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第190話 蠢く悪魔

ガザルト王国、迎賓の間。

超高級品であつらわれた特別な部屋では、今6名の人物が酒を飲みながら談笑しているところだ。


「ふん。ザナンクは囚われたようだな…あいつは弱すぎだ」


平民では一生お目にかかれないような超高級なワインをあおり、額に大きな傷のある男がうそぶいた。


「んー?…でもあいつ、死ねないはずでしょ?囚われたらしいから色々ダメージは受けるだろうけど…基本あいつ精神生命体でしょ?仮に目に見える物質体を滅ぼされても、しばらくしたらまた復活するんじゃないの?」


まるで幼女のような姿の、金色の大きな目を煌めかせ何故か妖艶な雰囲気の女性が言葉を漏らす。


「クヒヒヒ。ゲームマスター…以前のルートよりは強いようですがねえ…まあどうでもいいですけれど?クヒャハハハハ」


神官のような服に身を包み、ガブリと大きな肉に食らいつく男性。

赤い目が怪しく光る。


「はあ。あんたたちは僕より格上なんだろ?サッサと倒せばいいじゃん。…もしかして、恐いの?」


以前神聖ルギアナード帝国であり得ない破壊をまき散らした悪魔の眷属、キズビットがつまらなそうにつぶやいた。


「まあまあ。物事には順番があるんだよ?まだ動けないっちゅーの。…ビットちゃんはそんなことも分かんないのかな?」


「うるさいよ。大体お前は今までずっと寝ていただけじゃん。少しは働けよな」

「ん-?ずいぶん生意気な口を利くじゃんね。…お仕置き、必要かな?」

「いらないよ。大体僕はずっと働いていたんだ。あんたと違ってね」


金髪の混じった煌めく銀髪をなびかせ、古の伝説『破滅の魔女』ノルノールはにやりと顔を歪めた。


「…まだだ。まだ早い。…キズビット…シナリオを間違えるんじゃない」

「…ちっ。分かったよ。分かりましたよ…でも僕はお前らの指示には従わない。そういう約束、分かってるよね?」


「無論だ。何よりキサマは我が主の眷族、枷はない。好きにするといい」


悪魔グラコシニア。


この世界の以前の覇者である英雄グラコシニスの対。

創世神ではなく、虚無神の紛れ込ませたシナリオ、その主人公。


強烈な力を持たせるため、2面性を体現させ分離。

聖なる英雄を封じ込め、その力を奪った悪性の塊。


そのレベル680。


絶望の体現者。


しかし彼にはいくつかの縛りがある。

その最たるものはこの世界における進行具合、いわゆる『ステージ』


条件が整わない限り、彼はその力を振るえない。

つまり対するゲームマスター、数多あるシナリオをこなし成長を重ね。

ある程度のステージに立つまで…


彼は静観しかできない存在だった。


「…む?…ふん。王がお呼びのようだ。…レイザルド」

「あん?」

「あとは任せた。…まあ、できることは何もないがな…せいぜい異界の知識でも王国の連中にレクチャーしておけ」

「ああ」


姿を消すグラコシニア。

彼もまた『転移魔法』を操る超絶者だった。



※※※※※



彼等は悪魔とその眷属。

ルーダラルダの作った世界に無理やり侵入してきた侵略者だ。


しかしいくら侵略者とはいえこの世界のルールには縛られる。

2000年前、幾つかのスキを突きこの世界を滅ぼそうとしたものの、ルーダラルダ渾身の賭けにより断絶されている状況の彼等。


大元である虚無神との繋がりを絶たれ、彼らの行動には今指針がない状況だった。


だが刻まれた使命。

この世界の終焉。


当然虚無神の本当の願いは脅威にさらされることにより進化覚醒し、真の幸せをこの星の生物が獲得、それを謳歌したのちの消滅だ。


繋がりが断たれ早2000年。

その虚無神の願い、すでに形骸化していた。


何よりも悪魔たちの本性、それはまさに悪性。

ゲームマスターと言う『レリウスリードと言う星のシナリオ』の彼らにとっての対。


それの降臨が彼らの衝動を思い起こさせていた。


今まで闇に紛れ蠢いていた彼等。

摂理に囚われ悪魔そのものの行動が阻害され、枷のない眷属のみが蠢いていたこの世界。


ステージはさらなる驚異の産声を上げていた。


(…まったく。…ゲームマスター?早く強くなってよね…このままじゃ…たどり着けないよ?)


