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第80話 腐ってるし食べられないじゃん!!

「ねえー?!話が違うんだけどっ?!!!」


マギ山山頂の祠。


ナナは襲い来るアンデッド化した元エンシャントドラゴン、変化してしまってカオスドラゴンになってしまっている強敵の猛攻をどうにかやり過ごしながらもぶつぶつと文句を零していた。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


雄たけびを上げ、暗黒の瘴気を噴き出すカオスドラゴン。

ナナはげっそりとした顔で大きくため息をつく。


「も――――う。腐ってて食べられないじゃん!!これじゃ私のスキル『食材調達S』発動しないんだよね?!……うわっ、危なっ!?」


ナナスレスレを呪いを含むブレスが突き抜けた。


「うーあー。どうしよっ。……きっと脾臓石もダメよね……しょうがないな。普通に戦うか」


そう言い背中のごつい大剣『ギガニッシュ』をすらりと抜き放つ。

剣から赤いオーラが吹き上がっていく。


「まったく。とんだ骨折り損だね。まあカオスドラゴンなら魔石はあるか。金貨2万枚くらいにはなるよね。……食べられないけど」


大きく振りかぶり、瞬間移動を繰り返すナナ。

カオスドラゴンが一瞬ナナを見失う。


(それじゃ、これでおしまい…っ!?うああっ???!!!)


突然悍ましい魔力に包まれるナナ。

体全体の皮膚から出血し始める。


(呪詛?…くうっ、強い?!!!……っ?!あいつか)


カオスドラゴンと戦っていたため、今呪詛を放った何かの魔力が低すぎて感知できなかった。

みるみる体力を削られ、おまけに魔法も封じられていた。

力なく地面に激突してしまう。


「がはっ?!!!」


口から淑女ならぬうめき声とともに、大量の赤黒い血が吐き出される。

普通のヒューマンなら即死している大きなダメージを受けていた。


どうにかよろよろと立ち上がり、呪詛を放ったと思われる方へと視線を投げる。


「ほう?!貴様強いな。我の呪詛で死なないものは初めてじゃ」


薄汚いローブを羽織ったおそらく女性。

ニヤリと顔を歪める。


そしてその後ろ――――

まだ幼体のエンシャントドラゴンが呪いの呪縛に囚われていた。


「っ!?……あんた……その子をどうするつもり」

「ふん?自分よりもこの畜生の心配か?ふうむ。どうやら頭のねじがぶっ飛んでるようじゃな。なあに、戦利品のような物じゃ。まだ幼いとはいえエンシャントドラゴン。高く売れる」


膝が震える。

視界もおかしい。

でも。


ナナは今かつてないほど怒りに囚われていた。


(くそっ、この女も……アンデッド……食べられない。……どうする?)



※※※※※



ナナの称号『ウルティメートプレデター』

その正体は地球で拒食症になり亡くなったナナ、本名渚七海なぎさななみが転生したときに得たスキルだった。


死の瞬間「お肉食べたい…」

そう言いながら死んでしまった彼女が異世界で望む事。


究極の美食、つまり未だ誰も食べたことのない伝説級の魔物の肉を食べることだった。

そして彼女のスキル『調理人S』と『食材調達S』


どんな強敵でも、食べられる場合その相手は食材扱い。

つまり確実に倒す事が出来た。


しかも『調理人S』で調理した場合、その素材、つまりモンスターの能力をも獲得、経験値が2倍以上になる。


ナナの高すぎるレベル。

現在248。


この世界ですでに美緒の次にまでその力を伸ばしていた。



※※※※※



「フン、所詮死にかけ。放っておいても死ぬだろうが…一応とどめを刺すとするか」


そう言い手を掲げる女。

気付けばナナの真後ろにカオスドラゴンがその大きな顎を限界まで開き、まさにナナを飲み込まんと、口を閉じ始めた。


「しまっ!?……うああああっ!???」


バキバキと嫌な音がナナの体から発せられる。


必死に抜け出そうと藻掻くナナ。

脳裏に自身の死がよぎる。


(ああ、ここで死ぬの?……まだ…私………食べて…ない……)


