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第119話 マジで性悪な四方の封印

やしろの北方およそ2キロの地点。


ほぼ一瞬でたどり着いた俺は高台で身を潜めていた。

今届いたノーウイックの連絡。


作戦開始の合図とともにほこらの前へと進む俺。

異常に色っぽい女性をはじめ、魅力的な5名くらいから熱烈な誘惑を受けていた。


「くっ、こ、このっ、は、離せっ!!」

「あんっ♡もう、照れちゃって可愛い♡」

「男の人なのに、背、ちっちゃくて可愛い♡」

「…良い男……抱いて…」


只のヒューマンの女性。

情報通り呪われている様子は見受けられない。


ただ彼女たちの瞳の奥。

並々ならぬ決意が見え隠れしていた。


(くそがっ!!マジでこの結界の設置主、性格が悪すぎだ)


抱き着かれ、手を使わずになすモナークに絡まる女の体。

安かろうが香油を塗っているのだろう。

充満する女の匂いと柔らかいその感触に、思わず男の本能が首を持ち上げてしまう。


モナークとて女が嫌いなわけではない。


だが感知能力がとことんバフにより強化されている今、彼女たちが大切なものを人質にされ死に物狂いでモナークを引き留めようとしている背景までもが見えているためどうにか耐える事が出来ていた。


(まだ12歳くらいの娘まで居やがる……くそがっ!!!)


正直気を失わせることなどたやすい。

しかし感知するギリギリ、その場で監視している複数の妖魔の存在がそれを不可能にさせていた。


何より時間の条件を満たす必要がある。


(ちっ。襲ってくりゃあ簡単なものを……50体くらいか…マジで厄介だぞこれは…それにこの女たち…俺から手で触るとアウトとか?突き放すことも出来ねえ)


モナークは身を捻り躱しつつ、こっそりといくつかの魔刻石を発動させながら、昨日の美緒の言葉を思い出していた。



※※※※※



「北はね、実は一番厄介なの。ここからかなり近いし正直封印もね、小さな祠?そこにあるだけ。祝詞のりとを捧げて30秒後には取り外せるわ」 


眉を寄せ何故か難しい顔をする美緒。

そして驚愕の事実を話し始める。


「私たちが襲撃を始めると、封印が起動するの。正確には社を包む結界を壊したら、かな」

「……」

「起動後祠へと近づくと強くなる。でも強くならないと解呪できない。強くなってから10分、最低そのくらいは発動させないと干渉が出来ない仕掛けなの。だから事前にもし取ってしまうとそれは失敗扱い。もちろん強くなると今度はトラップが発動する。朧岬も南の住居の中も、そして西の死骸置き場もね」


「じゃあ分かっていても最低10分は待つしかねえのか?」

「うん」


今回の結界の仕組み。

本当に十重二十重で、考えた奴は相当に頭が切れるようだ。


「4つの封印はね、それぞれ幾つもの意味を持っている。東は時間、南は策略、西は生理的嫌悪、そして北は……人の欲をとことん弄ぶ、非道な仕掛け、つまり禁欲と人質がカギなのよね」

「禁欲と人質?」


この時点で北以外は説明が済んでいた。

俺が行く北。

一番近く、美緒が厄介という場所。


「…俺で良いのか?実力的にはノーウイックの方が良いんじゃねえのか?」

「あー、それは絶対にダメかな。ノーウイックだと多分失敗しちゃうと思う」

「はあっ?!お、おい、美緒?それってどういう……」


一番遠方、朧岬へ行く事が決まっているノーウイックが思わず美緒に問いかける。

まあ、完全なダメ出しだ。


同じ状況なら俺だって聞いちまう。


なぜか美緒は可哀相なものを見るような目をノーウイックへ向け、ぼそぼそと話し始めた。


「トラップね、可愛い女の子たちなの。……あなた10分も手を出さない自信ある?きっとすぐに女の子にえっちい事しちゃうでしょ?意志を持って手で触れた時点で失敗扱いなのよね」


そして全員の脳裏に以前のルートの時美緒に絡みついている5人の女性のイメージが伝わった。


めちゃめちゃ色っぽい女から可愛らしい清純な女性。

その5名があられもない格好で美緒に絡みついていた。


「「「「っ!?」」」」


突然のメチャクチャ腰に響きそうなエロイイメージ。

俺たち4人は思わず軽く蹲ってしまう。


「……はあ。ね?ノーウイックじゃダメでしょ?」

「あ、ああ」


絶対にノーウイックはダメだ。

間違いなく一瞬で触りまくる未来しか見えねえ。


何よりあの状況を10分?

突きとばしてもダメ、ただ体をひねり往なすだけ?


