在り得ないような殺気を乗せ、マサカドを睨み付けるミコト。

そしてふと彼女の視線が十兵衛の持つ剣へと移った。

「……琴音…目が覚めたんだね」

（…うん。……ごめんね…ミコト）

鳴動し震える聖剣『琴音之命』

同時に十兵衛の目から涙があふれ出す。

「……ミコト殿。封印は解けたのであろうか」

「…君は…ふふっ。トポの生まれ変わりなんだね……うん。そこにいるゲームマスター？ありがとう。君のおかげでボクの封印が解けた。礼を言わせてほしい」

妖魔の頭領、九尾ミコト。

封印が解かれた直後なのにすでに彼女は色々把握していた。

今回のルート、初めて彼女の封印を正しく解く事が出来た。

ノーウイックたちは本当に優秀だ。

「うん。私の大事な仲間があなたの封印解いたの。…あとであなたが直接お礼言ってくれる？」

「っ！？ふふっ。君は凄いんだね。うん。……取り敢えず、2000年前のケリ、着けようか」

さらに圧を増すミコトの妖気。

敵意のない私達でも思わず蹲ってしまうほどの強さだ。

「ひ、ひいいっ！？？」

膝から崩れ落ちるマサカド。

床を這いずりミコトから離れようと必死だ。

「どこへ行く？琴音殿に殺されたいのか？」

「ひぐうっ？！！」

十兵衛がスラリと聖剣を抜きマサカドの目の前で仁王立ちする。

新世界の神とやら、いわゆるあのタコ『ダゴン』が滅び、結界の構築とともにマサカドに妖気を送っていた封印も解かれた。

もう彼に今の私たちに抵抗するすべはない。

はずだった。

「っ！？」

「なっ？！」

「っ！？……ま、まさか……この魔力…」

突然すべてを飲み込むような膨大な魔力が遠く離れたところで爆発的に迸った。

（……やっぱりね。……たぶんそうだと思っていた）

ジパングを囲うように今回起きていた騒動。

まずは北の果て魔獣ウロトロス。

そしてここより北の地での侍マスターミフネの怨霊。

遠い西の地、大魔獣オロチ。

全てを結んだ中央。

そこにはあるものが封じられていた。

「リンネ」

「う、うん」

「行ってくるね？」

「っ！？…わ、私も……」

美緒はリンネをそっと抱きしめた。

「リンネはきっと耐えられないよ？私今からあなたの双子の弟、ぶっ飛ばして来るんだもん。お姉ちゃんに任せて？」

「……美緒………うん」

私は大きく息を吸い、いま不安に陥っている私の大切な仲間に檄を飛ばした。

「まだ終わってないっ！！」

「「「っ！？」」」

「み、美緒さん？」

「…む。確かにな」

余りの展開に茫然としているマサカドを私は睨み付けた。

「私はあなたを許さない。でもとどめを刺すのは私じゃない。『隔絶解呪』」

私はおもむろに、十兵衛と聖剣、そしてミコトを隔絶解呪で包み込んだ。

「うおっ？！」

「……」

「ああ、なんて気持ちのいい光……」

光が彼らを包み込む。

そして中央から清廉な温かい緑の気配が膨れ上がった。

（ああ、これは……私たちの大好きなあの場所………っ！？え？！！）

（っ！？力が……ああっ、あの時のボクの力が…満ちていく？）

（………え？……僕……ええっ？！）

（凄まじいな……ああ、まさに女神様……）

光はやがて霧散していく。

そしてそこには4人の姿が顕れていた。

九尾ミコト。

雪女琴音。

少年トポ。

そして……真に覚醒を果たした……天命によりその苗字を与えられた伝説の剣豪。

柳生十兵衛。

4人から凄まじい魔力が吹き上がる。

「貴方達にマサカド、預けます。……2000年の恨み、確実に晴らしてください。彼は既に人間には戻れない。私の隔絶解呪でも、もう届かないの。だから眠らせてあげてください」

「…承知」

元聖剣だった琴音之命。

構成するすべての要素が弾け、すでにその存在が失われつつあった。

しかし十兵衛は祈る。

元があったはずだ。

何よりあの輝き。

名もなき名工、きっとその魂。

込められているはずだった。

「拙者に力を……拙者が目指すは皆が笑って暮らせる世界。そのほうを作りし名もなき名工よ。拙者に答えて欲しい」

十兵衛の祈りと問いかけ、そして覚悟。

消えゆく刀は七色の輝きに包まれた。

「「「「「おおっ」」」」」

皆のどよめきが湧く。

そして十兵衛の手には美しい波紋をその刀身に映す刀―――

伝説の妖刀ムラマサがその姿を顕わしていた。

「ミコト殿」

「うん。……その刀…それが本来の姿だったんだね……ふふっ、おっかないな。まさに妖魔を切り裂く妖刀だね。ボクも殺されそうだ」

「ふっ。拙者とて馬鹿ではない。安心召されよ。この刀は今日とそして後一度しか使わぬ」

「2回だけ？」

「ああ。……そうであろう？美緒殿」

彼は今完全に覚醒を果たした。

どんなルートでも居なかった真の十兵衛、いや柳生十兵衛。

彼は既に最終戦、つまりは虚無神との戦いに思いを巡らせていた。

「そうだね。じゃあ後はお願い。私ちょっとお仕置きしてくるね」

「……ご武運を」

「うん」

そう言い消える美緒。

十兵衛はマサカドの前へと進んだ。

「ひ、ひいっ、た、助け…」

「よかろう。お主の魂、冥府で磨き直すといい。拙者が介錯承った」

音もなく振り切られるムラマサ。

「あ？…………？？！！！！！」

「せめて安らかに……終わりだ」

浄化され光の粒に分解されていくマサカド。

幾千の民を殺し凌辱し尊厳を奪い続けた悪魔。

その最後は全くふさわしくないほどに美しい光景に包まれていた。

「まったく。全部十兵衛にいいところ持って行かれちゃったね。ねえ琴音」

「…良いんじゃない？…そ、それよりミコト？……あ、あの…っ！？」

突然琴音を抱きしめるミコト。

その目には涙があふれ出していた。

「ぐすっ。ごめ…ごべんね…ボクが…守るって…ヒック…言った…うああ…のに…」

「ううん…ヒック…わ、私…グスッ…うあ、うあああああああ…あああああああ……」

2000年前にその身を穢され呪いと怨嗟に囚われた琴音。

同じく全てを奪われ怒りに囚われたミコト。

長き時を超えた邂逅。

二人の美しい少女のお互いを思いやる暖かな抱擁。

リンネたちはただ静かに、優しさに溢れながらもその様子を見つめていた。

全員がその目に涙を浮かべながら。