大江戸城のある首都より北に約20キロ。
火の手が上がり逃げ惑う多くの民たち。
さらには迫りくる大量の死霊の軍勢。
まさにそこには地獄が顕現していた。
力なき民を守る使命を授かっているアルディとレイルイド。
おもむろに腰のマジックポーチからアルディはいくつかの魔刻石を投げつける。
そして広範囲に立ち上る温かく優しい光を纏う半径100メートルほどのドームがいくつか形成された。
「アルディ?それは何の魔刻石だ?」
「ん?ああ、これは広域結界の魔刻石だね。美緒の賢者の術式。これで民たちは守れるはず」
「すげえな。本当に美緒さまはこの世界の救世主だな」
その時周辺一帯が閃光に包まれ、とんでもない大音量とともに大地が波打つほどの衝撃が駆け抜けた。
「うわあ、えげつなっ!!きっとあの魔刻石だな……ドルンのにやけ顔が目に浮かぶ」
「はは、とんでもねえな。こりゃ確かに救助、急いだ方が良いな」
思わず呆けてしまう二人。
改めてアルディはレイルイドに視線を向けた。
「コホン。……でも圧倒的に手が足りない……ねえレイルイド。少し僕に時間くれる?」
「あ、ああ。かまわねえが……何する気だ?」
「召喚。僕はサブジョブが召喚士なんだよね。普通は大したもの呼べないけどさ。今の僕にはこれがある」
そっと差し出す怪しい色に包まれた魔刻石。
何故かレイルイドの危機感知が激しく仕事をする。
「お、おい。…いやな予感しかしねえが…大丈夫なんだろうな?」
「うん?まあ………………大丈夫?」
ニヤリと顔を歪め久しぶりに見せるいやらしい顔をするアルディ。
その様子にレイルイドはますます嫌な予感が膨れ上がる。
「なんで疑問形なんだよ。今更あんたを疑っちゃいねえが…っ!?お、おい、アルディ、あっちから嫌な気配が近づいてくる、俺の分身からの信号だ。二手に分かれるぞ」
「うん。ここは僕に任せて。大丈夫だよ。むしろ君は見ない方が良い」
「不穏な物言いだな……ちっ、マジで時間が惜しい。信じるからなっ!!」
そう言い駆けだすレイルイド。
彼は自身のジョブ『斉天大聖』のスキルで、すでに数十体の分身による救助を並行して行っていた。
その後ろ姿を見て独り言ちる。
「『信じる』か。…はははっ。こんなに嬉しいとはね。マジで美緒には感謝しかないな。…さて」
妖しい色の魔刻石。
それがアルディの魔力を吸い、徐々におどろおどろしいオーラが噴き出し始める。
「はあ。憂鬱だ。でも仕方ないかな……悔しいけどお前の知識、僕に貸してくれる?」
おどろおどろしいオーラはやがて人の形を形成し始める。
そしてなぜか紙袋を下げ鉢巻をし、痛いTシャツに身を包んだ中肉中背?いや、でっぷりとお腹をだらしなくさらしている男性が呆然と立ち尽くしていた。
「お前?……な、何でござるか?ここは……ひいっ?!火事?!」
「ねえ」
「ひうっ?…ぐぬぬ、拙者の敵、イケメン!!むっ、こ、この紙袋は渡さないぞ!!これは拙者の命」
「いらないけど?……琢磨」
「拙者の名前?……お主?どこかで……」
禁呪。
まさに今アルディが行ったのは禁呪指定されている『自身の魂に刻まれているもの』を分離召喚するものだった。
「相変わらずだね琢磨。嬉しくなるくらいに大嫌いなお前だし」
「?!!!!お、お前…拙者?なのか……??!!」
「死にたくなるくらい嫌だけどね。……琢磨の力、貸してほしい」
「拙者の力?……ぬふふ、遂に拙者も異世界デビューでござるか?」
状況を理解しているのか何なのか。
琢磨は怪しいポーズをとり眼鏡をチャキリとかけ直す。
「ふっ。何を欲する?この世界の破滅か?それともハーレム?ぐふふ、たぎる、たぎるぞおおおっっ!!!」
「あー、うん。とりあえず手が欲しい。レイルイドばかりに良い格好させられないしね。…君のイメージ、大量に呼べるもの、僕に教えてくれる?ああ、魔改造ももちろん妄想してね」
「ふむ。大量とな?ぐふふ、ならばあれしかあるまい。細胞、それも可愛らしい幼女の群れ。血小板を模した、あの子たち♡はあはあはあ。ま、魔改造であるか?むむむ、すでにあの子たちは最高の芸術品……なれば後は武力。くふふ。我に絶対服従、それをトリガーに最強の軍勢、召喚したまえよ。イケメン君」
アルディの脳内に凄まじく細かいディティールが流れ込んでくる。
正直吐き気がする。
でもこの世界、何よりも想像力が物を言う。
「まったく。終わったら即消去しないとね………限界召喚!!!」
アルディを起点に青白く光る幾何学模様の紋様が、彼を中心に大きな魔方陣を出現させる。
魔力をとことん吸い尽くし、大量の光の粒を生成。
彼のメインジョブ、精霊魔導士。
当然カンストし、今の彼のジョブ。
『神従魔闘士』
アルディはその力も限界まで使い、召喚したものに意志を持たぬ小精霊、それを紐づけて召喚した。
全てを掌握し、自ら操るために。
(くうっ、さすがに多すぎる?……脳が焼き切れそうだ……でもっ!!)
顕現する可愛らしいおそろいの服に包まれた可憐な幼女101名。
それに興奮し悶絶する琢磨。
しょうがなく1人を彼に渡し、残り100人の幼女を支配下に置いた。
すでに消耗激しく、倒れそうだ。
マジックポーチから魔力回復ポーションを取り出し一気に煽った。
「…ふう。…みんな、オーダーは分かっているね?」
「「「「「「「「「「うん♡」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「はいです♡」」」」」」」」」」」
「ぐふっ、ぐふっ♡」
約1名、聞きたくない声が混ざっているが……
気にしたら負けなのでアルディは無視して指示を飛ばす。
「じゃあ散開して。助けた人たちはあのドームの中に。いいね?」
「「「「「「「「「はーい♡」」」」」」」」」
琢磨のイメージ。
それはまさに完ぺきだった。
あの一瞬で101人。
性格から名前、果ては幼女の癖に体のサイズ、趣味趣向まで、あらゆる情報が構築されていた。
まさに究極の変態紳士、篠崎琢磨にしかできない芸当だ。
(…ったく。この能力、違う事に使えば……お前はきっとあの世界、楽しく暮らせただろうに…ほんと、業が深いよね)
力を使い果たし座り込む。
徐々に美緒のバフによる回復が始まる。
そして絶対に横は見ないと誓ったアルディなのであった。
※※※※※
アルディのすぐ横。
残された1体の幼女ちいちゃん。
可愛らしい彼女の撮影会がまさに今展開されていた。
「良いよ良いよ♡はあはあはあ♡…ちいちゃん。…じゃ、じゃあ、ちょこっとだけ…ス、ス、スカート、あげてみようか?」
「はい♡ご主人様♡」
「ぐふぐふぐふううっ♡なんて尊い。はあはあはあはあ♡」
まあ彼は変態紳士。
いわゆる『YESロリータ!NOタッチ!!』なので直接触れたり、いかがわしい事はしないだろう。
聞こえてくる悍ましい琢磨の声に、顔をしかめながらアルディはリンクした彼女らの目を通し、一人も落とすことなく救助を続けていった。