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第189話 新たな訪問者とメインキャラクター

里奈たちが温室ハウスを訪れた翌日の美緒の自室。


ザナンクとの戦闘で精神にダメージを負った私は。

ある意味『監視状態』におかれていた。


「ねえ、リア?私もう大丈夫だよ?…訓練した…」

「ダメ」


有無を言わさぬ圧をもって、即拒絶するリア。


えっと。

怖いんですけど?!


レリアーナは大きくため息をついてまじまじと私の瞳をのぞき込んできた。


「まったく。まだ2日だよ?…美緒は今まで忙しすぎたの。少しは休みなさい」

「う、うん」


そう言いつつ、最近私が思い出した『ミルクセーキ』をカップに注いでくれるレリアーナ。

甘く優しい香りが私の部屋に広がっていく。


「それよりも…もう、本当に平気なの?…あの時の美緒…私本当に怖かったんだからね!」


確かに酷いダメージを受けていた。

そして浸食していく悪意に、私は存在そのものが揺らぎ、生死の境をさまよった。


神と同等の権能を持つ悪魔。


しかもザナンクは精神特化だった。

無防備につながった私は『魂』そのものに、かつてないダメージを受けてしまっていた。


「そ、その…エルノールの完全回復のおかげでね…記憶自体は消えないけど…もう平気だよ」

「それでももう少しゆっくりしなさい。…コノハもそう思うでしょ?」

「うん。美緒は働きすぎ。…それにもうすぐお誕生日なのでしょ?2月5日だっけ?…あと一週間。ちょうどいいからそれまではお休みだね」


2月5日に私は19歳になる。

でもそれまで一週間も私この部屋から出ちゃだめってことなの?


それはなんだか落ち着かない。


何より今私の部屋には必ず二人一組で誰かが常駐することになっていた。

夜なんかはなぜか私のベッドで一緒に寝るし?

昨日はミコトと琴音だったっけ。


確かに私は忙しかったかもしれない。


何気にコノハとだってちゃんとお話をしたのは今日が初めてだ。


「私と同い年なのに…美緒は色々責任が重すぎだよ?…大体私、今まであなたとちゃんとお話ししてなかったしね。…不謹慎かもだけど…ちょっとうれしい」


はにかむコノハ。

彼女もまたスッゴク可愛い女の子だ。

彼女は私と同い年。

だからやっとお互いため口でと、話し合ったところだ。


「ふう。確かにね。…ねえコノハ?…お仕事、辛くない?」

「うん?全然。すっごく楽しいよ!…ありがとう美緒」


突然頭を下げるコノハ。

私とリアは思わず固まってしまう。


「…今更なんだけどね…私あの時家族を殺されていたの。家も無くなっちゃったし…私は婚約していた彼に助けられたんだけど…それは悪魔の眷属の擬態だった…悔しいし…悲しかった」


