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第110話 決戦ジパング3

まるで津波のように前方に膨れ上がる死霊の軍勢。

その中央、明らかに他を凌駕する凄まじい怨念を纏うものが居た。


「…あいつがミフネか」


つぶやき剣を構えるファルカン。

付き従うエイン、ナルカ、クロット、スフォード。


そして獰猛な表情をその顔に浮かべ闘気を噴き出すミリナとカイ。


「ファルカン。まずはあいさつ代わりだ。美緒さま特性の3種混合『奇跡の魔刻石』ぶちかます許可をくれ」


ドルンが目を輝かせ、ファルカンに声をかけた。


実はこれ、リンネに怒られる寸前、限界を攻めて出来上がった奇跡の一つだった。

あの時リンネが魔力を込めたあの魔刻石。

あの魔刻石には本当に初期魔法、ファイヤーボールを中心に構成されていた。


でもこれには…

なんと上位であるフレイムバーストが込められている。


ファイヤーボールの理論上20倍の威力のある魔法をもとに構築してできた魔刻石だ。

正直ドルンにもどのくらいの威力か想像もつかない。


元々強い魔法だ。

それに拡散用にウインドストームのおまけ付き。

当然ながらカウンターとして結界も仕込んである。

そして錬成したのは異常な魔力数値を誇る美緒。


研究者としてのドルン。

まさに体を震わす興奮に目を輝かせていた。


「ふむ。美緒の錬成か。ほう?3種の魔法の混合だと?!…まさに神の技術のその先ではないか。実に興味深い」


全員を転移させてきたガーダーレグト。

紫色に輝く長い髪をなびかせ、魔力に包まれしその姿は見る物を魅了するほどの美しさを放っていた。


研究バカのドルンでさえ見蕩れてしまう妖艶な美しさ。

まだ女性経験のない彼にこのガーダーレグトは刺激が強すぎる。


「ふむ。我も捨てた物ではなかろう?ふふっ、その反応。ゾクゾクしてしまう」

「う、あ…コ、コホン。…レグ、すまねえがこれ、奴等の中央まで飛ばせるか?俺の魔力だとコントロールが甘いんだ。目的地の前に反応しちまう」

「任せるがいい。どれ」


ドルンの持っている魔刻石。

それを取ろうとしお互いの手が触れる。


「っ!?」

「なんだドルン。お前女を知らぬのか?ふふっ、その初心(うぶ)な反応、ますます興奮してしまうぞ?」

「ひうっ?!」


なぜかジト目のミリナ。

自分もつい先日まで乙女だったくせに。


「コホン。そんな事よりもう近い。やるなら早くやってもらいたいが?自爆なんてシャレにならない」

「そうだな。ふむ。こんなものか……『物質瞬間移動』」


刹那、敵の軍勢、その中央の上空。

まるでブラックホールが出現したかのように辺りの魔力を激しく吸収する魔刻石。

空間が軋みを上げ歪んでいく。

そして一瞬の静寂。


カッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ズガアアアアアアアアアアアアア――――――――――ンンンンン!!!!!!!!


