「プライベートな事に口を挟むのは、問題なのは重々承知しています。ですが……その問題がコーガス侯爵家がらみであるなら、執事として見過ごすわけにはまいりません」
人様のプライベートに足を踏み込むには、それ相応の大義名分という物が必要だ。理由なしだと、余計な事に首を突っ込むなとシャットアウトされてしまうのは目に見えている。なにせそれ程親しい間柄って訳じゃないからな。
――因みに、コーガス侯爵家がらみと言ったのは只のカマかけである。
身辺調査で彼女自身の問題が浮上してこなかった以上、その理由はコーガス侯爵家か、その前に雇われていたコーダン伯爵家関連の可能性が高い。だが退職後、コーダン伯爵家との接触の痕跡はなかった。だからコーガス侯爵家関連かとカマをかけたのだ。
「!?」
俺の言葉に、バーさんが驚いて目を見開く。どうやら正解だった様だ。
「い、いや……別に……その……私の退職に侯爵家は関係ありゃしないよ」
バーさんがしどろもどろにノーと答えるが、ここまで露骨に態度に出ていると流石にバレバレである。
まさかここまで動揺するとはな……
彼女がコーガス家を必死に支えて来てくれた事に疑いはない。引き籠りのレイバンですら、バーさんには敬意を払ってるくらいだ。だから仮に何かあったとしても、それ程深刻な物だと俺は考えていなかった。精々ちょっとした不満やトラブル程度の積み重ねだと。
だが、彼女がここまで動揺するとなると、俺が考えているよりずっと深刻な問題である可能性が出て来た。
『嘘を言っているぞ』
うそ発見器として同席させていた魔王が俺にそう伝えて来る。
『ああ。言われるまでもなく、態度を見れば一目瞭然だ』
「バーさん。私はコーガス侯爵家に忠誠を誓う執事です。ですので……」
レイミーやレイバンが、彼女に何かをしたとは考えづらかった。つまり加害者が居るのなら、それはバーさんである可能性が高い。
まあ自分の意思で何かしたとは考えづらいから、コーダン伯爵家に何かさせらたと考えるのが妥当だろう。
「貴方がコーガス侯爵家に対して大きな問題を抱えているというのなら……私は執事として、どんな手を使ってもそれを暴く義務があります」
俺はバーさんに強くそう宣言する。
シンラに言われてバーさんのお悩み解決のつもりだったが、コーガス家関連で深刻な問題を抱えているのなら話は変わって来る。結構冗談抜きで、どんな手を使ってでも調べ上げるつもりだ。
――その結果、最悪バーさんを害する事になったとしても。
コーガス侯爵家に仇なす相手は、例え功労者だろうと容赦はしない。
「う……」
睨みつけると、バーさんが苦し気に顔を歪めた。視線に魔力を込めてあるので、力のない彼女にはかなりの圧迫感になっている筈だ。
『老人を虐めるのは如何なものかと思うが?』
『安心しろ。バーさんは俺らよりずっと若い子娘だ』
まあ、年長者だったとしても行動を変えるつもりは更々ないが。
「貴方も、私が優秀である事は知っているはず」
別に自画自賛をする訳ではないが、それだけの物を彼女達には見せて来た。
やると言ったらやる。それは側で見て来たバーさんもよく理解している筈だ。
出来れば手荒な真似はしたくないので、脅しだけで素直に話して貰えると有難いんだが……
「はぁ……はは、そうだね。あんなたならきっと暴いちまうんだろうね」
バーさんが大きく溜息を吐き。諦めた様に力なく笑う。
「ただ、一つ頼みがあるんだ」
「何でしょう?」
「どんな罰だって受ける。だから、レイミー様やレイバン坊ちゃんにだけは話さないで欲しいんだ。あたしの罪を……」
「内容次第ではありますが、善処する事を約束しましょう」
バーさんが苦悩する様に眉間に皺をよせて目を閉じる。そして覚悟が決まったのか、彼女は自らの犯した罪を語り出した。