その後レルガーノ侯爵の長男、ドレイクたちのお兄さん、レッジエルデさんが挨拶に顔を出してくれた。
すっごいイケメンで思わずぽかんとしてしまう私とリンネ。
今彼はマールの代わりに諜報部隊をまとめているそうで、ジョブは諜報武官という珍しいものを習得、諜報と戦闘に特化している人だ。
「……ザイ、久しぶりだな。…父上が何を言ったが知らんが俺は素直に嬉しい。いつでも遊びに来るといい」
うん。
すっごい紳士。
すでに結婚していてお子さんは4人。
やっぱり結婚してもカッコいい人は色気がやばいね。
落ち着いている感じがまた安心感があるというかなんというか。
私とリンネのまなざしに気づいてエルノールが何故か挙動不審になったけど……
今は打ち解けてアーティーファクトの話で盛り上がっている。
そんなこんなで時間が過ぎること30分。
遂に運命の時がやってきた。
部屋の扉をノックする音、そして女性の声が響く。
「失礼します」
入ってくる美しい女性。
彼女はドレイクを見つめ、まるで花がほころぶような笑顔を浮かべる。
「……ザイ……やっと、会えた……ああっ、ザイっ、ザイっ!!!」
「…メリナ……すまない、待たせちまったな……ああ、やっぱり俺はお前が好きだ…愛してる」
抱きしめあう二人。
まるでエフェクトが発生しているのではないかというほどのピンクのオーラが部屋を包み込む。
なぜか号泣している侯爵様。
うあ、お兄様も?
魔族はやっぱり優しい種族なのね。
私はそんなことを想いながらリンネと手を取り、涙をこらえていた。
良かったね、ドレイク。
40年の時を超え、遂に結ばれた二人。
暫くドレイクは彼女の家で暮らしてもらうことにしました。
まあ暫くこの国でのミッションだしね。
せいぜい40年間の空白を埋めて欲しいものだ。
……いきなり赤ちゃんとかできちゃうのかしら?
そんなことを想い一人顔を赤らめる美緒なのであった。
※※※※※
翌日。
今日はザナンテス魔導王、ギリアム・ロールド・ザナンテスとの会談の日だ。
あてがわれた部屋で目を覚ました私とリンネは侍女の淹れてくれた紅茶を楽しみながらくつろいでいるところだ。
「ねえ美緒?その、ノーウイックだっけ?彼って今どういう状況なの?もう100年以上前の人なんでしょ」
「うん。彼は確か40歳くらいなんだよね。でも秘宝?取り敢えず何か『チートの物』でその力を大きく伸ばした人なの。確かレベルも120くらいだよ?」
「へえ。その時代で100オーバーって。凄い人なんだね」
「あー、うん。凄い人なんだけどさ……あのね」
何故か声を潜める美緒。
顔を近づけ耳打ちをするような仕草にリンネは顔を近づけた。
「……スッゴクえっちな人なの。だからリンネ、気を付けてね」
「?!えっちな人?…もしかして……」
「うん。女の人のおっぱいが大好きな人で……そ、その、すぐに…ごにょごにょ」
「っ!?……ええっ?!それはまずいんじゃないの?!ほら、うちのギルド、可愛い子いっぱいいるし……ねえ、その人本当に必要なの?」
「あー、うん。……彼がいないとね、最後の方のダンジョンで苦労するのよね。その、罠とかの解除とかね。……彼天才なの」
不安すぎる。
思わずジト目を美緒に向けるリンネ。
「あっ、でもね、彼一応義理は通す人なんだよね。だから最初に物理で私が黙らせるから…心配ないと思う。多分」
美緒の物理?
それって……死んじゃうんじゃないのかな?!
ますます不安を募らせるリンネであった。
※※※※※
朝食を済ませ準備が整った私たち。
そんな私たちにレルガーノ侯爵が少し悪戯そうな表情を張り付け私に声をかけてきた。
「美緒さま、因みに我が国の習わしというか作法は御存じですか?」
「習わし?作法?……いえ、すみません。勉強不足のようです」
「いえいえ、責める訳ではございません。ただ恐らく数回は手合わせを求められるかと。我が国は力を信望しております。いくらゲームマスター様と言えど、それは避けられないかと」
「手合わせ、ですか?」
「ええ。もっとも美緒さまどころかリンネ様でもおそらく朝飯前。どうか大怪我だけは御遠慮願いたいのです」
侯爵様、なんか楽しんでる?