視界が消えるほどの強烈な閃光。

直後あり得ないような衝撃波が広がり大地を揺らす。

続いて異常な熱量が、反応直前に構築された結界内に充満、まるで別次元で展開されるような非現実的な光景を映し出していた。


余りの熱量に光がねじれ屈折、まるで揺らぐオーロラのように光が波打つ。


「…流石美緒の錬成。おいドルン。説明が必要ではないか?あれはまさに禁呪を超える厳戒兵器だ。できれば二度と使わぬほうが良い」

「おお!?……っ?!……あ、ああ」


あり得ないほど濃縮された熱量が結界の耐久限界と拮抗し、聞いたことのない、まるで大気の悲鳴のような音が鳴り響く。


超高音のそれはまさに音波兵器。

思わず耳をふさぎ皆が魔力をほとばらせガードした。


放射線が出なかったのは本当に僥倖だった。


「くあっ?!とんでもねえな……おい、まさかこれで終わりか?」


そう言うのも無理はない。

在り得ない熱量。

恐らくこの星開闢以来の初めての規模だった。


「…これって美緒が作ったの?」

「そうみたい、だな」

「……やばいね」

「…ああ」


思わず二人でつぶやくミリナとカイ。

仕えている美緒のあまりのチートさに、つい冷や汗が全身から噴き出してしまう。


やがて反応が終息し結界が霧散、大地は既にガラス化しており、急激に酸素を消費した反動でまるで嵐のように強風が吹き荒れた。


「ぐうっ、凄まじいな…っ!?……おいおい、アレを耐えるだと?!」


死屍累々。

まさにその様相の中で、いまだ健在な数千体がのそりと立ち上がった。


「んん?!…魔力の残滓……どうやら結界だな…きっと週百層展開させたんだろう。防御特化が居やがったか」


冷静に判断を下したナルカの横で、なぜか震えているエイン。

それに気づいたクロットが目を見張る。


「っ!?お、おまっ?!……そ、それ……まじか……」

「ははは、は。やべえ。引き当てちまった……聖剣……エリシオン……マジか…」


今エインはスキル『ジャックポット』の能力が向上し、お宝の出現率は若干下がるものの対象となる区間を設定、自分の手元に引き寄せる事が出来るようになっていた。


今回引き当てたもの。

とんでもない存在感を放つ光輝く聖剣。

この世界の伝説、おとぎ話に登場する7大武器の一つだ。


かつての伝説の偉人『英雄グラコシニス』が愛用していたと伝えられる聖なる剣。

遥か過去に失われたとされていたそのものが今ここにその姿を顕わしていた。


目の前には悍ましい死霊の軍勢が迫っている。

そして間もなく始まる乱戦。


美緒が錬成した魔刻石でおそらく90%以上減ったとはいえ敵はまだ数千体存在している。


しかしそれよりも今ここで起こった現象は、まさに奇蹟に他ならない。

その剣を聖騎士であるファルカンがおそるおそる手に取る。


ここにいる全員の脳裏に声が響いた。


『…英雄たちよ……民を守れ…そして悪を……摂理を歪めしあの神を…頼む…』


「なっ?!」

「英雄…グラコシニス?」


「おおおっ?!うああああっっ!???」


突然慌てふためくファルカンに皆の視線が集中した。


「ど、どうしたファルカン?」


ナルカの問いかけに、ファルカンはゆっくりと顔を向けた。


「ファルカン?」


その目には涙が浮かび、何故か口元には笑みが張り付いていた。

そしておもむろに敵の集団の方に顔を向け、聖剣エリシオンを振りかざす。


刀身に美しい虹色の光が迸る。

そしてまるで練習のように軽く振り下ろした。


ズドオオオッッ!!!!

ズガガガガガガガガガーーーーーーンンンン!!!!!!


「「「っ!?」」」

「なあっ?!」

「……ほう?興味深いな…」


まさに一撃。


残されていた死霊の軍勢。

そのほとんどが今のファルカンの一撃で浄化されその姿を消し去っていた。


「はは、は。やべえ。……マジでこの剣……」


言いかけ突然倒れるファルカンを慌ててスフォードが支えた。

そして胸に耳を当て安堵の表情を見せる。


「寝ていやがる。……剣に精神持って行かれたようだな」


皆がほっと胸をなでおろした。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!この愚かな人間どもよ!!!まやかしで我が軍勢、滅ぼしおって!!許さぬ、貴様らの首、わしがすべからく狩ってくれようぞ!!!」


突然響き渡る怨嗟に満ちた声。

唯一残された侍マスターミフネの怨霊、悍ましい魔力をたぎらせ皆の前に姿を現す。


「まあな。流石に敵の大将を前に舐め過ぎか。……レグ殿」

「……よかろう。天使族の力、見学させてもらおうか?」

「ははっ。これは師匠、い、いやマ、マールではないが……たぎってきたああっっ!!!」


何故か言い直し、赤くなる顔をごまかすように闘気を噴き上げるミリナ。

そんなミリナに対しジト目のカイはゆっくりとその場を後にした。


対峙するミフネの怨霊とミリナ。

この戦場最後の戦いが今始まる。


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