今回の酒宴、幾つかの奇跡が訪れていた。
まずはオロチのお肉。
ナナの『食材調達S』で調達し、『調理人S』で調理した最高級のお肉。
味はもちろん伝説級。
一口食べた瞬間に、皆はあり得ない様な幸福感に包まれる。
そして沸き上がる力。
もちろん称号を保持するナナほど効率よく吸収はされないものの、あまりある魔力に包まれたオロチのお肉、体中を駆け巡り少なくない能力向上効果をもたらしていた。
「ふわー、やばい。体が熱くなってきた……ん♡…な、なんか…疼いちゃう?」
ほろ酔いで顔を赤らめているルルーナ。
余りのおいしさに思わず蕩ける顔をしていた。
「うにゃ。ルルーナなんかその顔えっちいにゃ。……スフォード呼ぶにゃ?」
ルルーナとミネアは18歳。
まさに女ざかり。
最近ますますその美しさを増していた。
団員はじめ、多くの男性たちの熱い視線が注がれる。
「っ!?な、な、何でそこでスフォード?…べ、別に私…っ!?」
もう一つの奇跡。
それはルルーナの恋の行方。
遂に今日、一つの決着が付こうとしていた。
※※※※※
ずっと前から何度も告白してくれている相手。
最初は全く何の感情もなかったルルーナだが、ここ最近気付けば彼のことを目で追う日が増えていた。
その相手がすぐ近くで、熱い瞳でルルーナを見つめていた。
「ルルーナ」
「ひ、ひゃい?!」
実はメチャクチャイケメンな彼。
真剣な表情につい挙動不審になってしまう。
「……お前は本当に可愛いな」
「っ!?」
スフォードもオロチを食べたのだろう。
鍛え抜かれたその体、何故か漲り、魔力を揺蕩らせていた。
今彼は幾つもの試練を超え、その力を伸ばしていた。
レベルは上限を超え現在122。
ルルーナの108をすでに超えていた。
ふいに近づくスフォード。
彼の瞳には決意が浮かんでいた。
そっとルルーナの手を取り跪く。
そしてその手の甲にキスを落とす。
「っ!????」
突然の求愛。
ルルーナは酔いも相まって、すでに沸騰寸前だ。
「ルルーナ。俺は何度もお前に断られた。だけど自分に嘘はつきたくない。…好きだ。俺と付き合ってくれないか?…俺はお前を愛している」
「ひうっ?!」
今日は納日。
この世界で生きて来たルルーナだってもちろん意味は知っている。
何より目の前で跪くスフォードの、心から自分を思う気持ちが痛いほど伝わってくる。
気付けばルルーナは、あふれ出す涙を止める事が出来なくなっていた。
「……なあ」
「…う、うん」
「抱きしめていいか?」
「………………………………うん」
すっと立ち上がりスフォードはルルーナを優しく抱きしめる。
ルルーナの心に温かいものがあふれ出していた。
(ああ、私……彼の事…好きなんだ……)
感じる男の人の体。
自分をずっと想ってくれていた、その一途な想い。
ルルーナは完全に彼に自分の体を預けていた。
※※※※※
そんな様子を優しい瞳で見ているミネアとリンネ。
「ふにゃ。羨ましいにゃ。……でもよかったにゃ。これでまたルルーナは強くなるのにゃ」
「ふふっ。ミネアは想い人、いないのかな?」
「んにゃ。特にはいないかにゃ。……うちはこれでも経験済みにゃ。ルルーナほどチョロくはないのにゃ」
彼女はザッカートに助けられるまで、酷い仕打ちを受けていた。
11歳の時、すでに純潔は失っていた。
「経験ねえ?……でもねミネア。ここでは誰もそんなこと気にしていないよ?…あなたは本当に可愛いんだから……まだ気にしているの?」
「………にゃ」
グラスを一気に煽り、なぜか寂しそうな表情を向けるミネア。
あれから7年。
彼女は今の暮らしに心の底から満足していた。
「…うちは汚いのにゃ。もう汚れている。……だから誰もうちの事を女としては必要としないのにゃ。でも別に悲しくはないんにゃ。みんなが優しくしてくれるにゃ」
「……もう。……飲もう?」
「うにゃ。今夜は寝かせないにゃ!」
変わっていく心。
救われ癒された彼女はもう後ろは向かない。
でもあの悍ましい体験。
それはまだミネアの心をとらえて放していなかった。
(美緒…ミネアも幸せにするんでしょ?……ふふっ。本当にあなたは使命が多いのね)
リンネはちらりとレルダンに抱き着きすっかり甘えモードに突入している美緒を見やり、グラスの中のウイスキーを飲み干していた。
※※※※※
アルコールに対応した体。
気付けばかなりの量を飲み干していた美緒は、まさにただの『質(たち)の悪い酔っ払い』の様相を惜しげもなくさらしていた。
まさにおっさん、絡み酒。
だがあまりある美しさと可愛さ、男たちは色めき立ってしまう。
「ねええ、レルダン♡……はあ、かっこいいな♡」
「むう。…の、飲み過ぎではないのか?美緒」
レルダンの膝の上に座り、べったりと抱き着いている美緒。
伸びそうになる鼻の下をどうにか堪え、レルダンは今自分の理性とぎりぎりの戦いを展開していた。
(ぐうっ、な、なんという魅力的な状況。…し、しかし今美緒は自分を見失っている…だが…こ、これはチャンスでは?)