言葉とは裏腹になぜかわくわくしている気配が私たちに伝わってきた。
「侯爵様も同行いただけるのですよね?」
「もちろんでございます。特等席で見られる至福。申し訳ありませんがわたくし既に楽しみで仕方がありません」
ふう。
流石は武を貴ぶザナンテスの重鎮。
なんだか変なオーラも漏れてるし……
「はあ。分かりました。……若輩ではありますがその作法、受けさせていただきます。転移で訪れても?」
「ええ。おお、伝説の転移魔法……私ごときがその魔法に触れる栄誉を頂けるとは……お願いいたします」
そして私たちは転移で魔導国ザナンテス、その王宮レガルマルスへと転移していった。
※※※※※
魔導国ザナンテス。
魔族の国、そしてこの世界でも相当の影響力を持つ強国の一つだ。
何より今の魔導王、英雄王ギリアム・ロールド・ザナンテス。
公表はしていないものの上限を突破しそのレベルは110を超えていた。
その力はおそらくどの国の王族よりも強大で、そして長い寿命を持つ彼は長きにわたる責務の中、この世界の核心に近づいていた。
謁見の間。
私とリンネ、そしてエルノールの3人。
同行していた侯爵はすっと貴族の並ぶ方へと足を進めていく。
足を進める私たち。
中央くらいに差し掛かった時、私に向け威圧の魔力が投げかけられた。
そして出てくるこの国の公表で最強と呼ばれている近衛騎士団長ミシェル・グーダランデ伯爵。
私の3mくらい前でスラリと剣を抜き放つ。
「よくぞ訪れた。ゲームマスター殿。……お手合わせ願えるだろうか」
(はあ。まさか『謁見の間』でとはね。……これもこの国の特徴なのよね。並んでいる貴族の皆さん、目を爛々と輝かせているし)
「……はい。分かりました。お相手いたします。……勝敗は?」
「これは僥倖。なに、負けを認めた方が負け。シンプルで解り易かろう?」
そして吹き上がる魔力。
うん、確かに強いね。
だけど……
私は一瞬で距離を詰め彼の顎に軽く掌底をぶつける。
突然消えるミシェルさん。
一瞬遅れて天井からけたたましい衝突音が鳴り響く。
(あれ?手加減間違えた?……し、死んでない……よね?)
そしてまるでぼろ雑巾のように落ちてくるミシェルさん。
完全に気絶していた。
……良かった…生きてる。
私はおもむろに回復魔法を紡ぐ。
「……ヒール」
緑の聖なる魔力に包まれる彼。
見る見るダメージが回復していった。
ざわめく貴族の皆さん。
何故かレルガーノさん、やけに目をキラキラさせている?!
良いのか?!
自国の一応最強が、私みたいな小娘に……
「……素晴らしい……そして失礼した……無礼を詫びよう」
立ち上がるギリアム魔導王。
そして拍手をしながら私に近づいて来た。
「ふむ。凄まじいな……修行僧、しかもレベル1……貴方さまはまさにこの世界の救世主だな」
(っ!?私のジョブ?……この人……鑑定、しかも生物をも見れる能力……持っている?)
「おっと、警戒は解いてほしい。アーティーファクトの力よ。私ではない」
私がそれに気づいた事に気づく。
すでに魔導王はそのレベルに到達している、まさに英雄だった。
(メインキャラクターじゃないのよね。ノーウイックじゃなくてこの人なら良かったのに…とっても紳士だし)
私はそんなことを考えながらも近づいて来た彼と握手を交わした。
※※※※※
魔導国の洗礼?
取り敢えず私は問題なくそれをクリアし、今は国賓対応を受けているところだ。
「先ほどは失礼した。だが我らの特性、何よりこれが一番手っ取り早いのだ……リンネ様もどうか含んでいただきたい」
「ふう。良いでしょう。……それにしてもさっきの彼が代表?弱すぎでは?」
「はははっ、これは手厳しい。ミシェルよ。精進は欠かせぬぞ?」
「はっ」
丸い大きなテーブル。
まるで某高級中華料理屋のようなそれには魔導王であるギリアムさん、そして宰相のグーキャットさん、近衛兵長である、先ほど私に倒されたミシェルさんが座っていた。
もちろん私たち3人、リンネとエルノールの座っているよ?
「ところで相談とは何であろうか。むろんルギアナードの皇帝よりあなたが降臨された事は聞いている。協力は惜しまない」
「ありがとうございます。実は『不帰の大穴』その再調査をさせていただきたいのです」
「っ!?……まさか……」
「ええ。ノーウイック、ご承知ですよね?……貴方さまのパーティーメンバーであり、真の救国の英雄。私は彼を封印から解き放ちます」
ギリアム魔導王の目が落ちてしまうのではとい程見開かれる。
そして大きくため息をついた。
「分かりました。ダンジョンの探索、許可いたします。……奴を、ノーウイックを救ってください」
「ええ。救った後、私は彼に協力を求めたいのです。よろしいでしょうか」
「それは俺の決めることではありません。……貴女さまになら奴とて従うでしょう。ただ……奴はちょっとした癖といいますか……そ、その…」
顔を赤らめ宙に視線を泳がせる魔導王。
あー、この人も知っているのね?
「……女性が好きなのですよね?」
「ぐふっ?!……承知の上でしたか……ええ、奴はその、じょ、女性の……」
そしてなぜか私の胸に視線を投げる。
ますます赤くなっていくギリアム魔導王。
うん?この人……
ナナの父親みたいな趣味なのかしら?
普通この話題、リンネの胸を見るよね?
ちらりと視線をリンネに向けると、何故か自らの胸を隠すように自分を抱きしめているリンネ。
あー。
あなたそれ、逆効果よ?
隠しきれなくて余計に強調されているから。
少しの振動であなたのおっきなおっぱい揺れてるし……
く、悔しくなんか、ないんだからねっ!!
「コホン。大丈夫です。解呪したら最初に私が物理で『しつけます』ので」
にっこり笑う私。
何故か魔導国の3人が青い顔しているけど……
気のせいよね?
何はともあれ許可はもぎ取った。
さあ次は、ダンジョン攻略よっ!!
ゲームらしい展開に私の心は沸き立って行った。