれを抑えた。


「大丈夫。もうこの人には戦う力はない。……ねえ、消える前に教えてくれる?あなたの言葉で知りたいの」

「ふん。最後まで傲慢なゲームマスターめ。わらわに生き恥をさらせというか」

「……あなたはそれほどの事をしたの。……あなたが受けたことと同じ、関係ない人たちの心を弄んだ。……そうでしょ?」


邪神リナミス。

彼女は見世物として散々心無い扱いを受けていた。


酷い虐待に凌辱。

何度も弄ばれ死にかけたことは数えきれない。


そしてわずかに残された彼女の良心も……

本当に愛する人を目の前で殺され失ってしまっていた。


「……そう、じゃな。……確かにわらわは死しても許されまい。…あの世とやらでもわらわはあの人には会えまいよ?……彼はきっと極楽へと旅立った。わらわは永遠の地獄へと行くのだろうな」


そうして語られる、あまりにも悍ましい所業の数々。

話を聞いていたロッドランドから怒りの波動が沸き上がる。


「……どうしてそんな酷い事が出来たんだっ!貴様のせいで、ティリはっ!!……」

「ふん。貴様選ばれし神の使徒か。……なるほど、わらわは利用されたようじゃの」

「……どういうことだ」

「簡単な事よ……人は危機に陥らねば覚醒なぞ出来ぬ。その侯爵はたどり着いた。それだけじゃ」


リナミスの手と足が崩壊を始める。

悪魔と契約し、限界を超えた力を行使したその報い……存在の消滅……


「ふん。謝りはせぬ。わらわだって正しいなどとは思っておらん。じゃがもうわらわの心は限界じゃった。それだけだ……美緒、といったな」

「……うん」

「一つだけ情報をやろう」

「……」

「我と同じようなものがゾザデット帝国のマギ山におる。まもなく帝国の皇女が命を散らす。病気ではない。呪いじゃ。……救えるものなら……やって見せるといい……さらばじゃ…」


そう言い、チリとなり消滅するリナミス。

美緒の頭に電子音が流れた。


『ピコン……レベルが上がりました。……千里眼のスキル、習得しました。……聖魔賢者のスキルレベル上がりました……』


そして他の6人にも流れる電子音。

特にロッドランドは激しく動揺する。


「うあ、ぼ、僕……『勇者』の称号?……獲得しちゃった?」


「ええっ?!ロッドが勇者?」


……おかしい。


勇者はこの世界には一人のはず……

っ!?はっ、まさか……ナナが危ない?!


最強の冒険者でメインキャラクターであるナナ。

まだ出てこないはずの一人。


彼女は最後、勇者の称号を得たはず……

でも……ロッドがそれを獲得?


「……ゾザデット帝国って言っていたよね?」

「う、うん。……どうしたの美緒?顔真っ青だよ?!」

「リンネ、ゾザデットの冒険者ナナ、知ってる?」

「……冒険者ナナ?………っ!?メインキャラクター?」

「実はね、この世界『勇者』の称号は彼女一人だけのはずなの。もちろんシナリオではまだまだ先の話なのだけれど……今ロッドが獲得しちゃった」


リンネの背筋に寒いものが走る。

本来獲得するはずの称号が別の人に出現する可能性……


それは本来対象であるものの死だ。


この世界美緒は2回目。

リンネが誰よりもそのことを知っている。


もしも、メインであるキャラクターが死亡した場合―――

美緒のシナリオのクリアが不可能になる。


それは本来の目的、虚無神の封印が不可能になるという事だ。


「……行ってみる。私ゾザデット帝国に。……どうしよう、もしナナが死んでしまっていたら……」


美緒は正直、いま彼女が存在していること自体は確信していた。

この世界は元がゲームではあるが確実に現実の世界。

いつか出会うメインキャラクター。

絶対にいる。


そして美緒は思い出す。


彼女ナナが登場時、横で佇む人化したエンシャントドラゴン、フィムルーナを紹介されたときに、5年前にテイムしたと言っていたことを。

5年前、今だ。


テイムする場所……ゾザデット帝国、マギ山。

まさに今リナミスが話した場所だ。


そのタイミングで美緒にドレイクから念話が届いた。


(美緒、今良いか?)

(……う、うん)

(??どうした?まさか怪我とか…)

(ううん、大丈夫。……ドレイク、今ゾザデット帝国よね。どうしたの?)

(あ、ああ。実はその事でお前に聞こうと思ってな。この帝国の姫さん、珍しい病気で死にそうなんだ。美緒、この前のソーマ草、まだ持っているか?)


美緒は一瞬考えこむ。

ゾザデットの姫は病気じゃない。

そもそも今さっき、リナミスも言っていた。


(もちろん持っているよ?でも……)

(……でも?)

(……ねえ、今どこに居るの?)

(王宮の姫さんの部屋だ。……隣に皇帝もいる)

(っ!?……分かった。私も今から行くね)

(はあっ?!邪神はどうした?)


いうが早くリンネの手を取り転移する美緒。

残されたロッドランドたちは呆然としてしまう。


(………ルルーナ、聞こえる?)


「っ!?美緒?……もう着いたの?」


(ふふっ、私転移だよ。もう着いた。……ねえ、多分もう大丈夫だと思うけど、レルダンやザッカートの援護をお願い。私はもう一仕事してから帰るから)


「う、うん。任せて……皆、美緒からのオーダー。残りを掃除してギルドに帰るよ!!」

「にゃー、分かったにゃ」

「は、はい」

「承知。ふふっ、残りは私が倒そう。何しろたぎりまくっているからな!!」


そう言い踵を返し駆けていく4人の女性。

一人残されたロッドランドは思わずつぶやく。


「えっ?……僕、帰れないじゃん」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?