すぐ近くでとんでもなく可愛らしい姿を見せる美緒。
そして届く心惑わす何とも言えない女の匂い。
只の酔っぱらいだが、今彼女は無意識で超絶美女のパッシブ、ほぼ全開で機能させていた。
すでにレルダンはじめ、周囲にいる男たちは理性の限界を試されている状況だ。
ノーウイックなど、今にも転移門で娼館に行きそうな勢いだ。
「うあ、美緒さん?…や、やばい。めっちゃ可愛い……ゴクリ…そ、それに…色っぽい」
心配になり駆けつけていたロッドランド。
真っ赤な顔でレルダンと絡む美緒をつい熱い瞳で見つめてしまう。
「むう。ロッドの浮気者!!あたしを放っておいて、違う女見るな――!!」
「う、浮気?な、何言っているのかな?ティリ」
「むうっ!」
キラキラと光を纏いロッドランドの周りを飛び回るティリミーナはおもむろに術式を構築、美緒に向けそれを解き放った。
「美緒、酔いすぎっ!」
「っ!?」
妖精の解呪魔法。
それはかなり強力だ。
一瞬顔の赤みが消える美緒。
そしてその顔が真っ青に染まる。
「えっ?!…ひうっ?!レ、レルダン??…うああ、わ、私…」
気付けばべったりレルダンに抱き着き、体を押し付けていた美緒。
余りの状況に美緒は目を回す。
「お、おい?美緒?」
「うあ、ご、ごめんなさい……」
どうにかレルダンから離れ、床にへたり込んでしまう。
余りの恥ずかしさと情けなさに、美緒は下を向き顔を上げる事が出来ない。
幾人ものため息が聞こえ、もうノックアウト寸前だ。
(ううっ、やらかした……顔、あげられないよ?!)
そんな美緒を優しく温かいものが包み込んだ。
レルダンがまるで宝物を扱うかのごとく優しく抱きしめている。
「っ!?レ、レルダン?…あうっ、そ、その…」
「魅力的だった」
「っ!?」
「このままお前を奪いたいほどにな」
伝わる想い。
レルダンも又、美緒の事を愛している。
きっと誰よりもその思いは強い。
「美緒?」
「う、うん」
「酒に酔ったお前を抱いてしまえば、きっと俺は後悔する」
「だ、抱く?…あううっ?!!」
そして改めて美緒の瞳を見つめるレルダン。
彼の瞳に浮かび上がる感情、まさに欲情が溢れんばかりだ。
「ああ、お前は……好きだ。愛している」
「っ!?」
そして強まる腕の力。
美緒は抵抗することなく、そのまま彼に包まれた。
(ちゃんと告白、された?……彼の鼓動…すごく早い……レルダン、緊張している?)
「返事はいらない。俺が伝えたかった。……だがな美緒?」
「う、うん」
「俺は今この瞬間も、きっと来年以降も、お前を求める」
「……う、あ」
「俺の子を産んでほしい」
サロンを包む静寂。
衝撃のレルダンの言葉に、まさに時が止まった。
(こ、こ、子供?…そ、それって……ひいいいっ?!!)
「ちょっと待った――――!!!」
「抜け駆けは見逃せません!!」
「ずりい、副団長!!」
「むうっ、まだ美緒はそういうのダメ!!」
「ほう、貴様。わらわの可愛い妹を欲しいだと?…良かろう。わらわが見極めてくれよう」
「カカッ。なればわらわが先に美緒を奪おうぞ……ほれ、美緒…おいで」
何故か集まってくるザッカートとエルノール。
そしてミルライナ?
さらにはとんでもない圧で見つめる多くの男性陣。
後は何でリアとレグ、マキュベリアなのかな?!
マキュベリア、とんでもないこと言っている?!
そして気付けばリンネに抱きしめられ、ガナロが殺気をほとばらせながら皆を威嚇していた。
何故か十兵衛とミコト、琴音まで?
「ふん。相変わらず美緒は愛されている。だが俺は諦めん。……美緒」
「は、はい」
「あまり飲み過ぎるな。…お前は魅力的なんだ。間違ってもここ以外では飲まない方が良い。……俺に世界を滅ぼさせるつもりか?」
彼が先の戦いで取得した超絶スキル『時を超える愛』
それが今開花した。
まさに3つ目の奇跡。
魔力を漲らせ、そして美しく立つその姿。
レルダンの見た目、まさに青年。
今彼はさらに力を増し、その姿は20歳位程度まで若返っていた。
「やべえ。勝てる気しねえ」
ザッカートのつぶやきが、また喧騒に包まれたサロンにかき消されていた。