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第121話 聖魔対戦?いやいや姉弟喧嘩でしょ!

いわゆる聖域。

ジパングのほぼ中央。


多くの巨石群に隠されていたモノ。


大地の力と幾重にもあふれていた思念、そして封じられし魔力。

それはまるで定めのように200年の時を超えその目を見開いていた。


「……はあ。時が来たってこと?…全く……起きたくなんてないのにさ……」

「初めまして、かな?…ガナロ?」

「……ゲームマスター……」


転移して飛んだ先。

大きな岩石の上でガナロ、破壊神はただ膝を抱え茫然としていた。


リンネそっくりな顔。

きっと一卵性なのだろう。


まだ幼いその顔には以前のリンネと同じ顔があった。


「ねえガナロ?あなたは今この世界、やっぱり滅ぼしたいのかな?」

「……そうだね。…僕の存在意義、それしかないんじゃないの?」


そう言って立ち上がる。

凄まじい魔力が立ち昇った。


「んん?別にいいんじゃない?……ねえ、虚無神の命令なのかな」

「うん?……あー、呪いなのかな?僕の魂に刻まれているんだよね。リンネは居ないの?」

「おいて来たよ?…融合なんてさせない」

「っ!?……ははっ。流石はゲームマスターだね……それも知っているんだ」


リンネの対で力を司るガナロ。

融合しすべてを塗りつぶし破壊神はその権能全てを獲得するんだ。


「はあ。……で?そのあまりある力で僕を殺すの?……リンネも消えちゃうけど?」


穏やかに話すガナロ。

でも裏腹にその力は天元を超えどんどんいやな気配に包まれていく。


(ウロトロスの力、そしてオロチ、ミフネ……やっぱりあれはガナロの分離された力の一部……強い)


はじける魔力。

凄まじい魔力圧でガナロの体が宙に浮く。


「ふう。これでもまだ君の方が強いんだ。……なんなの君?バグなのかな」

「そうかもね。ねえ、私貴方のお姉ちゃんなんだけど?……『君』呼ばわりはちょっと嫌かな」

「ふーん。……確かに君は母上、マナレルナ様の子供なんだね。……ねえ、お母さまを殺したのってヒューマンなんでしょ?君は、姉さんは頭に来ないの?」


穏やかな語り口。

でも私の危機感知はかつてないほど警鐘を鳴らす。


「……姉さんは危険だ……きっとこの世界、いや摂理に反する存在……まだ今の段階、完全に覚醒する前に僕が滅ぼす……もういいんだよ?そんなに歯を食いしばらなくたって……最後は変わらないんだ。どうせみな消えてなくなる……だってそれが虚無神の願い、存在理由だ」