カオスドラゴンに砕かれる彼女の華奢な体。

まさに命の火が消える……

その時―――


マギ山山頂、祠付近が金色の神々しい凄まじい魔力に包まれた。



※※※※※



ナナが苦戦を強いられる直前。

美緒はゾザデット帝国第一皇女の部屋で皇帝から話を聞いていた。


「これはゲームマスター殿。お初にお目にかかる。余はゾザデット帝国皇帝ゾルナーダ、どうか我が娘、ミュライーナをお助け下さらぬか」


跪き願いを請う皇帝。

美緒は優しく手を取り彼を立たせた。


「お顔をお上げください。必ず救います。ドレイク、人払いを。……呪いの根源、確認が必要です。嫌な気配があるの。……お姫様の服を脱がすから……コホン。男性は退出してくださいますか?」


「お、おう。分かった」

「う、うむ。……父親である私もだろうか?」


思わずジト目を向けてしまう。

娘とはいえ皇女様もう成人女性だ。

体だって……うん。

かなりエッチい体をしている。


「挨拶が遅れたな。我は創造神リンネ。神の言葉だ。皇帝よ退出せよ」

「っ!?はっ、仰せのままに」


流石リンネ。

この世界の常識って……


今は余計な事を考える時じゃない。

私はリンネと協力して皇女様ミュライーナの服を脱がしていく。


はあ。

この人…すごっくキレイな体してる。


胸…おっきい。

うん。

リンネといい勝負だね。


私はそっと彼女のお腹に手をかざす。

そして聖なる魔力を揺蕩らせた。


「っ!?ひぐうっ!???」


意識の無かった皇女が突然跳ねるように反応し、彼女の体全体を覆いつくすように悍ましい色で刻まれた紋様が現れた。


「やっぱり…」


私は思わずつぶやき大きくため息をつく。

彼女の呪い。


外部から付与されたものではない。

恐らく時間をかけ、内部から、つまり口にするものにその呪詛を紛れ込まされていた。


通常呪いや呪詛はかけた本人の魔力によって強さが決まる。

でもそれは一過性の場合だ。

今回のケースのように長い時をかけて蓄積された場合、通常の解呪では届かない。

というより解呪中に対象者が命を落としてしまう。


すでに呪い自体がその人の一部となってしまっているためだ。


「美緒、治せそう?」

「……うん。技術的には問題はないよ?でも……この人の体力が持つかどうか……っ!?そうだリンネ、リジェネ使えるよね」

「う、うん。……でも美緒の方が効果高いよ?」

「違うの。私の魔力だと解呪と喧嘩しちゃう。でもリンネの魔力なら、きっと」


そしてリンネの瞳を見つめ二人頷きあった。


「はああっ!!『リジェネ』!!!」

「はああっ!!『隔絶解呪』!!!」


びくりと反応し、のけぞるように苦しみだすミュライーナ。

彼女の体から呪いの残滓がまるで大蛇のようにゆっくりと滲みだすように抜けていく。


「があっ、ぐがあああああああ―――――――!!!!!」


とてもじゃないが淑女とは思えない野太い叫び声を発する皇女。

やがて皇女の体から呪いの呪縛は完全に消えていった。


「………ふう。これで大丈夫かな」

「…はあ。いつ見ても美緒の隔絶解呪……ぶっ壊れだね」

「…ぶっ壊れって……違う言い方ないのかな?」


二人思わず目を合わせ、笑いだしてしまう。

その時、私の脳裏にナナの苦しそうな顔がよぎる。


「っ!?」

「美緒?どうしたの?!」

「……行かなきゃ……リンネ、後はお願い」


私は直感を信じ、マギ山山頂へと転移した。


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