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第123話 楽しい納日の大宴会

暫くして。

皆が目を輝かせ、我がギルドのサロンに全員が集結していた。


「コホン。えっと、それじゃあ新しく私たちの仲間になった人たちを紹介しますね。ミコト、琴音、トポ、それからガナロ。あと私たちのギルドのお手伝いをしてくれる里奈さんに幸恵さん、それからコノハちゃんにマイちゃん、サクラちゃん」


私の横に立っている9人。

皆の視線が集中する。


「もう『同期』したからみんなわかっていると思う。この子たちは酷い目に遭っていた。でも今はもう私たちの大切な仲間、仲良くしてね」


「「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」」」

「ふわー、ガナロ様、可愛い♡」

「「やべえ。ミコトも琴音もめっちゃ可愛い!」」

「「「5人のジパングの女性、みんな可愛いな!!」」」

「トポ君?ふふっ、純情そうな男の子……はあはあはあ♡…尊い!」


誰かな?

変なこと言うの!?


コホン。


「それから。……みんなご苦労様でした。信じていたけど、改めてお礼を言わせてください。…本当にありがとう。私とってもいま満足しています。……美味しいご馳走を前に長い挨拶は無粋だよね?みんなグラスに飲物を注いでくれる?」


がやがやワイワイ。

今紹介した9人もそれぞれ席に着いた。

その様子に胸がときめいていく。


「じゃあ。……私達ギルドの完全勝利、そして新しい仲間たちに、乾杯!!」

「「「「「「「「「うおおー、美緒さま―――乾杯!!」」」」」」」」」

「「「乾杯!!!くはー」」」

「「「美味しー♡」」」


ああ。

本当に嬉しい。


私は。

私たちは。


ジパングの闇を取り払ったんだ。


私はグラスに注がれているほんのり甘いリンゴジュースを飲み干した。


「………あれ?」


んん?

これって……


な、何でアルコール???


いきなり赤くなる私の顔。

そして鼓動が激しくその速度を増していく。


「うあっ?!美緒?……ええっ?!こ、これ…だ、誰が美緒に飲ませたの??」


ふらつく美緒を慌ててリンネが抱きかかえる。

アルコールに慣れていない美緒。

僅か一杯ですでに正体不明状態になっていた。


「おいおい。マジで弱いのか?……あー、すまん。せっかくの納日だ。少しくらいいいかと思って」


バツが悪そうにそう零すザッカート。

なぜか目はニヤついているけど?!!


「も、もう。何やってるのよ!!……美緒?大丈夫?」


世の中にはまったくアルコールの耐性がない人がいる。

美緒もその一人だった。


しかし彼女の凄まじいスキルとその対応力。

一瞬で体が対応。

なぜか目の座った美緒がザッカートの胸ぐらをつかみ上げる。


「お、おう?!」

「……ザッカート」

「……な、なんだよ」


そして今度はなぜか思い切り抱き着いてうっとりとした目で彼を見つめる。


「…もう……なんであなたは、そんなにカッコいいの?……ズルい!!」

「うあっ?!お、おい、美緒?……ぐうっ?!リ、リンネ様?た、助け…」


異常な力で絡みついてくる美緒。

風呂上がりのいい匂いと美緒の柔らかい感触にザッカートは完全にうろたえてしまう。


「むうっ。どうして逃げるの?……ザッカート…私の事、嫌いなの?」


目が座りなぜか甘えモードの美緒。

正直メチャクチャ嬉しい。

やばいくらい可愛い。


だけど……


サロンは今絶対零度の魔力が渦巻いていた。


(やべえ。嬉しいが俺の命がアブネエ…ぐうっ?この殺気…レルダン?…い、いや、エルノールもか?!……うぐっ?ほかにも数人が?!)


反射的に支えるようにそっと美緒の体に触れるザッカート。

途端に心溶かすような美緒の妖艶な言葉が耳に入る。


「んあっ♡…えっち♡」


ぐっはああっ?!!!


破壊力やべえ!!


