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第2話


「……と、明日のために、邪魔な素材は置いてかないと」


 大事なことを思い出した俺は、いつもダンジョンへ持って行っている袋から、今日入手した素材を机の上に広げた。

 この袋は最高に便利なアイテムで、一定量の素材を圧縮して入れておくことが出来るのだ。

 便利すぎるアイテムのため、家一件が買えるほどの額なのだが、愚鈍を演じるにあたってみんなの前でモンスターを倒すわけにもいかないから購入をすることにした。


 ダンジョン探索では、いつも俺は一度迷子になることにしている。

 迷子になっている間に、モンスターを狩りまくって素材を入手するのだ。


「素材を売って金を作って、孤児院に寄付をしないとだからな」


 もともと孤児院育ちだから育った孤児院のために……というお涙ちょうだいの理由があるわけではない。

 単純に、孤児院にいるメスガキ様たちに良い暮らしをして欲しいからだ。


「でも単独でダンジョンに潜る時間はないからなあ」


 割と俺の日常は大忙しなのだ。

 パーティーでダンジョンに潜ってパメラちゃんに嘲笑してもらって、ダンジョンから帰ったらガブリエラに罵ってもらう必要がある。

 それにダンジョンで入手した素材を売りに行って、その金を孤児院に寄付しなくてはならない。

 ちなみに孤児院に寄付をしに行くときは、俺からの寄付とは言わずに、高名な方の使い走りで来たと言うことにしている。

 さすがに寄付をしてくれる相手のことを罵るメスガキ様はいないからだ。


 勘違いをされがちだが、メスガキ様は誰にでも偉そうなわけではない。

 尊敬している相手のことはきちんと丁寧に扱うのだ。

 その丁寧な扱いと馬鹿にしている相手への扱いの差がまたイイのだが、間違っても丁寧な扱いをされる側には入れられたくない。

 そのため孤児院では、俺は「ただ金を運ぶだけの人」を貫いている。

 そのおかげで数人のメスガキ様たちに罵って頂くことに成功しているのだ。


「……って、もうこんな時間か」


 この後はパーティーメンバーと明日の作戦会議をしながら夕食をとることになっている。

 ただその前に、ダンジョン帰りの汚い姿のまま食堂に行くのも悪いからと、それぞれシャワーを浴びに帰っていたのだ。


「さてと。パメラちゃんに追加の嘲笑をしてもらいに行こうっと」


 ああ、今日はとってもメスガキ日和だ。



   *   *   *



「アデル、今日は迷子にならないようにしてくれよな」


 そう言って、ダンジョン前でサイラスが俺の背中を叩いた。


「ああ、気を付けるよ」


 すると俺たちの会話を聞いていたパメラちゃんが、俺の脇腹を小突いた。


「もし迷子になったら、アデルバートをダンジョンに置いて先に帰ってあげる。ふふっ、一人で泣くことになるんだろうなぁ。かっわいそう」


「泣かないっての」


 ああっ、ダンジョンに潜る前からメスガキ供給をありがとうございます!

 これでダンジョン内でも頑張れます! 頑張って愚鈍になれます!


「本当にダンジョン内では迷子にならないようにしてくださいね。ダンジョン内での一人行動は危険ですから」


 もう一人のパーティーメンバー、回復職のオリビアが心配そうな顔でそう言った。

 オリビアは優しいお姉さんといった雰囲気の人物で、町ではかなり人気があるらしいのだが、俺の琴線には触れない。

 もちろん嫌いなわけではないのだが、罵倒とか嘲笑とは無縁の人物なので、俺のメスガキレーダーが反応しないのだ。

 ちょっと年齢的にもアウトだし。


「迷子にならないように頑張るよ」


「あーっ、アデルバートが叱られてるぅ。ダッサーい♡」


 うはっ、パメラちゃんがダッサーい♡って言ってくれた!

 最近は嘲笑ばかりだったのに直接的な罵りだ。

 嘲笑もいいが、やはり嘲笑しながらの罵りに勝るものはナシ。

 オリビア、ナイスパス!


「いえ、わたくしは別に叱っているわけでは……アデルバートさんもわざと迷子になっているわけではないでしょうし」


 ごめん、俺はわざと迷子になっている。

 これはパメラちゃんに罵られながら孤児院のメスガキ様たちを助けるために必要なことだから、許してくれ。


「こら、パメラ。人に向かってダサいなんて言っちゃダメだろ」


 俺のことを罵ったパメラちゃんを、サイラスが注意した。

 パメラちゃんは最高の仕事をしてくれたのだから、注意なんて必要無いのに。

 しかしそんなことを言うと性癖がバレるため、黙って見守る。


「だってキツイことを言っておかないとアデルバートは迷子になるんだもん。だから今のはアデルバートを迷子にしないための愛のムチだよ」


「愛のムチ……なるほど?」


 実際にはパメラちゃんはそんなつもりで罵ったわけではないのだろうが、サイラスがこの言い訳で納得しそうなのでまた黙って見守る。


「愛のムチ……パメラさんはお優しいのですね」


 なぜかオリビアまで納得しているが、黙って見守る。

 というかこのパーティー、半分がチョロい人間だったのか。

 それはパーティーとして大丈夫なのか?


「お喋りはこの辺にして、早くダンジョンに潜ろうよぉ」


「そうだな。早く潜ってとっとと帰ろう。みんな、行くぞー!」


 元気なサイラスを先頭に、俺たちはダンジョンへ足を踏み入れた。




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