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第117話 四方陣の戦い1

到着と同時に一番遠方にある東の突端、朧岬おぼろみさきを目指しノーウイックはスキル『瞬脚』を全開で使用し、まさに一陣の風と化して突き進んでいた。


昨晩レギエルデの説明の後、美緒に呼ばれた俺達4人。

思い出したように語る真剣な美緒の表情が脳裏によぎっていた。



※※※※※



前日。


レギエルデの説明が終わり散開の合図が下り、俺はほっと息を吐いていた。

明日の決戦を前に、柄にもなく自身を包む緊張に思わず苦笑いを浮かべてしまう。


そんな中真直ぐ美緒が向かってきていた。


「ねえノーウイック。ちょっといいかな」

「あん?ああ、かまわねえが…なんだ?モナークにイニギア、それにロッジノ?……おいおい、諜報部隊揃い踏みじゃねえか」


声をかけてきた美緒の後ろにいる3人。

美緒のギルドの誇る諜報部隊、その面々が揃っていた。


「私ね、とても大事なことを思い出したの」

「大事なこと?」

「うん。レギエルデの作戦、凄く効率的で落ちはない。でも私思い出したの。……このままだとこの作戦、失敗してしまう」

「っ!?」


とんでもない事を言い出す美緒。

俺達は血の気が引いてしまう。


「あっ、ごめんね?でもすごいのよ。レギエルデ知らないはずなのに…ちゃんとカギとなるあなたたち4人を残してくれていた」


カギ?

説明のない今、俺達はただ呆然としてしまう。


「ねえ。あなた達の中で一番早く長距離移動できるのは瞬脚を長時間稼働出来るノーウイックなのかな?」


「あ、ああ。瞬脚は俺たち4人全員が習得している。だが今美緒の言ったように長時間となると…まあ、俺だけだな」

「そうだよね。………うーん」


腕を組み悩みだす美緒。

俺以外の3人はなぜか落胆している?


そしてひとしきりぶつぶつと独り言を言い、大きく頷く美緒。

メチャクチャ魅力的な顔を向け俺たち4人に微笑んだ。


「「「「っ!?」」」」


やべえ。

何だこの可愛くて美しい生き物……


一瞬で恋に落ちそうだ。


「ねえ、聞いてほしいの。私ね、絶対ミコトを助けたい。だからお願いします。……スッゴク危険なの。…でも、あなたたち4人にしかできない」


信望する美緒。

正直俺は加わったばかりだ。

でもほかの3人は違う。


俺なんかよりずっと長い時間、美緒を見てきていた。


くそっ、正直。


メチャクチャ羨ましいじゃねえかよっ!!


俺がこんな気持ちになるくらいだ。


だから美緒?

そんな顔するな。


俺達は全員、お前の為ならどんなことだって成し遂げる。


「美緒さま?何でも言ってくれ。俺は全力でその願い、叶えてみせる」

「っ!?…ありがとう、ロッジノ」

「お、俺もだ。美緒さま。何でも言ってくれ」

「うん。信じてます。モナーク」


皆が美緒に誓う。

ああ、なんだか知らねえが力が湧いてきやがる。


「あのね、今回救出するミコトなんだけど、その封印、実は遠隔で超強力な術式を複合してあるの。それを思い出した。今回こそ、絶対に救う」


美緒の目に決意の色が浮かぶ。

気付けば俺たちは震えていた。

武者震いだ。


「4か所で行うその封印。まずは一番遠方『朧岬』」

「朧岬?…それはどこなんだ?」

「うん。今同期するね……分かった?」


脳内に流れ込む綿密な手順。

ひとつ間違えれば即失敗するその仕掛け。

どんだけ性格の悪い奴が構築しやがった?


