ヒーローになることを決めた俺たちは、さっそくヒーロー認定委員会の認定試験を受けることにした。
認定に必要なためセンターマイク持参での参戦だ。
同じ車両にいる乗客たちの好奇心むき出しの視線が突き刺さるが、芸人なんて注目されてなんぼだ。
注目されたまま、目的の駅まで電車に揺られること数十分。
「ここがヒーロー認定委員会か!」
到着したのは、郊外にある広い敷地。森林公園と言われても納得するような自然豊かな場所だ。
「ヒーロー認定委員会なんて大きな組織の本部が郊外にあるなんて意外だよな」
「認定試験で広い敷地が必要だったんじゃない? 試験で戦闘をするのかも」
自分で言った言葉にダイは不安を覚えたようだった。
両腕で自身の身体を抱き締めている。
「戦闘はありそうだな。必殺の特殊能力があるとはいえ、ヒーローは魔物と戦う職業なんだから」
「ううっ。今さらだけど帰りたくなってきた。戦闘なんて僕の苦手分野だもん」
温厚なダイが泣きごとを言った。
ダイとはそこそこ長い付き合いだが、ダイが喧嘩をしているところは見たことがない。
それどころか格闘技の試合を観戦することすら苦手なようだった。
もし試験の中に戦闘をするものがあった場合は、ダイの代わりにすべての敵を俺が倒そう。
「ダイが隣にいないと漫才できないんだから、頑張ろうぜ」
「それは分かってるけどさ……僕は漫才しかしないからね。もしくはコント。戦闘に加わるつもりはないよ」
「それで十分だよ。特殊能力で一発KOなんだから、ダイが戦う必要なんてないだろ」
「さっきはヒーローは戦う職業だから戦闘がありそうだって言ってたくせに……この前のアレ、偶然だったわけじゃないよね? いきなり特殊能力が発動しなくなって魔物にボコボコにされる、なんて僕は嫌だよ?」
なおも心配そうなダイの背中をバシッと叩く。
「俺たちはいつも通り漫才をすればいいだけだ。不安になる必要なんてないぜ」
それにいつまでも入り口前でうだうだしていても始まらない。
俺はダイの背中を押しながら、ヒーロー認定委員会の受付へと向かった。
ロビーに置かれた椅子に腰掛けながら、名前が呼ばれるときを待つ。
「昨日の今日で予約が取れてよかったよね」
受付を済ませたダイは、覚悟が決まったのか、雑談モードに入ったようだ。
覚悟が決まったところでこうもリラックス出来るのはある意味才能だろう。
俺は若干力み過ぎているというのに。
「認定試験って日時を決めて大勢が一斉にやるものだと思ってたけど、そういうわけじゃないんだね」
「こんな世の中だからな。一刻も早くヒーローが欲しいんだろ」
魔物の被害は毎日相当数に及んでいる。
怪我人が後を絶たないし、建物が壊されることも日常茶飯事だ。
それに対して圧倒的にヒーローの数が足りていない。
自衛隊や有志の団体も魔物と戦っているが、ヒーローの特殊能力ほど効率よく魔物を倒せはしないのだ。
まあ倒せないこともないのだが、魔物は物理攻撃に強いらしく魔物一体を倒すだけでかなりの戦力を必要としてしまう。
それに対してヒーローの特殊能力なら一発で魔物を倒すことが出来る。
だからこそヒーローがありがたがられるのだ。
「そういえば正式なヒーローになったら魔物退治で報奨金がもらえるから、その分バイトを減らしてネタ作りに没頭できるかもね」
「話のネタになって、金ももらえて、知名度も上がる。ヒーローって最高だな!?」
「世のため人のためにもなるしね」
前から思っていたが、ダイはあまりお笑い芸人向きの性格ではないような気がする。
優しすぎると言うか、利他的と言うか。芸人としてのハングリー精神が足りないのだ。
それがダイの長所とも言えるが、他の芸人を押し退けて上へのぼろうとしなければ、芸人としての成功は見込めない。
ダイがのし上がろうとしないなら、その分相方の俺がガツガツ行かないと。
「俺たちが面白い芸人になるまで、せいぜい利用させてもらうぜ。ヒーロー認定委員会!」
「ヒーロー認定委員会のビルの中でそんなことを言うなんて……やっぱりウケルってヒーローに向いてないよね?」
「俺はお笑い芸人だからな!」
「売れてないけどね」
余計なことを言うダイを小突いたところで、スタッフが呼びにやって来た。
ついにヒーロー認定試験が始まるのだ。