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第124話 ルルーナとミネア、そして第3の奇跡

今回の酒宴、幾つかの奇跡が訪れていた。

まずはオロチのお肉。


ナナの『食材調達S』で調達し、『調理人S』で調理した最高級のお肉。

味はもちろん伝説級。


一口食べた瞬間に、皆はあり得ない様な幸福感に包まれる。

そして沸き上がる力。


もちろん称号を保持するナナほど効率よく吸収はされないものの、あまりある魔力に包まれたオロチのお肉、体中を駆け巡り少なくない能力向上効果をもたらしていた。


「ふわー、やばい。体が熱くなってきた……ん♡…な、なんか…疼いちゃう?」


ほろ酔いで顔を赤らめているルルーナ。

余りのおいしさに思わず蕩ける顔をしていた。


「うにゃ。ルルーナなんかその顔えっちいにゃ。……スフォード呼ぶにゃ?」


ルルーナとミネアは18歳。

まさに女ざかり。

最近ますますその美しさを増していた。

団員はじめ、多くの男性たちの熱い視線が注がれる。


「っ!?な、な、何でそこでスフォード?…べ、別に私…っ!?」


もう一つの奇跡。

それはルルーナの恋の行方。

遂に今日、一つの決着が付こうとしていた。



※※※※※



ずっと前から何度も告白してくれている相手。

最初は全く何の感情もなかったルルーナだが、ここ最近気付けば彼のことを目で追う日が増えていた。


その相手がすぐ近くで、熱い瞳でルルーナを見つめていた。


「ルルーナ」

「ひ、ひゃい?!」


実はメチャクチャイケメンな彼。

真剣な表情につい挙動不審になってしまう。


「……お前は本当に可愛いな」

「っ!?」


スフォードもオロチを食べたのだろう。

鍛え抜かれたその体、何故か漲り、魔力を揺蕩らせていた。


今彼は幾つもの試練を超え、その力を伸ばしていた。

レベルは上限を超え現在122。


ルルーナの108をすでに超えていた。


ふいに近づくスフォード。

彼の瞳には決意が浮かんでいた。


そっとルルーナの手を取り跪く。

そしてその手の甲にキスを落とす。


「っ!????」


突然の求愛。

ルルーナは酔いも相まって、すでに沸騰寸前だ。


「ルルーナ。俺は何度もお前に断られた。だけど自分に嘘はつきたくない。…好きだ。俺と付き合ってくれないか?…俺はお前を愛している」

「ひうっ?!」


今日は納日。

この世界で生きて来たルルーナだってもちろん意味は知っている。


何より目の前で跪くスフォードの、心から自分を思う気持ちが痛いほど伝わってくる。

気付けばルルーナは、あふれ出す涙を止める事が出来なくなっていた。


「……なあ」

「…う、うん」

「抱きしめていいか?」

「………………………………うん」


すっと立ち上がりスフォードはルルーナを優しく抱きしめる。

ルルーナの心に温かいものがあふれ出していた。


(ああ、私……彼の事…好きなんだ……)


感じる男の人の体。

自分をずっと想ってくれていた、その一途な想い。


ルルーナは完全に彼に自分の体を預けていた。



※※※※※



そんな様子を優しい瞳で見ているミネアとリンネ。


「ふにゃ。羨ましいにゃ。……でもよかったにゃ。これでまたルルーナは強くなるのにゃ」

「ふふっ。ミネアは想い人、いないのかな?」

「んにゃ。特にはいないかにゃ。……うちはこれでも経験済みにゃ。ルルーナほどチョロくはないのにゃ」


彼女はザッカートに助けられるまで、酷い仕打ちを受けていた。

11歳の時、すでに純潔は失っていた。


「経験ねえ?……でもねミネア。ここでは誰もそんなこと気にしていないよ?…あなたは本当に可愛いんだから……まだ気にしているの?」

「………にゃ」


グラスを一気に煽り、なぜか寂しそうな表情を向けるミネア。

あれから7年。

彼女は今の暮らしに心の底から満足していた。


「…うちは汚いのにゃ。もう汚れている。……だから誰もうちの事を女としては必要としないのにゃ。でも別に悲しくはないんにゃ。みんなが優しくしてくれるにゃ」

「……もう。……飲もう?」

「うにゃ。今夜は寝かせないにゃ!」


変わっていく心。

救われ癒された彼女はもう後ろは向かない。


でもあの悍ましい体験。


それはまだミネアの心をとらえて放していなかった。


(美緒…ミネアも幸せにするんでしょ?……ふふっ。本当にあなたは使命が多いのね)


リンネはちらりとレルダンに抱き着きすっかり甘えモードに突入している美緒を見やり、グラスの中のウイスキーを飲み干していた。



※※※※※



アルコールに対応した体。

気付けばかなりの量を飲み干していた美緒は、まさにただの『質(たち)の悪い酔っ払い』の様相を惜しげもなくさらしていた。


まさにおっさん、絡み酒。

だがあまりある美しさと可愛さ、男たちは色めき立ってしまう。


「ねええ、レルダン♡……はあ、かっこいいな♡」

「むう。…の、飲み過ぎではないのか?美緒」


レルダンの膝の上に座り、べったりと抱き着いている美緒。

伸びそうになる鼻の下をどうにか堪え、レルダンは今自分の理性とぎりぎりの戦いを展開していた。


(ぐうっ、な、なんという魅力的な状況。…し、しかし今美緒は自分を見失っている…だが…こ、これはチャンスでは?)


