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第125話 助けられた5人の女性

美緒たちのギルドの祝勝会の少し前。


戦いの直後のジパング領主の館。

その敷地内に急造された多くの避難所では、温かい食べ物、郷土料理でもある『トン汁』が振舞われていた。


「小次郎は居るか」

「はっ、ここに」


隠密を取りまとめる半蔵は、多くの集められた力なき民を見回し、部下である小次郎を呼びつけていた。


「火災の様子はどうだ」

「はっ。既に鎮火しております。救助者もほぼ収容を終えました」

「ふむ。凄まじい大災害であったが…流石はゲームマスターという事か。…無策だったなら今日我が国は滅びていたであろうな」


改めてあたりを見回す。

多くの避難してきた民。

だが彼らの瞳には絶望はほとんど見られなかった。


「凄まじいな……小次郎よ」

「はっ」

「我らは強いのか」

「………そうありたいと、強く心に刻みたいと思います」

「そうだな」


隔絶した実力を持っていた美緒たちのギルド。

どの戦場でも彼らのその鮮烈な輝きは、安心感とともに彼ら隠密、そして武将たちに悔恨の念を植え付けていた。


余りにもある力の差。

ジパングの武将や隠密たちだって日々の努力を怠ったことはなかった。

だがもし今回、彼らの助力がなかったら……


半蔵は大きく天を仰ぎ、深すぎる溜息を吐いた。


そんな時半蔵の嗅覚にかぐわしい匂いが届く。

その方向に目をやれば美緒とナナが二人で、大きな皿の様なものに大量の肉をのせたものを運んでくる様子が目に入った。


「美緒殿?それは?」

「半蔵さん。これナナが仕留めたオロチのお肉です。スッゴク美味しいし精が付きますので、避難された皆さんや武将、隠密の皆さんでぜひ召し上がってください」


オロチの肉?

嗅いだことのない匂い。

匂いだけで力が湧き出してくるようだ。


「こ、こんな貴重なもの、よろしいのですか?」


どう考えても最高級の肉だ。

半蔵は思わずごくりとつばを飲み込んだ。


半蔵の様子に思わず顔を見合わせる美緒とナナ。

実はオロチの肉、美緒の超元インベントリの中にすでに数百トンは保存されていた。


「あ、えっと。た、沢山ありますので、遠慮なさらず」

「っ!?な、なんという……ありがたく頂戴いたします」


確かに貴重ではある。

恐らくこの先、ここまでのお肉は手に入らないだろう。


ただ、まあ。

毎日食べてもきっと100年以上は食べきる事はないだろう。

捕食できるナナとて、別に大量に食べられるわけではないのだ。


「えっと、ナナ?運んで来てくれる?私ちょっと別の用事があるの」

「うん。まかせて」


小次郎に案内されるナナを見送る美緒。

改めて半蔵に目を向けた。


「半蔵さん?殿様に会えますか?」

「殿、でございますか?今すぐはちょっと…何分被害が甚大でして。今は各地の武将との連絡に奔走しています」

「ああ、そうですよね。今回の被害、復興には相当の資金と人員が必要だと思うのです。実は先ほど神聖ルギアナード帝国と聖王国フィリルスには状況の報告と救援の要請をしておきました。…出過ぎた真似とは思いましたが…一刻も早い復旧をしていただきたいのです」


美緒の言葉。

半蔵はまるで女神でも見るかのような目を向け、思わず跪いてしまう。


「おお、なんと。……あなた様はまさに救済の女神。最優先で殿と受け入れ態勢など、打ち合わせをいたします」


さらには赤く染まる顔。

気付けば話を聞いていた隠密の皆さんまでもが跪いていた。


「え、えっと。…顔を上げてください。…ひとつお伺いしたいことがあるのですが」

「はい。何なりとお申し付けください」

「あの、後で保護した5人の女性、もう目を覚ましたでしょうか?」


四方の封印。

北の地でいわゆる人柱にされていたあの5人の女性だ。


すでに隔絶解呪は施したものの、疲弊がひどく美緒は休ませてもらうことにしていた。

そしてその時聞いた彼女たちの今の状況。


かなり厳しい状況だった。


すでに家族は妖魔の襲撃で死亡、彼女たちの最期の希望、愛する人もすでに全員殺されていた。


力のない女性。

住む家もすでに瓦礫の下。

今の混乱したジパングには、おそらく彼女たちを保護する余裕はない。


「はい。先ほど目覚めたと報告がありました。…そ、その…やや錯乱していると」

「面会してもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。すでに彼女たちはあなた方に助けていただいた事には深く感謝しておりますゆえ」