俺だってきっと理性の限界だろう。


「この子たちにダメージなり何かが通ると、その瞬間封印は破綻する。…ね?性悪でしょ?」


まあよくよく聞けばそれを監視している多数の妖魔。

その中に封印とつながっている個体が複数いるという事なのだが。

そしてそういう契約で縛ってある。


封印を強くするために約束事で縛っていた。

逆に言えばそいつらは、対象が禁を侵さない限り手は出せない。


「なら先にその妖魔を殲滅したらどうだ?その女たち、脅されている状況なんだろ?」

「……擬態しているのよね」

「擬態?」


大きくため息を付く美緒。

そして悔しそうな顔をして俺たちに視線を向ける。


「妖魔の中の数人、彼女たちの大切な彼氏だったり夫に擬態している。もう本当は殺されているのだけれど。でも彼女たちはそれを知らないの。だから必死。…女の子の純情、スッゴクっ強いのよ?」


分かってしまう。


この世界はなんだかんだ命が軽い。

そして平民の暮らしは結構ハードモードだ。


だからこそ愛だの恋だのは彼女たちにとってかけがえのないものだった。


擬態とはいえ彼女たちはお互い精神の深い所で繋がっているのだ。

だからもし倒した妖魔の中に対象がいた場合、殺した瞬間に女の子たちはきっと絶望し自害する。


すなわちそういう縛りの中、それは失敗扱いとされてしまう。


「…マジでえげつねえ」

「ホントそうよね」


何でも前の美緒のルートの時、すでに結界自体は無理やり破壊したそうだ。

そして各四方については人が絡む北だけを、その後ゆっくり攻略したらしいが……


美緒の精神はそれも相まってかなり削られたらしい。


「女の子たち、全員舌を噛み切って自害したの。…私の目の前で」

「「「「っ!?」」」」

「私先に、取り巻きの妖魔、殺したのがばれてね…ていうかそういう術式、しかも解除した後で発動するように仕組まれていた。……今思い出しても心が痛い。実際には経験していないよ?あくまで情報なんだけどね」


使い捨て。

まさに今回の封印、それが基本だった。


「じゃ、じゃあ、どうするんだ?どうやって…」


聞いている以上詰みだ。

やりようが浮かばない。


「でも今回は絶対に彼女たちも救いたい。私には隔絶解呪がある。だから時間を止めることにした」


そう言い取り出す魔刻石。

見たことのない不思議な色の魔刻石だ。


「整理するね?まずは封印を稼働させるため、起点となる北、そこを発動させる」

「お、おう」

「モナーク?胸糞悪いと思う。でも10分、何とか耐えてね?」

「お、おう」

「そうするときっと妖魔が全員で襲ってくる。正直一番強い奴でレベルは50くらい。問題ないでしょ?」


やっと息をつく俺。

戦うだけならその程度100人いても問題はない。


「だ、だがその女性たちは?」

「うん。だからね、10分経過すると封印が光を放つの。そうしたらこの魔刻石を発動して?ああ、魔力は女の子たちがあなたに触れた瞬間に注入してね?いきなり発動する術式だと、バレてはいけない眷属にバレちゃう。だから同時にこの隠蔽の魔刻石もお願い」


一応俺たちはすでに同期済みだ。

解呪の手順はもう頭に入っている。


でもこの情報、スキルを経由して伝えてはいけない、なぜか全員が確信していた。


「はあ。本当にあなたたちは優秀ね。理由は分からない。でもたぶんレギエルデ、分かっていて言わなかったんだと今は思うの」


恐らくそうだ。

ったく。


レギエルデもとんでもなく優秀だ。

マジでこのトラップを考えた奴の上を行く。


そしてもちろん。

美緒さまもだ。


「つまり、だ」

「うん」

「俺がその女性の熱烈な誘惑に10分耐えて、結界が光を放ったら時を止める。そして襲ってくる妖魔を殲滅して祝詞を紡ぐ。そして他の3方向、俺が祝詞を紡いでから5秒ずらして解呪を始める。そうして4つ全てを解いて初めて封印が解ける、ってことか?」


とんでもなく面倒だ。

しかも時間的余裕がないに等しい。


最低10分。

一番の懸念は遠い地へと赴くノーウイックだ。


「じゃあ俺が現場に付いたら作戦開始だな」


ノーウイックが口を開く。


「俺の合図でモナークが魔刻石を発動、10分間で完全に各方面は掌握してその時を待つ。なあ美緒、順番はあるのか?」

「うん。北を起点に右回りだね。北で解除後10秒以内に東、そして南、最後に西だね……ごめんなさい。改めて説明するととんでもないね」


確かにとんでもねえ。

今までのミッションが子供のお遊びに見えてくる。


だが説明を終えた美緒さまの表情。

驚くほど信頼に満ちた瞳をしていやがる。


「でもあなた達、成し遂げるでしょ?……あなた達は最高で、大好きな仲間なんだもん♡」


そう言ってにっこりと笑う美緒さま。


ずりい。

こんな顔されたら絶対にやり遂げるしかねえじゃねえか。


「ああ、任せろ!!」


ああ、ほんと。

俺達のボスは最高に可愛くて容赦なくて。


そして。


世界で一番愛すべき只一人の女性だ。

お前の願い、絶対に叶えてみせる。



俺たち4人は誓ったんだ。


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