慎重に慎重を重ね、そしてそこを守るものは使い捨て。


マジでクズの所業そのものだ。


「これはね、絶対に一人では解けないもの。最初のトリガーを外し次のギミックまでの猶予はおよそ10秒。しかも解除するにはどうしても30秒は必要なの。きっと転移対策…本当に性格悪いよね」


何より驚愕すべきは美緒の知識量だ。

ゲームマスターとはいえ、彼女の能力は想像をはるかに超えている。


「だからね……これを」


取り出すは美緒の錬成した通信に特化した魔刻石。

何故か表面がつるつるしている。


「ここに時間が表示されます。4つの時間、しっかり合わせてどうか解除、お願いします」


俺たち4人は美緒の手渡すそれを掴む。

簡単に渡すがこれは間違いなくアーティーファクト。


俺達のボスはホント、とんでもねえ。

そしてその後続く説明を聞き、俺は顔を上げていた。


「信じます。私たちの成功、あなた達4人に預けます」



※※※※※



転送ゲートから目的の朧岬まではおおよそ20キロ。

俺の全力の瞬脚でも10分以上はかかっちまう。


でも俺にまとわりつく美緒の温かいバフ。


7分後―――


俺は多くの妖魔が蠢く、朧岬の祠を高台から見下ろしていた。


『……ロッジノ…モナーク……イニギア……待たせた。今から襲撃する』

『…おう。……流石だな。もう着いたのか?』

『まあな。一度切るぞ?モナーク、準備が出来たら連絡をくれ』

『ああ……死ぬなよ?』

『……お前らもな』



※※※※※



俺は通信を切り、魔力を練り上げる。

伝説と呼ばれる俺のジョブ『盗賊王』のスキル『パーフェクトゲーム』


綿密に練った行動計画。

それを確実に完遂する、いわゆる自身を操るスキルだ。


スキル発動と同時に俺の意識は途絶える。

無駄な感情が計画の遅延を招くのを防ぐためだ。


正直普通に生きていりゃこんなスキルは使う事なんてねえ。

しかし今回。


美緒は完璧な情報を俺にくれていた。


「ふん。凄まじいな。守っている妖魔12体。そして後からくる手はずになっている跡詰めの死霊18体。……まさにその通りだ。……美緒は本当に女神様なんじゃねえのか?」


思わず零す俺。

そして意識を集中させ。


すべての魔力を解き放つ―――――



※※※※※



南の封印の場所。

そこは何でもない住宅街の一角、すでに避難が済み誰もいない家に俺は忍び込んでいた。


『南の封印は地下にあるの。普通の住宅の中に入り口がある。気を付けてね。きっとそこを守る妖魔、目が見えない代わりに感知能力がとんでもないの。だからイニギア?あなたのジョブ『簒奪者』のスキル『スキル破壊』で無力化できると思う。凄く危険…ごめんなさい』


心配そうな顔をする美緒さまの昨日の言葉が脳裏によぎる。


ああ、俺はまだまだ力が足りてねえ。

俺がもっと強けりゃ美緒さまにあんな顔させることなんてねえんだ。


そんな思いを俺は軽く頭を振って脳から追い出した。


(今はそんなこと考えている時じゃねえ。一番近い俺が最初に準備しねえと……っ!?)


家の奥にある土間。

藁が積んである底から悍ましい妖気が漏れ出していた。


俺はそっと藁を退かす。


突然俺の危機感知が働き、凄まじい数の悪意が俺に襲い掛かってきた。


「くあっ?!!」


避けきれずに幾つかの傷を負ってしまう。

ご丁寧に即効性の毒が、自由を奪おうと血液とともに俺の体の中を蹂躙していく。


膝をつき血反吐を吐く。


アブネエ。

以前の俺なら即死レベルだ。


そんな俺を囲うように異形の者がゆらりと数十体、退化なのか適応なのか、目のないそいつらは短剣を手に一斉に襲い掛かってきた。


「……『スキル破壊』」

「「「「「「っ!?」」」」」」


突然動きを止める異形の者たち。

刹那吹き飛ぶそいつらの首。


事前の情報を得ていた俺は、俺だったものを囲むその外側から、一瞬で異形の者たちを無力化することに成功していた。


「馬鹿野郎。なめんな。……身移しくらいはな、盗賊だって出来るんだよ。鍛えてんだ俺たちゃ」


まだいる。

地下の奥から漂う妖気。


俺は気を引き締め、その深く口を開けているその奥へと足を進めた。


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