キズビットは一人、やけに冷めた思考で、そう独り言ちていた。



※※※※※



ギルド地下尋問室。


レギエルデとコメイ、そしてリンネは思わず怒りにその身を震わせていた。


「くくく。早く殺せ…殺せるのならなあ!!」


全ての権能を数多の秘術で雁字搦めにし、何もできないはずのザナンク。

情報はすべてを抜き取り、多くの事実を3人は共有していた。


そして用事の済んだ憎いコイツ。

正直生かしておく理由がない。

何よりこいつを含む悪魔6人。

とんでもない脅威だった。


さらにはこいつの精神世界、見るに堪えない、あまりに悍ましいその中身。

まともな者ならきっと触れただけで精神の崩壊を引き起こすことだろう。


しかし―――


悪魔は殺すことができない存在だった。


「どうした?殺せよ?憎いんだろ、俺様のことが…お前らの信望する美緒、あいつをとことん穢したこの俺様が!!!」


ニヤリと顔を歪めるザナンク。

対して3人は唇をかみしめた。


「…くくく、今思い出しても俺様の下半身が疼きまくる…あの可愛らしい胸…甘美なあいつの血…恐怖に歪むあの可愛らしい…っ!?ぐはああっ?!!!」


「黙れ!!」


神の権能を全開にし、ザナンクの体を焼き尽くす神の業火。

激しい激痛がザナンクを支配する。


「…くくく。…どうした?そんなものか?…確かに痛てえ。だがそれだけだ…ほら、殺せよ。殺してみろや。ヒャハハハハハハハハハハ!!!」


見下ろすザナンク。

なすすべのないリンネたち。

ギリリと歯を食いしばった。


刹那――


絶対零度の恐ろしい魔力とともにゆらりと尋問室に飛び込んできた存在が口を開く。


「なに?死にたいの?…はい」

「っ!?なあっ?!お、おま…ぐぎいいいっっっ!!????」


突然現れた美緒。

そして有無を言わさぬ圧倒的魔力で包み込んだ。


「美緒?!」

「美緒ねえさん?!!」


「…こいつは害悪だ…そうだよね、レギエルデ」

「…ああ。…美緒、気付いたんだね」

「うん」



※※※※※



突然俺の存在を、悍ましいものが侵食してきた。

俺達悪魔はいわゆる心臓を持たない。


この世界の強者たるマキュベリアや伝説の神獣、それらがもつ魔核とも違う。


俺達悪魔は『他人の肯定』により存在し、その恐怖で力を増す。

いわゆる精神生命体だ。


その根幹である存在。

今俺は美緒によってそのもの自体を掌握されていた。


「く、くそがっ!!…この小娘が…お、俺様に…恐れ…ひぎいいいっっっ!!???」

「恐れ?…確かにね。…この前は後れを取ったもの…でも、もう理解したよ?…もう絶対に負けない」


「消える?…お、俺様が…くあっ?!…い、いやだ…よせっ!…うぐあ、や、やめっ!??」

「…さよなら…お前の力の根源…私が吸収しつくすっ!!」

「うが、うがあああああああああああっっっっ!!????」


凄まじい光が美緒からはじけだす。

その光がザナンクだったもの、そのものを分解していく。


粒子となるザナンク。

やがてそれは跡形もなく、悉く美緒に吸収されていった。


悪魔を滅ぼす唯一の方法。

美緒は遂にその方法を手に入れていた。


昨晩。

美緒の監視に訪れたファナンレイリとディーネ、そしてティリミーナ。


妖精族に伝わる神秘の契約。

それにより美緒は新たな扉を開いていた。

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