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第193話 ヤマイサーク、始動

翌日。

どうにか回復し、話が出来るようになった冒険者4名と依頼者であるヤマイサークさん。


私は今執務室にその5名を招き、話を聞いているところだ。

もちろんリンネ、エルノール、レギエルデ、ファナンレイリ。

そしてコメイとなぜかアルディ、それからガーダーレグトにアリアまでもが同席しているのだけれど?


どういう組み合わせ?


「コホン。ヤマイサークさん、いえ伊作さん。…お久しぶりです」

「うん。本当に…美緒ちゃん…スッゴク可愛くなったんだね…僕は嬉しいよ」

「あうっ。そ、その…ありがと」


もちろん事前に彼が転生者『郡山伊作さん』であることはコメイより聞いていた。

これでお父さんの仲間たち、ほぼすべてがこの異世界に来たことになっていた。


「ふむ。興味深いな…キサマ、ヤマイサーク?…お前私と会ったことないか?」


訝し気に瞳を揺らし、ガーダーレグトがヤマイサークの瞳を射抜く。

美しい彼女のそういう表情、何気に身震いしてしまう圧が乗っていた。


「…いえ?人違いでは?…何しろ私はこの世界とは違う世界からの転入者です。美緒ちゃん、いえ、ゲームマスターの居た世界からの転生者。この世界、私はまだ20年と言ったところでしょうか」

「…ふん。まあいい。…それよりもキサマ、よくその程度の力でここまで来れたものだ。その方がおかしいと思うのだがな」


警戒の色が乗るガーダーレグトの瞳。

確かに彼らの力でここまで来れたこと、まさに奇跡に他ならない。


そんな中、固唾を呑んでいたレストールがおそるおそる私に声をかけてきた。


「あ、あの、美緒、さま?…ア、アリアの事、ありがとうございました」

「えっと。うん。…ねえレストール?あなた今17歳だっけ。年も近いから美緒、でいいよ?言葉も普通で。…私も『レスト』って呼んでもいいかな?」


「っ!?あ、ああ。かまわない…これでいいかな」

「うん」


途端に顔を赤らめるレストール。

まあね。


本当に私の称号厄介だ。


一緒に来ている重戦士のダグマさん、それから斥候のロミューノさんも私を見て顔を赤らめ固まっちゃってるし?


…魔法使いのカナリナさんは…

なんか複雑な表情を浮かべているしね…


ハハ。


「コホン。ガーダーレグトさん?あなたの懸念はもっともだと思います。実は今回、私はある魔道具を使用していました」


そう言いながら腰につけてあるマジックポーチから、大き目な魔道具を取り出すヤマイサーク。


ファナンレイリがそれを見て目を見開いた。


「あなた?!そ、それ…秘宝『退魔のアミュレット』じゃない!!…ふわー、初めて見た」

「??退魔のアミュレット?」

「うん。魔物除けの最上級のアーティーファクトだね。なるほど、だからこのメンバーでも来れたのね。そしてこのギルドの周りの結界と拮抗、それでギガントベアーに襲われた、と」


どうやら神話級の結界魔道具のようだ。

しっかり効果を発揮していたらしいのだが。

我がギルドを包む結界に触れたことで逆に無効化されてしまったのね。


「なるほど。そういうカラクリですか…何はともあれここまで来れました。美緒ちゃん、いえ美緒」

「は、はい」

「…財務担当として、私を雇ってくださいませんか?そしてレストールたち4人、私の専属ボディーガードとして雇いたい。もちろん帰還を希望するなら引き止めませんが」


目に光を宿し私に懇願してくるヤマイサーク。

財務担当?