「ありがとうございます。……半蔵さん?」

「はい」

「私が引き取っても、問題はありませんか?」


目を見開く半蔵。

正直5人だけにかかわっている余裕はない。

何しろ数万人に届こうかという避難民がいる状況だ。


「……正直彼女たちの状況は良くありません。むしろそう言っていただけるのなら…是非お願いいたします」


苦渋の決断だろう。

若く美しい彼女たち。


通常の状態なら手放す選択肢はないだろう。


「もちろん彼女たちの希望を最優先いたします。でももし彼女たちが私たちのギルドを希望するのなら、責任をもってお預かりいたします。それでは面会してきますね」

「はい」


美緒は彼女たちのテントへと足を向けた。



※※※※※



小さなテントの中。

女性たちはそれずれ俯き、数名は肩を震わせ絶望していた。

その様子に美緒の心がチクリと痛む。


美緒は可能な限り優しく声をかけた。


「あの、お体はもう大丈夫ですか?」


隔絶解呪とともに施した回復魔法。

体には問題がないはず。


美緒の問いかけに、一番の年長者であろう美しい女性がゆっくりと口を開く。


「あなた様は……ああ、私たちを助けてくださった…ありがとうございます」


同様に顔を向け小さく会釈する女性たち。

すでに清潔な服を与えられ、問題のない状況にはなっていたことに美緒は心の中で胸をなでおろしていた。


「あの。色々あって混乱していると思います。でも、あなた達、これから先、行く当てはあるのですか?」


酷い事を聞いている。

すでにある程度知っている美緒は思わず顔をしかめてしまう。


「……ありません。…ですが助けていただいた命です。この国の為、できることはしようと思います」


やや諦めた顔で口にするその女性。

悲しい覚悟。

その表情に張り付いていた。


正直能力のない美しい女性。

恐らく『そういう仕事』に就くつもりなのだろう。


「えっと。あっ、いけない。自己紹介がまだでしたね。私は美緒。ゲームマスターです。よろしくお願いします」

「っ!?ゲームマスター……伝説の……はっ、し、失礼しました。私は里奈と申します」


そう言い他の4人に目を向ける里奈さん。

気付いた4人はそれぞれ自己紹介をしてくれた。


「あ、あのコノハです」

「ゆ、幸恵です」

「……マイ」

「コホン、わ、私はサクラです」


里奈さんは22歳、コノハさんは私と同じ18歳、幸恵さんは19歳、マイちゃんは14歳、そしてサクラちゃんが12歳。


皆とても美しく、可愛らしい女性たちだ。


(この世界、やっぱり美形率おかしいよね?コホン)


「もし、なんですが。…よろしければ私のギルドに就職しませんか?もちろん住み込みになりますが…実は私たちのギルド、戦う人に対して後方支援、いわゆる家事とかの手が足りていないんです。……一緒に行きませんか?」


「「「「「っ!?」」」」」


実質選択肢のない彼女たち。

きっと私は酷い事をしている。


だからこそ、もし選んでくれるのなら大切な仲間として受け入れたい。


やがて顔を見合わせ頷く5人。

里奈さんが私を真直ぐに見つめた。


「美緒さま。……正直私たちには力などありません。ですが精いっぱい、努めたいと思います。……よろしくお願いします」

「「「「お願いします」」」」


前までのルート。

彼女たちは絶望し美緒の前で舌を噛み切って自害していた。


もちろん今回の大災害、多くの人命が失われている。


でも美緒は。

この5人を救えたこと。


仲間への感謝とともに、とても満足していた。

にっこり微笑む美緒。

途端に赤く染まる5人の女性たち。


「里奈さん、皆さん。…よろしくお願いします」


美緒の今回のルート。


救えなかった命、そして拭えた絶望。

全体で見れば小さなものだろう。


でも美緒は前を向く。

いつか届くその日まで。


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