目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話

 ようやく来た昼休み。

 アリシアはいつも通りギルドのカフェテリアにいた。

 バイキングでサラダとスープとパンを取り、そこに紅茶を添えて席についた。サラダをモシャモシャと食べながらアリシアは悩んでいた。

(どうしましょうか……。あの少年は明らかに力不足。到底盗賊退治など無理でしょう。ですがこちらの不手際となれば応援を送ることになるわけで、そんな大事になればまず間違いなくセシルさんに怒られるます。それはかなり面倒です。このまま少年が攫われてくれるのがベスト。……ですがそれはさすがにかわいそうですね)

 むむむと唸るアリシアの横にモニカがやって来た。プレートにはこれでもかと色んな料理が乗っている。

「あー。ようやくお昼ですよ。もう食べないとやっていけませんよねえ。太るとか考えてたら死んじゃいますよぉ」

 モニカは着席すると手を合わせた。

「モニカ、いっきまぁーすっ!」

 モニカがハンバーガーを食べようとしたその時だった。

 セシルの怒号がカフェテリアに響く。

「ちょっとモニカいるっ!?」

 モニカはビクリとして背筋を正した。するとモニカを見つけたセシルがドシドシと足音を立ててやってくる。

 セシルはモニカの肩をがしっと鷲掴みした。

「こら! あんた昨日廃墟のモンスター退治を発注したでしょ?」

 モニカは人差し指を口元に当て、右斜め上を見上げた。

「え? あー……。したような……。そ、それがどうかしました?」

「どうかしたじゃない。あの廃墟にはゴーストが出るからパーティーには魔術師が必須って書いてあったでしょ? なのにそうじゃないパーティーに出して、さっき話と違うって苦情が来たわよ」

「あ……。特記事項を見落としてたかもしれないです……。すいません……」

 しゅんとするモニカに対し、セシルは腕を組んでため息をついた。

「見落としたじゃないわよ。冒険者なんて報奨金しか見てない輩も多いんだから。そこをきちんと確認するのも受付嬢の仕事なのよ。今回は被害がなかったからいいけど、一つ間違えば人が死んでたのよ。そうなったら減給。最悪クビだからね。分かった?」

「うう……」

 しょんぼりするモニカの隣で話を聞いていたアリシアは先程からティーカップを持つ手がカタカタと震えていた。

 セシルは周囲にいた受付嬢にも言った。

「みんなも聞いて! 発注の際は必ず特記事項を確認すること! 内容が分からない場合は遠慮せずに私に聞きに来ていいから!」

 そこまで言うとセシルは手をパンと叩いて笑顔になった。

「ってことだから。ランチの邪魔してごめんね」

 みんなが食事に戻る中、アリシアはすくっと立ち上がってセシルに言った。

「セシルさん」

「ん? どうした?」

「申し訳ありませんが早退させてもらいます」


 アリシアは馬車の荷台に揺られていた。

 すぐそこに隣町が見えるとため息をつく。

(まったく……。なんでこんなことに……)

 馬車が町に着くとそこでアリシアは下ろされた。

 運賃を払って町を歩いているとアリシアは異変に気付いた。

(……人が少ないですね)

 王都からそう離れていない町にしては人影がまばらだった。

 アリシアは武器屋を見つけると一考する。

(一応なにか買っておいた方がいいかもしれませんね)

 中に入ると様々な武器が置かれていた。こういった店と縁がないアリシアはなにがなにやら分からなかった。

 すると店主の中年男が珍しがる。

「いらっしゃい。なにをお探しで?」

「これと言ったものは。できれば簡単に扱えるものがいいですが」

「簡単に扱えるものねえ。ちなみになにを想定してるんだ? ゴブリン? マンドラゴラ?」

「人です」

 武器を探っていた店主の手がピタリと止まる。

「人って……。まさか盗賊狩りかい?」

「まあ、そんな感じです」

(狩るわけではないですが)

 店主はやれやれとかぶりを振った。

「悪いことは言わない。やめるんだ。あいつらは女の子一人でどうにかできる相手じゃない」

「ご存じなんですか?」

「まあな。二ヶ月前から隣町との交易路に住み着きやがってな。そのせいでまともに物が入ってこねえ。王都経由だと高くなるし、おかげで商売あがったりだよ。ギルドに要請しても反応はねえし。諦めて町を出ようって奴まで現れる始末だ」

(なるほど。だから人が少なかったんですね。人間相手の仕事は人気ないですし)

 モンスターなら躊躇なく殺せる冒険者はいても人間相手では躊躇してしまう場合は多かった。なので相手が人間となると一般の冒険者はまず応募しない。

 アリシアは樽にあった剣を抜こうとしてみるが重くて持ち上がらなかった。

「そんなに強いんですか?」

「ああ。町のみんなで追っ払おうとしたけど失敗した。奴ら数が多いんだ。十人はいる。聞いた話だと大きな盗賊団の残党だとか。よその町にいたんだが冒険者に壊滅させられて逃げてきたらしい。とにかく素人が敵う相手じゃない。もうすぐ町のみんなで王様に直接頼むつもりなんだ。まったく、順番がどうとかって待たせやがって。とにかく安全になるまではあっちの道には行かない方がいい」

 店主は大きなため息をついた。

「コリンにも口酸っぱく言っといたんだが」

「コリン?」

「ああ。近所のガキでな。待てって言ったんだが今朝王都に向かったらしい。ギルドに頼んでも動いちゃくれねえって言ったのに。あいつうちの店からナイフ一本持ち出しやがった。まさかとは思うけど……」

(そのまさかですね)

 アリシアは小さくため息をつくとあるものを見つけた。

「話は分かりました。ギルドにはなんとかするよう言っておきます」

「言っておくって……」

「受けづらい依頼の場合は本部の人に直接話をつけた方が解決する確率が上がります。ランクを上げたいパーティーなどにおすすめできますからね。昇格ポイントを加算すれば受けてくれる可能性も高いですし」

「……なんか詳しいな。あんたギルドの人なのかい?」

 アリシアはギクリとした。

(受付嬢だとバレたらなんでこんなところに来たんだと怪しまれますね……)

「……いえ。知り合いにギルド関係の人がいるだけです。ではこれで」

 アリシアは店を出ようとして手に持っていたものに気付いた。

「あ。これだけ買っていきます」

 アリシアがお金を支払うと店主は不思議がった。

「まいど。でもそんなもんでどうするんだ?」

「ちょっとした人助けです」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?