アリシアとコリンはロープでぐるぐる巻きにされて大男の前に差し出された。
大男は拳をポキポキと鳴らしながら怒り心頭で二人を見下ろす。
「よくも舐めた真似してくれやがって。お前ら覚悟はできてるんだろうな?」
コリンは強気に言い返した。
「元はと言えばお前らが悪いんだろ!? ここを通る人達の邪魔をして!」
「うるせえっ! 盗賊が物盗んでなにが悪いんだっ! 決めた! てめえら隣国に奴隷として売り飛ばしてやる! お前ら! アジトまで連れてけ!」
部下達は「へい」と返事をしてアリシアとコリンを結んだロープの先を引っ張った。
アリシアはこの状況に困っていた。
(まずいですね……。明日も仕事があるのに……。もし無断欠勤なんてしたらセシルさんになんて言われるか……)
盗賊達はむむむと唸っているアリシアを引っ張っていく。
コリンはようやく現状を理解したのかアリシアの後ろでうな垂れていた。
「……うう。もう終わりだ……。オレがいなくなったらお母さんが……」
アリシアはコリンの方をチラリと見てから前を向いて言った。
「まだどうなるか分かりませんよ」
「でもこんな状況じゃ……。ナイフもないし……」
「あってもどうにもならなかったじゃないですか」
「そうだけど……。お姉ちゃん、意外と前向きなんだね」
「べつに。ただ面倒なだけです。こんなことで一々絶望していたら受付嬢なんて務まりません」
コリンは意外そうにした。
「……受付嬢ってそんなに大変なの?」
「ええ。とても」
二人が喋っていると大男が振り返って睨んだ。
「おいお前ら。いつまで喋ってんだ。大人しくしてろ。ったくよお」
大男は不満そうに前を向いた。すると道の先から誰かがやってきて舌打ちした。
「ちっ。こんな時に通行人か。通報されたら面倒だな。おい! 追い払え!」
「へい」と部下の一人が返事をして走り出す。
そしてやってきた通行人を睨み付ける。
「おいこら! ここは俺らの縄張りだ! 他行け! ほがああっ!?」
部下の男は話の途中で通行人にぶん殴られ、道の隣にある草むらまでぶっ飛ばされた。
それを見ていた盗賊団は目を丸くする。大男が通行人に怒鳴った。
「てめえっ! 誰の仲間に手を出したと思ってやがるっ!」
「うるせえっ!」とオーリーは叫んだ。「こっちは寝てねえんだよっ! さっさと町に戻って宿で寝てえの! 邪魔するなら全員ぶっ飛ばすぞ!」
「なんだこいつ……」
大男はオーリーの殺気に思わず後退った。
するとオーリーは大男の後ろにいたアリシアを見つけた。
「あれ? お前こんなところでなにしてんだ?」
「あなたこそなにしてるんですか?」
「はあ? 俺はマミー狩りが終わったから帰る途中なだけだ」
「ああ。そう言えば隣町って言ってましたね。ちょうどよかったです。助けてください」
「え? やだ」
オーリーはあからさまにイヤそうな顔をした。
アリシアの後ろにいたコリンは「ええ……」とドン引きしている。
「お兄ちゃん冒険者なんでしょ? なんで助けてくれないの?」
「だって眠いから。大体なんだよこいつら?」
それにアリシアが答えた。
「盗賊団です。この道を通る人を襲っているそうです。そしてこのままだと私達は売り払われてしまいます。だから助けてください」
「えー。どうしよっかなあー」
オーリーは面倒そうに悩んでいた。すると大男が眉をひそめた。
「なんなんだお前!? 敵なのか!? そうじゃないのか!?」
「ああ? 俺は俺だ。それ以外ない」
「なんなんだよ……」
大男は自由すぎるオーリーに手をこまねいていた。
するとアリシアは面倒そうに嘆息した。
「……仕方ないですね。このクエストの成功報酬でどうですか?」
希望していた取引ができてオーリーはニッとした。
「それプラス割りの良い仕事と飯を奢ってくれたら考えてもいいぜ」
「……がめつすぎでは?」
「背に腹はかえられないだろ?」
イタズラっぽく笑うオーリーにアリシアはやれやれと呆れた。
「……いいでしょう」
「交渉成立だな。よっし。ここからは仕事だ。さっさと終わらせるか」
オーリーは腰に差していた剣を二本抜いた。
それを見て大男が睨んだ。
「お、おい! こっちは何人いると思ってやがる! それに人質だっているんだぞ! こいつらがどうなってもいいのか?」
「いいよ」
「…………へ?」
「ただし、そいつらをちょっとでも傷つけたら峰打ちじゃ済まさねえ。首、落とすから」
不適に笑うオーリーを見て盗賊達はぶるりと震えた。
彼らは目の前にいる青年と自分達にかなりの実力差があることを肌で感じていた。
「いくぞ」
オーリーはそう告げると目にもとまらぬ速さで踏み込んだ。