「…コノハ…」


「あのね、もし私たち、あのままジパングにいたらね…きっと女を売るしか生きる道なかったの…だから美緒には、このギルドの皆には、本当に感謝してるんだ。…だから…」


私はベッドから出てコノハをそっと抱きしめた。

細い肩を震わすコノハ。


そうだ。

あれからまだ1か月も経っていない。


色々なことが起こった私のギルド。

だからかなりバタバタしてはいたけど…

実際にはまだそれしか時間は経過していないんだ。


私は改めて、彼女の強さに驚かされていた。


「…強いね、コノハは…それに里奈さんたちも…私も負けていられないね」

「ぐすっ…美緒?…え、えっと…で、でも、ダメだよ?…あなたは休まなきゃ…」


私は彼女の心配する瞳に見つめられ…

なんだか肩の力が抜けてしまった。


「…分かった。…うん。コノハの言うとおりにする…私一週間、お休みにするね?…だからさ…また、お話ししてくれる?」

「っ!?う、うん。…もちろんだよ。約束」

「ん」


私はゲームマスターでこのギルドの責任者だ。

だけどこのギルドには多くの私の味方で仲間がいてくれる。


それに今回気づいた私の弱点。

むしろ検討するいい機会かもしれない。

レギエルデにも忠告された。

会話自体意味がないものがいるという事を。


もう二度と。

遅れはとらない。


絶対に私は負けてはいけないんだ。


ベッドにもぐりこみおとなしく横になる私は…

私に心配の表情を向けてくれる二人の視線に癒されながらも、決意を新にしていたんだ。



※※※※※



「このおっ!!」

「フレイムランスッ!!」


「グルアアアアーーー?!!」

「ギャンッ!!」


鋭い剣戟と中位魔法が、立ちふさがるネオウルフの群れを切り裂いた。

慌てて離脱する生き残ったネオウルフ。


その様子に冒険者らしき4人は大きくため息をついていた。


「ふうっ。マジでここ、魔物の出現率エグイな…ねえヤマさん、本当にこっちであってるの?」


久しぶりの『超高額クエスト』

心を躍らせ受注した、イリムグルド交易都市の中堅冒険者パーティー『陽光の絆』の4人だったが。


既に7日目に突入し、かなりの疲労感に包まれていた。


「ええ。とはいえ皆さんの疲労も大分目立ちますね。今日はここで野営しましょうか」


そう言い、『ヤマさん』と呼ばれた男性、ヤマイサークはマジックポーチから大型の魔道具である『簡易ハウス』を取り出し設置を始めた。


いわゆる日本のスーパーハウス。

工事現場などで目にするもの、つまりこの世界においては完全なオーバーテクノロジーだ。


「ふわあ。相変わらずヤマさんの魔道具は凄いな。…これ何で出来てるんだろ?見たことの無い素材だけど…」


「ああ、一応結界お願いできますか?私は魔法の類はからっきしでしてね。…うん?ああ、これは特注品ですよ?…そうですね…金貨3万枚くらいの価値でしょうか」


「金貨3万枚?!…ハハハ…想像すらできない」


思わず零す若い男性。

そんな彼の横で魔法使いのカナリナが結界の魔法を構築していた。


「…ふむ。今確認しました。…おそらくリッドバレーの結界まであと5キロほどです。明日には着くでしょう。…今日は前祝いと行きますか」


通常冒険者の食事は質素な携帯食だ。

たまに現地調達で魔物を食することもあるが…


しかしヤマイサークはあり得ないようなご馳走をスーパーハウスのテーブルにとりだす。

恐らく超高級品のマジックポーチなのだろう。

まるで今調理したようなホカホカと湯気の出るおいしそうなご馳走に、4人の冒険者は目を輝かせた。


「うわあ、マジか。…ねえヤマさん?また次も是非声をかけてくださいよ。…もう他の依頼受けたくなくなっちゃいます」


「ハハハ。マジでパねえ」

「うん。同意」



※※※※※



今回のヤマイサークの依頼。

禁忌地であるリッドバレーまでの護衛任務。


何と報酬は前金で金貨1000枚。

あり得ないほどの破格の条件だった。


しかも道中の魔物の素材は冒険者の所有が認められており、さらには成功報酬も金貨500枚とあり得ない好待遇。


道中の食事、そして休息のための設備。

それも『依頼者持ち』と言うとんでもない好条件の依頼だった。


しかし。


彼の目的である禁忌地リッドバレー。

多くの冒険者が命を散らしている場所だ。


それ故今回名乗りを上げた冒険者パーティーである陽光の絆。


まだ十代、しかもランクは一番上の青年がBに届いたばかりのCランクパーティーのみだった。


彼らは実際にはリッドバレーの恐ろしさを知らないのだ。


(…どうにかなるものですね…今回私は最低でもA ランクパーティーを所望したのですが…)


楽しそうに食べる4人を横目に思考を巡らすヤマイサーク。

何より今Bランクのレストール。


彼は伸びしろがとんでもない。


(S…いえ、きっとSSに届く素質…ふうむ。拾い物ですね)


おそらく。

彼もきっとこの世界の『何かしらの役割』のある一人。


ヤマイサークはそう結論付けていた。


そして。


(リッドバレー…きっといる…奏多さんと真奈さんの忘れ形見…私の生きる意味…美緒…)


彼、ヤマイサーク。

彼もまた、転生者だった。


日本にいた時の彼の名前。

郡山伊作。


美緒の父である守山奏多の同僚で、そして非業の死を遂げた一人だった。


(…優斗が最後の私に伝えた情報…私の転生した意味…その答えがリッドバレーにある)



※※※※※



気付けば。

食事を終えた4人の若者たち、すでに寝そべり舟をこぎ始めていた。


「まったく。…若いというのは羨ましいですね…」


4人に毛布を掛け、改めてヤマイサークは思考を巡らす。

自分はお金でしか意味がない存在だ。


そして最初から実はリッドバレーを目指していた。

でも自分には力がない。


だから。


彼は『守銭奴』と呼ばれながらもひたすらお金と言う力を蓄えた。

なりふり構わず。


いよいよ明日自分の運命が開かれる。


「ふふっ。私らしく…ないですねえ」


思わず身震いするヤマイサーク。

彼もまた椅子に腰をかけ目を閉じた。



彼等の夜が更けていく―――

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