「ふん。隠蔽だな……確かにこれは…俺レベルでないと気づけねえな」
我がギルドで一番諜報スキルに
ここはグラード侯爵家が保有する街の中に普通に存在している倉庫群の一つだ。
「おい、モナーク。本当にここにそんな施設があるのか?俺だって諜報は得意分野だ。だが俺には普通の壁にしか見えねえ」
ドレイクが訝しげに壁を調べながらつぶやく。
少し苔むしている普通の石積みにしか見えない。
「ああ、そうだな。……いくつかのスキルを合わせて隠蔽していやがる……おっと、これだな…」
そう言い腰につけてあるマジックポーチから美緒が錬成した解呪の魔刻石を取り出し魔力を込めた。
激しく明暗する壁。
「っ!?……マジか……こいつはすげえ。見たことのない技術だ」
「感心している場合か?これはホビットである俺の種族特性でもようやく見破ることのできる超高等技術だ。誰かとんでもねえ奴が絡んでいる可能性が高い……ノーウイック…とかな」
「っ!?馬鹿なっ!?…ノーウイックだと?……彼はとうに死んだはずだ」
伝説の盗賊ノーウイック。
かつてこの世界をさんざん混乱させた義賊。
何気にザッカートの憧れの存在だ。
でも彼が活躍したのはおよそ100年前。
ホビット族である彼は既に寿命は尽きている。
「ああ、俺だって生きているとは思えねえ。だが俺がガキの頃親父に口酸っぱく教え込まれたんだ。これはまさに彼に仕事だ」
顔を見合わせ唸る二人。
そこに美緒が転移してきた。
「ドレイク、モナーク。お疲れ様。どう?なにか分かった?」
「お、おう、どうやらここ隠蔽されているらしい。モナークが見つけてくれた」
「まあ。流石ねモナーク。……これはノーウイックも悔しがるわね」
ふいに美緒からこぼれた言葉。
二人はフリーズする。
「えっ?美緒、今……」
「ん?ああ、ノーウイックの事?あー、えっと、……彼そのうち私たちの仲間になる人よ?メインキャラクターの一人なの。多分今彼、ザナンテスの不帰の大穴の最深部で封印されているのよね」
驚愕に包まれる二人。
美緒の知識チートは今始まったことではない。
だが二人は改めてその力に恐れおののいていた。
「あのね、最近私も思い出したの。本来彼はまだまだ先に登場するの。でもこの隠蔽技術…間違いなく彼の力かもしくは……彼の力を奪った悪魔の眷属の仕業なのよね」
美緒がカンストさせた聖魔賢者の中のスキルの一つ『真相解明』
今美緒は触れればその本質を理解できるさらなるチートスキルを得ていた。
「……うん。間違いない……でも相当劣化しているようね。……ねえドレイク、モナーク。確実性の為、私ノーウイックを救出したいのだけれど……どう思う?」
私は真っすぐ目を白黒させている二人を見つめにっこりとほほ笑んだ。
すぐに顔を染めてしまう二人。
私は心の中でため息をついた。
(まあ、しょうがない?……よね)
人知れず、まさに究極の美貌を手に入れた美緒。
男たちを責めることは少し理不尽なのであった。
※※※※※
「エルファス様、ごきげんよう」
「ええ、ミリアネート様、ごきげんよう」
学園の教室。
今日ナナ、もといエルファス嬢は本日から行われる冬季の実地演習のため久しぶりに教室を訪れていた。
(はあ。面倒くさい。……もうお父様にもばれたし……私学園に行く意味あるのかな)
正直エルファスは学園が退屈でたまらなかった。
必須の単位は既に修得済み。
しかも彼女はすべてで主席をとるほど優秀だった。
一応来年の3月で卒業を迎える。
あと数か月。
でも彼女はもうすぐにでも美緒たちと行動を共にしたいと思っていた。
「やあ、相変わらずつつましい胸だなエル。顔は我が国一という美貌なのに……惜しいものだ」
「……ごきげんよう、ラギルード様」
嫌な奴が現れた。
婚約者の前だというのに、何故かべったりと彼の横には超巨乳の男爵令嬢コルン嬢がわざと胸を押し付けるように、いやらしい笑みを浮かべエルファスを見下していた。
「まあエルファスさま、相変わらずお美しいですわ。……あら?また小さくなりまして?…ご、ごめんなさい、私ったら本当の事を……」
「ふむ。相変わらずコルンはうっかりさんだな。エルはお前よりも高貴な人だ。それに私の婚約者。言葉遣いには気を付けることだ」
「はい♡ラギルード様♡」
さらに胸を押し付けるコルン嬢。
にやけるラギルード。
茶番だ。
エルファスはそっとお辞儀をし、その場から立ち去った。
実は婚約の解消、今日の夜彼の親であるグラード侯爵へ父であるレリアレード侯爵から伝える運びとなっている。
事前に皇帝の許可も取っている。
そうすればエルファスは晴れて自由の身。
思わず笑みがこぼれる。
(後悔は……しないのでしょうね。まあいいわ。私はこれで自由。……学園の件、お父様に相談しようかしら)
