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第116話 マサカドの愉悦と絶望

九尾を封印してある結界。

性格の悪いマサカドは『この場所だけでは絶対に解けない仕掛け』を施していた。


『以前の美緒』の時のルート。

追い詰められ心を削られた美緒は最終的に力でごり押ししていた。


そして本来のゲームでのミコトの紹介文。


『呪われし妖魔の頭領九尾ミコト』


彼女はどのルートでも呪われたまま物語を進めざるを得ないキャラクターだった。

設定での決まり事。

これは美緒の隔絶解呪でも届かない呪いだった。


つまり今まで一度もマサカドの計略、破った事実は存在しない。



※※※※※



乱戦に包まれるやしろ内部の『神の間』

すでにあり得ない大量の妖魔の亡骸が散乱。


この世界の摂理、自動に消えていく速度をはるかに上回るそれは十兵衛たちの行動を著しく阻害していた。


「ぐっ、間合いが?!」


集中して戦わないと命にかかわる強敵。

強さを増し、そして相手は殆どがアンデット。


そもそも自らの生存を考慮に入れていない。


もちろん十兵衛はじめマール、そしてデイルードにしてもそれは承知している事。

確実に活動不能にするべく、四肢を破壊、再生不可能にするためいわゆる魔核を確実に破壊していた。


しかし物理的スペースの減少。

それはどうしても一撃に乗せる威力が減ってしまう。


つまり、気付けば追い詰められ始めていた。


「まずいな……倒しきれなくなってきている。くうっ?!」

「ふむ。これは計算外だ。流石に厳しいと言わざるを得ないな」


珍しく弱音を吐くマール。

それほど状況は悪くなっていたのだ。


その様子を高みの見物で見ているマサカド。

ミコトを封印しているすぐ前でさらなる妖魔を召還しながら、にやりと顔を歪ませた。


「くはは。やりますね。…ですが…そろそろ厳しいようですねえ。クヒッ、ヒヒヒ、ヒヒャハハハハハハハハハハハハハアアア!!!」


勝利を確信する。


自身はいくら殺されようと新世界の神、ダゴンの権能で復活できる。

そしておそらく襲撃者である十兵衛たちの一番の狙い。


九尾の封印は絶対に解けない。


万が一何かしらの方法で無理やり破れば悍ましい呪いがミコトを縛る。


完全なる八方塞がりだった。


(くはは。完璧です。…まさに十重二十重。我ながら最高ではありませんか!!)


愉悦。

愉悦。

愉悦。

愉悦。

愉悦。


圧倒的愉悦。


そして沸き上がる悍ましい欲望。


「くふふ。そろそろ外も決着がつく頃でしょう。今頃あの可憐な少女たち……我が神にどれほど快楽を与えられている事か……ああっ、想像するだけで……たぎりますねええ!!!」


「っ!?」

「……下衆が」


その言葉に反応を見せるマールとデイルード。

マサカドはにやりと笑みを浮かべ、この長い時間ずっと練っていた幻影を二人の足元から忍ばせ、遂に捕らえた。


「「っ!???」」


突然立ち尽くす二人。

彼らの脳裏に、凌辱されている美緒とリンネ、そしてルルーナの姿が浮かぶ。


『………ああ、いやっ……あうっ……助けて……デイルード……いや、ああ、マール……いやああああ――――』


あられもない格好で女性の大切なところを悍ましいもので突き抜かれ、泣き叫ぶ美緒。

彼女の可憐な美しい肢体に幾重にも残される激しい痣と出血の跡。


『うああ、も、もう……やめて……ひぎいっ?!!』


足を引き裂かれ、絶命する散々凌辱されつくしたリンネ。


『う…あ……あ、ああ……あ…あっ?!!……うあ…あ………』


激しく穢され、すでに判別が出来ないほどぐちゃぐちゃにされたルルーナ。


余りのおぞましさ。

直立した二人に、かつてないほどの暗鬱なオーラがまとわりつく。


(くひひ。これで心が折れる……私の勝利だ……くひ、くひひ。……まあ、あの黒髪の少女…あとでたっぷりと私が楽しみますがねええ!!!)


幾つもの策。

完全にはまったと信じて疑わないマサカドは既に興奮を抑えられなくなっていた。


だから気付かない。

デイルードとマールの真骨頂。


愚かなほどに深く美緒を信じる、まさに狂信ともいえるその精神を。


マサカドの感知能力。

それが感知することを拒絶するほどの、感じるだけで存在が消滅する、だから本能が無視してしまうほどの圧倒的な魔力が吹き上がっていたことを。


マサカドは踏んでしまっていた。

眠れる竜の逆鱗を。

そして触れてしまった。

決して触れてはいけない禁忌を。


「え?」


マサカドの視界が斜めにずり落ちた。


「黙れ」


まさに一瞬。

マサカドは自分の首が跳ねられたことに気づく事が出来なかった。


しかし彼は慌てない。

何度でも問題なく甦る。


だが……


「き、貴様っ?!…」


瞬間飛ばされる首。


そしてまた甦りそして今度は脳天から真っ二つにされる。


繰り返す圧倒的な死。


そして数回を数えるころ―――

気付けば妖魔の死体どころか神の間にはすでに何もない状況になっていた。


「は?……ば、馬鹿な?…ぐうっ?妖気が練れない?な、何だ?ひぎいっ?!!」


頭を破壊され心臓をつき抜かれる。

そして下半身は粉砕される。


マールと十兵衛、そしてデイルード。

マサカドは生き返る瞬間、いや巻き戻った瞬間に悉く殺され続けていた。


マサカドは既にアンデット。

痛みなど感じない。


しかしそんな彼でも元はヒューマン。

その魂はどんなに穢れようと、その時の恐怖は残っていた。


やがて沸き上がる原初の恐怖。

そしておそらく100を超える死を迎える時、遂にそれは訪れた。


「マール、デイルード、十兵衛!!おまたせっ!!」


「封印はまだ?……ん?美緒、そろそろじゃない?」

「あれがマサカド?ふーん。なんか情けない顔してるね」


美しい女性3名。

まさにダゴンに凌辱されたと信じていた3人が全く無傷で乗り込んできた。


そしてさらには光輝く聖なる鎧に包まれたロッドランドとそのコックピットのような場所から恐る恐る顔を見せるティリミーナ。


さらには美緒への愛を改めて認識し、とんでもない魔力を噴き上げるレルダン。


揃う伝説のギルドの9名。


その眼光が一斉にマサカドに突き刺さる。


「ひ、ひいっ?!!」

「クズがっ!」


マールの一閃。

マサカドの右腕が宙に舞う。


「くふっ?!………………………なっ?!」


驚愕に染まるマサカド。

回復しない。


すでにダゴンは美緒たちによって滅ぼされていたのだ。


そしてさらなる絶望がマサカドを襲う。


切飛ばされた右腕の切り口を押さえ、後ずさるマサカド。

その背中に突然在り得ないような圧がかかる。


背筋に今まで感じたことのない恐怖。


「捕まえた」


かつて感じたことのある妖気。

2000年前、それは彼の魂に焼き付いていた恐怖の代名詞。




そこには。




怒りに瞳を燃やし、地の底から侵食する様なあり得ない冷気を噴き出しているミコトが立っていた。


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