すぐ近くでとんでもなく可愛らしい姿を見せる美緒。

そして届く心惑わす何とも言えない女の匂い。

只の酔っぱらいだが、今彼女は無意識で超絶美女のパッシブ、ほぼ全開で機能させていた。


すでにレルダンはじめ、周囲にいる男たちは理性の限界を試されている状況だ。

ノーウイックなど、今にも転移門で娼館に行きそうな勢いだ。


「うあ、美緒さん?…や、やばい。めっちゃ可愛い……ゴクリ…そ、それに…色っぽい」


心配になり駆けつけていたロッドランド。

真っ赤な顔でレルダンと絡む美緒をつい熱い瞳で見つめてしまう。


「むう。ロッドの浮気者!!あたしを放っておいて、違う女見るな――!!」

「う、浮気?な、何言っているのかな?ティリ」

「むうっ!」


キラキラと光を纏いロッドランドの周りを飛び回るティリミーナはおもむろに術式を構築、美緒に向けそれを解き放った。


「美緒、酔いすぎっ!」

「っ!?」


妖精の解呪魔法。

それはかなり強力だ。


一瞬顔の赤みが消える美緒。

そしてその顔が真っ青に染まる。


「えっ?!…ひうっ?!レ、レルダン??…うああ、わ、私…」


気付けばべったりレルダンに抱き着き、体を押し付けていた美緒。

余りの状況に美緒は目を回す。


「お、おい?美緒?」

「うあ、ご、ごめんなさい……」


どうにかレルダンから離れ、床にへたり込んでしまう。

余りの恥ずかしさと情けなさに、美緒は下を向き顔を上げる事が出来ない。


幾人ものため息が聞こえ、もうノックアウト寸前だ。


(ううっ、やらかした……顔、あげられないよ?!)


そんな美緒を優しく温かいものが包み込んだ。

レルダンがまるで宝物を扱うかのごとく優しく抱きしめている。


「っ!?レ、レルダン?…あうっ、そ、その…」

「魅力的だった」

「っ!?」

「このままお前を奪いたいほどにな」


伝わる想い。

レルダンも又、美緒の事を愛している。

きっと誰よりもその思いは強い。


「美緒?」

「う、うん」

「酒に酔ったお前を抱いてしまえば、きっと俺は後悔する」

「だ、抱く?…あううっ?!!」


そして改めて美緒の瞳を見つめるレルダン。

彼の瞳に浮かび上がる感情、まさに欲情が溢れんばかりだ。


「ああ、お前は……好きだ。愛している」

「っ!?」


そして強まる腕の力。

美緒は抵抗することなく、そのまま彼に包まれた。


(ちゃんと告白、された?……彼の鼓動…すごく早い……レルダン、緊張している?)


「返事はいらない。俺が伝えたかった。……だがな美緒?」

「う、うん」

「俺は今この瞬間も、きっと来年以降も、お前を求める」

「……う、あ」

「俺の子を産んでほしい」


サロンを包む静寂。

衝撃のレルダンの言葉に、まさに時が止まった。


(こ、こ、子供?…そ、それって……ひいいいっ?!!)


「ちょっと待った――――!!!」

「抜け駆けは見逃せません!!」


「ずりい、副団長!!」

「むうっ、まだ美緒はそういうのダメ!!」


「ほう、貴様。わらわの可愛い妹を欲しいだと?…良かろう。わらわが見極めてくれよう」

「カカッ。なればわらわが先に美緒を奪おうぞ……ほれ、美緒…おいで」


何故か集まってくるザッカートとエルノール。

そしてミルライナ?

さらにはとんでもない圧で見つめる多くの男性陣。


後は何でリアとレグ、マキュベリアなのかな?!


マキュベリア、とんでもないこと言っている?!


そして気付けばリンネに抱きしめられ、ガナロが殺気をほとばらせながら皆を威嚇していた。

何故か十兵衛とミコト、琴音まで?


「ふん。相変わらず美緒は愛されている。だが俺は諦めん。……美緒」

「は、はい」

「あまり飲み過ぎるな。…お前は魅力的なんだ。間違ってもここ以外では飲まない方が良い。……俺に世界を滅ぼさせるつもりか?」


彼が先の戦いで取得した超絶スキル『時を超える愛』

それが今開花した。

まさに3つ目の奇跡。


魔力を漲らせ、そして美しく立つその姿。


レルダンの見た目、まさに青年。

今彼はさらに力を増し、その姿は20歳位程度まで若返っていた。


「やべえ。勝てる気しねえ」


ザッカートのつぶやきが、また喧騒に包まれたサロンにかき消されていた。


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