実地訓練の集合場所は講堂だ。
エルファスは一人、足を進めていた。
※※※※※
ギルドの執務室。
私はエルノールとリンネ、そしてマールとドレイクを集め、魔導国ザナンテスへのアプローチについて打ち合わせを行っていた。
「マールは…あなた未だに指名手配中よね」
「うむ。我が行く事は無用の混乱を生むであろう。ドレイクが適任とは思うがな」
どうやら修行モードは中止中らしい。
『ゴミ』呼ばわりされない事にドレイクはほっと息をついた。
「兄貴、俺はもう40年は顔を出していねえ。それでも俺で良いと思うのか?」
「メリナ嬢に頼めばよかろう?貴様はまだミッションをクリアしていない。さっさと40年にわたる痴話げんかに終止符を打って協力を得るのだな。父上にはすでに連絡済みだ」
相変わらずマールは優秀だ。
どうやら段取りは終わっているらしい。
「メ、メリナに?……あ、兄貴……そ、それは……」
顔を赤らめるドレイク。
皆のジト目が彼に炸裂する。
「はあ。もう好きなんでしょ?最近ちょっとごたついていたけど、これはすぐに解決しなくちゃダメな話よね。いい加減チャッキりしなさい」
つい言葉を発してしまった私。
うん、前の私なら絶対に言わないよね。
「う、うあ、美緒?……そ、そうだな……分かった。覚悟を決める」
「じゃあ魔導国に行くのは私とリンネ、それにエルノール。後はドレイクでいいわね」
「承知しました」
「うん。良いんじゃない」
「…ああ、頼む」
「じゃあ座標は……えっとマール?いきなり王宮はまずいわよね」
「そうだな。我が家ギアナニール家へと飛ぶとよい。父は承知済みだ。我が魔眼もそう言っている。間違いはあるまいよ」
「……わかった。そうさせてもらうね」
相変わらずね。マール。
そう思い私たち4人はドレイクの実家、ギアナニール邸へと転移していった。
※※※※※
「これはこれは……お噂はかねがね。わたくし当主のレルガーノ・ギアナニールでございます。以後お見知りおきを」
私たちに跪き、恭しく頭を下げる侯爵。
流石は6大貴族の当主。
立ち居振る舞いは見惚れるほどだ。
ドレイクは居心地が悪そうにしているけど。
「ふむ。突然の訪問にもかかわらず歓迎痛み入る。頭を上げるがよい。わが姉ゲームマスターは寛容だ」
「ありがたき幸せ。……ほう、さすがはゲームマスター殿…文献にあるように誠に可憐でお美しい」
うん。
もう何も言うまい。
私はただにっこりとほほ笑む。
やっぱり赤く染まる侯爵の顔。
「コホン……それはそうと……貴様、よくもぬけぬけと顔を出せた物よ。何か言う事はあるのかザイ」
「……久しぶりだ、父上。……俺は謝らねえ。俺は筋を通した、それだけだ。もちろん戻るつもりはねえ。俺はドレイクだ…………でも、すまなかった。……そして、ありがとうございました」
最敬礼をするドレイク。
それを見た侯爵はにやりと口角を上げた。
「ふん。成長しおったな。ザイ、いや、ドレイクといったな。分かった……お前の好きにするとよい。だがけじめはつけろ。いつまでもメリナ嬢を待たせることは許さん……因みに美緒さま」
「は、はい」
「……マールはお役に立っているのでしょうか」
ああ、この人は……
やっぱりいくつになってもマールもドレイクも彼の子供なのね。
とっても優しい目をしている。
「ええ。彼はウチの主力です。申し訳ありませんがお返しするつもりはありません。……もっとも彼が望むのなら、私は引き留めはいたしません」
「っ!?……はは、は。……流石はゲームマスター様……承知いたしました」
※※※※※
その後はお茶を頂き、少し気が緩んだところで私は気になっていたことを侯爵に聞いてみた。
「あの、レルガーノ様?お聞きしたいことがあるのですが」
「はっ、なんなりと。……あと、私の事はレルガーノと。よろしくお願いいたします」
「あ、はい。……えっと、レ、レルガーノ、そ、その、魔導王様はもうお怪我は問題ないのでしょうか」
「ええ。もともと大した怪我ではなかったのです。マールの迅速な対応が被害の拡大を防ぎましたから。……実は指名手配もすでに取り消されております」
「っ!?そうなのですね。良かった……実は今回、私は魔導王様に用があるのです。お取次ぎお願いできますか?」
「ええ。問題ありません。……ただ今日はちょっと……明日で構いませんか?」
「それは大丈夫ですが。……今日は何かあるのですか?」
侯爵は天を見上げそしてドレイクを見てにやりと顔を歪める。
途端にドレイクから血の気が引いていく。
「実は今からゲストが来ますので……その結末、私はもとより美緒さま、リンネ様にも立ち会っていただきたい」
私とリンネはピンときた。
ゲスト……おそらくメリナエード嬢だ。
ドレイクの一世一代の試練が始まる。