「……」

「だんまり?……ああ、凄いな……これだけ力漲らせても、君に届かない……それに慎重なんだね…この空間、完全に断絶している…でもさ」

「うん?」

「……舐め過ぎでしょ?一人で来るなんて」

「っ!?」


気付けば私は。

体中の骨をぐしゃぐしゃにされ、巨大な岩石にめり込んでいた。


「ぐはあっ?!!」


口から噴き出す赤黒い血。

鉄みたいな匂いが口の中に広がっていく。


「……マジで?……これでも滅ぼせない?…ははっ、本当に君は何なのさ」


ガナロの権能の一つ。

予定調和。


彼の決定はすべてに優先される。

恐らく彼の願ったもの。


私の破滅だった。


私は全力で自身の魔力を巡らせ幾つもの能力をぶん回す。

やがてガナロの権能、そしてその能力。


私は習得に成功した。

もう負ける事はない。


「ねえ。反則でしょ?……ボクを滅ぼすのかな?」


なぜか諦めた表情を見せるガナロ。

この子は既に生存、いや存在自体をあきらめていた。


まだ10歳くらいの見た目の美少年。

リンネと同じ200年封印されていたこの世界の脅威。


そういえば開放したてのリンネも色々諦めていたことを思い出す。

力があるくせにそれを放棄しようとするその精神。

まあ優しさゆえ、なのだが……


でもなんか。

私はだんだんムカついて来た。


「あのさ……なんであんた、諦めてるの?…未来は変えられるよ?…私が変えるし」

「………ふん。……姉さんは無駄な努力、続けられるの?…どうして僕の封印、解いたのさ…僕は嫌なんだよ……役目?宿命?…もう沢山だ……」


いわばリンネは善性でそして思念や知識、創造神としての力の半分を司っているんだ。

リンネに無いもの。

悪性に圧倒的な武力。


ガナロはそれを司りつつ自分の力を嫌悪していた。


「ああ、もういいよ。…最後にリンネに会いたかったな……じゃあね姉さん。一緒に滅ぼう」


集約するとんでもない魔力。

あまりの濃度に大気が消失。

呼吸すらできない状況となっていた。


「ははっ。流石にこれは対応出来な…ぶばあっ?!!!」


私は思い切りガナロの顔にビンタを叩き込んだ。

キリモミ状に吹き飛び巨石に叩きつけられるガナロが驚愕の表情を浮かべ私に視線を向けた。


「な、なあっ?!!!ぐはあっ!!」


今度は一瞬でガナロの間へ転移し掌底で突き上げる。

空高く吹き飛ばされる彼は、初めての衝撃に茫然としていた。


「まったく。めんどくさい弟だね。……ハイネ君くらい素直なら、もっと可愛いのに」


私は霧散した魔力下で、戻ってきた大気を大きく吸い込んだ。

そして纏う闘気。


徹底的にガナロを教育することを私は既に決めていた。


「ちょ、ちょっと?……ひうっ?!!」


殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。

防御しようが躱そうがお構いなく叩き込む。

隔絶解呪を拳に乗せながら。


骨の砕ける鈍い音と、まるで爆発するような響き渡る打撃音。

圧倒的防御力を誇るガナロ。

その体が徐々に壊されていく。


「ぐうっ、ぐあっ?!…痛い?……ぼ、僕が??ひぎいいいいいっっっ?!!!」


まるで蹂躙。

私の全力の物理。


きっとガナロでなければすでに消滅しているほどのダメージを叩きこんでいた。


しばらくして。


すでに虫の息でほぼ原形をとどめていないガナロの胸ぐらをつかみ上げ、私は彼の瞳を睨み付ける。


「ねえ。目、覚めたかな?」

「……痛いんだけど……何のつもりなのかな?意味なんてないよ?……結果は変わらな…っ!?」


えっ?

ゲームマスター?

涙……


突然胸の奥から知らない感情が沸き上がる。

切なくて甘い感情。

伝わってくる僕を心の底から心配する、少し不器用で、そして溢れる優しさ……


気付けば目の前のゲームマスター。

僕を殴りつけていた手……


すでにぐしゃぐしゃになっていた。


そして。


突然包まれる柔らかく温かい感触。

ああ……お母様………ぐすっ…っ?!!


涙?

僕が???


僕の魂に刻まれた破壊の衝動。

気付けばそれはすでに無くなっていたんだ。


僕は生まれて初めて。

解放されていた。


あの忌まわしい虚無神。

そいつの刻んだ僕の存在意義と役目。


抱きしめてくれているゲームマスター……いや美緒姉さん……ああ、こんな事……あるんだね………


僕は生まれて初めて安心した思いのまま意識を手放した。



※※※※※



私の腕の中で安心した表情を浮かべ意識を手放したガナロ。

どうにか回復が届き、リンネそっくりな可愛い顔で寝ている。


それを見て私はようやく魔力を振りほどいた。


(……これでまだ全開じゃない?…全く。リンネの5倍は強いとか……ぎりぎりだった……本当にすごいねレギエルデ……もしこの順番でなかったら、すぐにジパングに来ていなかったら……もう誰もガナロに勝てなかった…滅ぼすしかなかった)


本来のシナリオ。


ガナロは2年後の帝国歴27年の冬、アルディによって唆されるはずだった。


そしてジパングの闇を解き放つ。

それもその事件の後。


すでにシナリオは完全に破綻していた。


私はガナロを抱きかかえたまま思わず座り込んでしまう。

今朝のバフ付与から始まり相当の魔力を消費した私は自分でも分からないほどの疲労がたまっていたようだ。


腕の中。

リンネより薄い朱色の髪を撫でる。

ピクリと反応する彼。


とっても可愛い。


(はあ。リンネそっくり。……可愛い顔……うん?)


意識のないガナロ。

きっと本能なのだろう。


私のつつましい胸に顔をうずめる。


(ん♡……あうっ?!ちょ、ちょっと???)


おもむろに服の上から私の胸の先っちょを口に含み、歯であまがみを始める。

気付けば両手で私の胸を包み込んでいる。


まるで授乳。


今まで感じたことのない感覚に、私は腰が砕けてしまう。


「…んっ?!……あ、あんっ♡……うあ、…こ、これって……んあ♡」


求めるガナロ。

きっとお母様、マナレルナ様を求めるその光景。

私はされるがまま、顔を赤らめつつその様子を静観していた。


(はあ。…男の子って、いつまでもお母様、そして、そ、その……おっぱい、好きなのね)


ありていに言って今私は、小さいとはいえ男の子に胸を揉まれながら、先っちょを執拗に吸われていた。

もちろん服の上からだよ?!


(……恥ずかしい……でも………)


きっと女性なら持っているであろう母性。

今私は間違いなくそれに囚われていた。


(……赤ちゃんもこんな感じなのかな………赤ちゃん?……私が産む?………えっと……えっちして作るんだよね?)


何故か脳裏に浮かぶエルノール、そしてザッカートとレルダンの顔。

私は一人、まるで茹でダコのごとく顔を赤らめ、湯気を出ししばらく呆然としていたんだ。


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