確かに私のギルド、全然お金とかでは困っていないからまとめる人いないのよね。

必要なのかもしれない。


私はすっと目を細め、改めてヤマイサークを鑑定した。

きっと彼は何かしらの使命がある人物だ。


なにより今までのシナリオ、彼『ヤマイサーク』は存在していない。


(…っ!?……優斗さん?……彼の強い希望?…別アプローチの切り札…うん)


一瞬静寂に包まれる執務室。

私は大きく息をつき、改めて彼に視線を向けた。


「分かりました。是非お願いします。…給料とかの概念、うちにはありません。構築もお願いしても?」

「ええ。お任せください。…レストール」

「っ!?ふあい?!」


突然声を掛けられ挙動不審になるレストール。

ヤマイサークは彼をはじめ4人の冒険者に目を向けた。


「あなた達、どうします?ここの主であるゲームマスター、美緒の許可は頂きました。後はあなた達次第ですが」


「俺が、俺達がヤマさんの専属護衛…それにこのギルドに…マジか?」

「レスト。私はここにいたい。…私は弱い…鍛えたい」


魔法使いのカナリナが声をあげた。

彼女は今Cランクの冒険者。

レベルも51と世の中では強い方ではあるが…


明らかにここでは力不足だ。


そしてきっと彼女のレストールを見る瞳。

彼女はおそらくレストールに恋をしている。


「カナリナ…そっか。そうだよな。…ダグマ、ロミューノ…お前たちはどうする?」


彼等はまだまだ先のある若い冒険者だ。

それにきっとイリムグルド交易都市での生活だってあるだろう。


そんな私の心配をよそに彼らは目を輝かせ始める。


「そんなのっ、決まっている。…美緒さま、どうか俺たちを、ここにっ!!」

「お、おれもっ!…俺もロミューノも孤児上がりなんだ。家族もいない。…美緒さま!」


そうなんだね。

なら。


私の言う言葉は決まっている。


「分かったよ皆。ようこそ、我がギルドへ。…仲間は呼び捨て。良いですか?…そして…私を助けてくださいますか?」

「っ!?た、助ける?俺たちが…は、はいっ!」

「よ、よろしくお願いします」

「私も…お願いします」


メインキャラクター、革命騎士レストール。


未だ覚醒を果たしていない彼だけど。

これから鍛えればいいだけだ。


何よりアリアも喜んでいるしね。


うん。


良かったよ。



※※※※※



そう思っていた私が確かにいた。

問題は何もない、そう思っていたのだけれど。


どうしてこうなった?