さらに冷気に包まれるサロン。

ザッカートはまさに命の危機を感じていた。


「んんん?……わあ♡エルノールだあ♡」


いきなり消える愛おしい感触。

気付けばエルノールにしがみついている美緒。


安堵とともに激しい寂しさがザッカートを包み込んでいた。


その様子に、どうやら健康上の問題はないと判断し、リンネはグラスに入っているお気に入りのチューハイを飲み干す。


最近の彼女のマイブームは『ウメッシュ』だ。

すっかり飲み仲間になったルルーナとミネアの席へ合流し、リンネは顔を緩ませた。



※※※※※



楽しい酒宴。

ミコトたちを加え総勢55名。


凄まじい勢いで消費されるアルコールと料理を追加させながら、アリアは嬉しくも忙しく動き回っていた。


そんな中、山と積まれているオロチのステーキ、その前から感嘆の声が上がる。


「う、うまい!!…なんという芳醇な味…そ、そして沸き上がるこの力……ああ、あああっ!!」


聞きなれた大好きなカイマルクの声。

視線を向ければ何故か奇声を上げ恍惚の表情を浮かべていた。


普段クールな彼。

その様子に思わずアリアは見蕩れてしまっていた。


「なあに?見蕩れちゃって……ふふっ、アリア可愛い♡」

「っ!?リ、リア?…わ、私は、別に…」


すでに赤く上気した顔。

まったく説得力のないアリアにレリアーナは彼女の背を押していく。


やがて気付けば気になるカイマルクのすぐ目の前。

心臓が激しく音を立て、体は硬直してしまう。


「ん?おお、アリア。……ありがとうな。いつもお前には助けられてばかりだ…ああ、お前は本当に可愛いな」


酔っているのだろう。

何故か素直に出てくる感謝と彼女を褒める言葉。

ますますテンパっていくアリアはもう顔を見ることもできない。


気付き同じく顔を赤らめるカイマルク。

レリアーナはそんなカイマルクにこっそりと耳打ちをする。


「ねえカイマルク?あなたアリアの事、好きでしょ?」

「っ!?なっ?!」

「もう。みんな知ってるよ?アリアだってまんざらじゃないのよ?こういうことは男の人からでしょ?……今日は納日。あなたまた1年、何もアリアに言わないつもり?…アリアは可愛いの。誰かにとられても知らないからね」


彼等は盗賊。

しかも今は美緒のギルドの主力だ。


超絶者に導かれ、力を増している彼等。

でも今日の戦いのようなことはこれからますます増えていくだろう。


正直いつ死んでもおかしくはない。


だからこそこの世界、納日にはそういう意味も含まれていた。

いわゆる告白するタイミング。

その意味を持つ特別な1日でもあった。


「ねえ。私たちはさ、美緒によって奇跡を経験している。でもね、個人の気持ち、美緒は一番大切に思ってくれている。……心が決まっているのなら、早い方が良いんじゃない。……ああ、これ独り言だから。気にしないでね♡」


そう言ってカイマルクの肩を軽く叩きレリアーナは違う場所へと消えていった。


彼の前で下を向き、顔は見えないアリア。

でも緊張で体温が上がっている様子がうかがえる。


カイマルクは大きく深呼吸し、すでに好きになっている愛おしい女性を優しく抱きしめた。


「ひうっ?!えっ?えっ?ええっ???カ、カ、カイマルク?」

「好きだ」


華奢で可愛らしい彼女。

182cmの彼は157cmのアリアをすっぽりと包み込んでいた。


「っ!?……好き?……うそ…カイマルクが……わ、私の事を…?!」


心臓が暴れまくる。

正直意識も飛びそうだ。


でも。

彼の温かい体温が、今のこれが現実だとアリアに教えてくれていた。


「アリア」

「は、はい」

「俺と付き合ってほしい。俺はお前の事が好きだ。誰にも渡したくない」

「う、うあ………嬉しい♡……わ、わたしも…あなたが好き♡」


恐る恐るカイマルクに抱き着くアリア。

そんな様子にカイマルクの理性が吹き飛ぶ。


愛おしくてたまらない。


「ふむ。何とも微笑ましいのう。ほれ、さっさと居ね。どこぞで乳繰り合っておれ。わらわはその肉、喰いたいのじゃがの」


その様子にジト目を向けるオロチの肉を取りに来たマキュベリア。

あまりのデリカシーのない物言いに思わずスフィナがたしなめる。


「主様?ヒューマンは純情な人が多いのです。そのような言い方、デリカシーがなさすぎです」

「ふむ?そうか?どうせ性交するのであろう?同じではないか」


飛び出すとんでもないワード。

カイマルクとアリアは抱き合いながら、すでにトマトのように真っ赤だ。


「ふん。淫乱なエロ吸血鬼には分からんのだろう?カイマルクよ。男性であるそなたが優しくリードする事だ。アリアよ、最初は痛いがな、すぐに良くなるもの。せいぜい可愛がってもらうがいいぞ?」


乱入し、とんでもない事を宣うガーダーレグト。

まったくフォローになっていないその言葉に、周りで耳に魔力を纏わせ一部始終を聞いていた全員が思わずため息を付く。


「む?なんじゃお主ら?こそこそと。今日は納日だ。堂々と祝福してやればよいであろうが」


確かに一理ある。

何よりギルドの皆はカイマルクとアリアの事すでに承知していたのだから。


「おめでとう。…良かったなカイマルク」


エインが拍手をしながら二人に近づく。

その後ろから数名が彼らを囲み、祝福を捧げていた。


「まったく。さっきまでの死闘、まるで嘘のようだな。……わらわも遠く忘れていた気持ちが疼いてしまうわ。……ふん。ドルンでも誘って飲むとするか」


死闘の最中、ガーダーレグトに向けたドルンの純情。

実はレグはそれがなぜか気になっていた。


(ふふん。わらわもまだ、女という訳か……まったく。美緒のおかげだな)


楽しくも色々な事が進んでいく酒宴。


いよいよクライマックスに向け、もう一つの純情がその答えを出そうとしていた。


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