「今回の議題は、コーガス領であるこの死の森の魔物が活性化している件についてです。このままいけば、領内の魔物が更に凶暴化される懸念が大きい。その事をコーガス侯爵領によく出入りされる従家の皆様方に知って貰う事が、今回の会議の一番の目的となっております」
今回、十二家は前回の反省から護衛を増員していた。にも拘らず、彼らの連れて来た護衛団は砦に到着する頃にはボロボロになっている。理由は至って簡単。護衛の数や質が上がっても、その分、俺が魔物を強化しているからだ。決して彼らに楽をさせてやるつもりはないから。
そしてその事を、第二回の会議としてやったのだ。開催には最低限の名分が必要だからな。
「発言を宜しいか」
十二家の代表に近い立場のケリュム・バルバレーが、発言権を求めた。
「どうぞ」
基本的に進行は領主である俺が行う。まあその際、明らかに承諾が必要そうなものはレイミーに化けた俺に尋ねたりはするが。
「ここの魔物達は異常です。まだ死人は出ていませんが、このままではいつ出てもおかしくない状況。こちらとしては、出来れば確実な安全を確保したい。コーガス侯爵家でその辺りをきちんと管理して頂けませんかな?」
まあ意訳すると……
魔物を何とかしろ。出来ないなら会議の場所を移せって意味だな。もちろん答えはノーだ。
「管理としては、森を結界で囲んでいるため何ら問題はありません」
瘴気によって魔物の発生する領地を持つ貴族は、その被害が出ないよう務める義務が課される。だが、それはあくまでも他所の領地への被害だ。自領に関しては、管理を怠って何かあっても国から責任を問われる様な事はない。つまり、結界を張っている以上、コーガス侯爵家はその責任をきっちりとはたしていると言える状態なのだ。
まあ普通は自領にダメージがあると税収に関わって来るので、放置する様な貴族はいないが……
だがコーガス侯爵家は別である。なぜなら、そもそも人が住んでいないからだ。収入がゼロな時点で、魔物をコントロールする理由は存在しない。
「ワシらが言いたいのは、このままでは従家の人間の命が脅かされるという事です。まさかコーガス侯爵家は、爵位を与えた我々を見捨てるおつもりか?」
「コーガス侯爵家に、あなた方を過保護に守る義務はございません。命の危機を感じたならば、自衛なさい。恩恵とは働きによって与えられるもの。なので今のあなた
方に、コーガス侯爵家から何かを施すつもりはありません」
徐爵によって爵位を賜る事こそ、彼らが受ける最大の恩恵。そしてそれに感謝し、忠誠を誓うのが正しい主従の在り方だ。それ以上の物を望むのは不敬以外の何物でもなく、ましてや何の働きもしていない者達に追加の恩賞を与える謂れもない。それをレイミーの口からきっぱりと宣言してやる。
分かりやすく言うなら、働かざる者食うべからずだ。
「ならば我々は賜った爵位を返上いたします。契約のためコーガス侯爵家からの破棄は出来ませんが、我らの側からの要請ならば何も問題ないはず」
ちょっと驚いた。まさかこんなにすんなり返上を口にするとは思わなかったからだ。利益が勝っている間は、絶対しがみ付いて来ると思っていたんだがな。
……まあでも関係ないが。
「聞き届けるつもりはありません」
徐爵による主従関係は一度受けてしまうと、その関係の放棄には授けた側の同意が必要になる。もちろん致命的な問題を主家が抱えている場合は話は変わって来るが、彼らにそれを通す大義名分はない。
「あなた方には、これからも家臣としてコーガス侯爵家へ仕えて貰います」
「なぜ?我々を排除するつもりだから、こんな無茶を押し付けているのではありませんの?」
主座に座る
……どうやら十二家は大きく勘違いしている様だな。
確かに、彼らはコーガス侯爵家が従えるに相応しい者達ではない。だから、ゆくゆくは爵位を返上させるよう働きかけるつもりだった。だがそれは今ではない。
何故なら、今のコーガス侯爵家には資金源が必要だからである。魔王討伐時の恩賞金をばら撒く訳にも行かない現状、周りから出所を疑われない打ち出の小づちが必要なのだ。
当然言うまでもなく、その打ち出の小づちとはここの集まった十二家達である。