今私たちは修練場に来ている。

中央で睨み合う二人の男性。


その様子をアリアはおろおろしながら見つめていた。


「お前がカイマルク?…お前、アリアを弄んでいるのではないよな!?」

「はっ。お前こそアリアを放って置きやがって。人生の先輩としてしっかり型に嵌めてやるよ」


私、失念していたんだよね。

アリアは準メインキャラクター。


当然役目がある。


『レストールと愛を誓う』という役目。

私はそれをすっかり忘れていたんだ。


「御託は良いんだよ?!…マジでアリアの事、愛しているんだな?」

「当たり前だ。幼馴染だか何だか知らんが…アリアは絶対に渡さねえ」


カイマルクから吹き上がるとんでもない魔力。

刹那。


修練場の壁にレストールは叩きつけられていた。


「ぐはあああっ??!!!」

「っ!?レスト?!…や、やめてっ!!…もうやめて、カイマルク…」


叫び声をあげるアリア。

そしてキッとカイマルクを睨み付けた。


「カイマルク…あなたの方が全然強いのに…分かっているはずなのに…どうして、こんな…」


そう呟き、慌ててレストールの元へと走るアリア。

おもむろに回復魔法を紡いだ。


「レスト、しっかりして…レス…」

「けじめだよ…ごほっ…ああ、強いな…カイマルク…ははっ、安心した…」


アリアの言葉にかぶせ、言葉を紡ぐレストール。

その瞳には満足気な光が瞬いていた。


「お前もな。『放っておいて』発言は撤回させてもらう。…安心してくれ。アリアは絶対に俺が守る」


そしてすぐ横に現れるカイマルクがレストールの手を取り優しく立たせた。


「えっ?…な、なに?」

「アリア」

「ひうっ?!」

「…良い人に巡り合えて…良かったな」

「っ!?…レスト…う、うん」


シナリオだと結ばれる二人。

当然幼馴染、いつでも一緒に居た。

そして。


当然二人はお互いに淡い恋心を抱えていたんだ。


「…でも悔しいな」

「えっ?」

「俺…お前のこと好きだった…」

「っ!?…わ、わたしも…レストのこと好きだったよ?…レスト」


抱きしめあう幼馴染。

そして終りを告げた淡い初恋。


修練場はなぜか甘酸っぱい空気に満たされていたんだ。



※※※※※



しばらくして。

おもむろにレストールが言葉を漏らす。


「…アリア?」

「うん?」

「お前…ずいぶん育ったな?」

「はい?」


抱擁を解き、アリアの胸を見つめるレストール。

途端に顔を赤らめるアリア。

そしていきなりアリアの胸を揉む彼。


「柔らかっ?!…カイマルクさんに揉まれたのか?おっぱ…」

「こんの『エロがっぱ』がああああああああっっ!!!!!!」

「おぶうっ?!!!」


「この馬鹿ッ!!変態っ!!あんた全然変わってないよね?!そういうデリカシーのない所!!」

「痛ってえな?!…お、お前だって相変わらず口より先に手をって…ひいっ?!!」


立ち昇る濃厚な怒りのオーラ。

実は今、すでにアリアの方が強かった。


「ご、ごめん、お、俺が悪かった…ひぐうっ?!!」


突然レストールの肩に、絶対零度の魔力を纏ったカイマルクの手が置かれた。


「てめえ。アリアの胸、揉みやがったな?…あれは俺のだ。絶対許さん!」

「ひいいっっっ?!!」


カイマルクに追われ、必死に逃げ回るレストール。


1人ぽつんと立ち尽くすアリア。

顔が真っ赤だ。


「お、俺の?…わ、私のおっぱいは私のだよっ!…も、もう。カイマルク…えっち♡」


全員の生暖かい視線が彼女に注がれたのは言うまでもない。



※※※※※



何はともあれ。

今私とザナ、お父さん、お母さん、それからエルノール。


なぜかめちゃくちゃヤマイサークに怒られています。


「無知とは…はあ。…恐ろしい…そして信じられませんね」

「あう」


大量に山のようになっている金貨をはじめとするお金たち。

それをちらりと見やりヤマイサークは大きくため息をついた。


「いくらあるのですか?」

「うあ、そ、その…えっと…」

「はああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

「うぐっ」


眼鏡をチャきりとかけ直し、一応の責任者であったエルノールを睨み付けるヤマイサーク。

そしておもむろに彼から経験のない魔力?オーラ?が吹き上がる。


「確かにここのギルドのメンバー。お金は必要とはしないでしょう。ですがこれではダメです。そもそも彼らは無給状態?信じられません。…ザナークさん?」

「う、うむ」

「…ざっと見、今ここには恐らく金貨30万枚はあるでしょう。しかも宝物庫?入りきらない量って…そしてこの宝石の数々…少なく見積もってもギルドの資産、金貨換算で10億は下らないでしょう」

「じゅ、10億?!」


金貨10億枚…日本円換算で…京…越え?!

マジで?!


「いつのころからか…この世界流通する金貨が減り始めたのです。…およそ1年前くらいから、ですかね。…美緒、あなたが転移してからですね」

「ひぐっ?!」

「ここが原因でしたか…いやはや。…来てよかった」

「あう」


確かに私たちのギルドの皆、魔物の討伐を頑張っていた。

普通世界ではお目にかかれないようなレアな魔物たち。

その素材はとんでもない金額だった。


近場の冒険者ギルドの買取所では悲鳴を上げていたし、何よりまだ全部の金額、受け取れていない。


『す、すみません。金庫が…そ、その』


当然家はお金には困っていない。

だからあまりそういうこと考えなかったけど…


「いいですか?お金は天下の回り物です。つまり流通しなければ意味がない。ここの金貨たち…泣いてますよ?」


うう。

確かに日本にいた時もそういう話は聞いたことがある。

お金は天下の回り物。


がむしゃらに溜め込むだけでは意味がない。


「まあ。ちょうどいいですけどね。…エルノール」

「は、はい」

「お金、使い道ないですよね?」

「え、えっと…あ、ああ」


ニヤリと顔を歪めるヤマイサーク。

そしておもむろに彼は通信石を取り出した。


「私の使命、目的。…それは経済と言う力でガザルト王国を無力化する事です。私個人の資産、金貨5億枚。…このギルドの貯蔵量と合わせて15億枚。ふふふ。滾りますねえ」


とんでもない存在がその産声を上げた瞬間。

そして彼はおもむろに、色々な言葉を駆使し、通信を始めていた。


私たち4人はまさにそれを目撃していたんだ。

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