「はぁっ!」
アークが裂ぱくの気合と共に振るった青い剣が、赤黒いカエルの魔物――デビルフロッグを一刀両断する。その剣技は超一流と言って差し支えない。更に剣だけでなく、彼は魔法にも長けており、その強さは人間としての限界に近いレベルと言える程だ。
――そんな彼の二つ名は『青の勇者』。
アークは、ミドルズ公国にある
因みに青の勇者というのは、建国時に活躍した青い剣と鎧を身に着けた騎士が由来となっている。
「おりゃあ!」
アークに並ぶ用にスレンダーな赤毛の少女――ミルラスが前に出て、デビルフロッグを蹴り飛ばす。武器を持たず己の肉体だけで戦う彼女は、いわゆる武闘や武術と呼ばれるタイプの戦士だ。その動きは素早く、また、見た目以上にパワーも強い。
ミルラスの強さはアークに比べるとどうしても見劣りしてしまうが、一般的に見れば、その戦闘能力は超一流と表されるレベルと言っていいだろう。
彼女はある事がきっかけでアークと勝負する事になり、そこで負けた事で彼に惚れ、以降行動を共にしている。いわゆる押しかけ女房的ポジションだな。
「フレア!」
ローブを着た金髪の少女――ローラが魔法で火球を放ち、魔物を焼く。彼女はアークと同じアカデミーの同級生で、その成績はアークに次ぐ二位だ。単純に魔法だけなら彼女の方が上であり、このまま順調に成長して行けば、いずれは賢者クラスに至るのではないかと俺は睨んでいる。
で、本来高位貴族の子女であるローラは、卒業と同時に実家であるエルント伯爵家へと戻る筈だった。だが学園生活の中で常に自分の上にいたアークを意識していた彼女は……まあ言うまでもないよな? そんな訳で、負けっぱなしじゃいられないとか『つん』な事を言いつつ、家から出奔する形で彼に付いて来ている感じだ。
「やれやれ、ゆっくり休めやしないな。スターシュート!」
ぼやきながら光の魔法を放っているのは、タルクという男である。他のメンバーは10代だが、彼だけは既に40近い歳だ。
――年齢の離れた彼がこの輪の中にいるのは、伯爵家の命令で家出状態にあるローラの護衛をする為である。
元々彼はアビーレ神聖教の武闘司祭――神官戦士と同等の、僧兵の様な物――だった訳だが、その怠惰な性格と、ギャンブル好きが祟って教会からは破門されてしまっていた。だが腕は立つのでそこを見込まれ、エルント伯爵家に雇われ今の任務に就いているという訳だ。
因みに、ローラはその事実を知らない。
そんな四人に混ざり、俺もちょこちょこと魔物を牽制したり攻撃したりする。
「終わったな」
デビルフロッグの数は10匹以上いたが、ものの数分とかからず全滅してしまう。まあ楽勝ではあったが、だからと言ってこの魔物が弱いのかというと、そういう訳ではない。
――ミドルズ公国の瘴気はエンデル王国より濃い傾向にあり、魔物のレベルは全体的に高い物となっている。
正確には、王国以外の国全般な訳だが。まあその事は置いておこう。
そして今倒したデビルフロッグ共は、公国内でも高位に位置する魔物に分類される。そんな魔物の集団を容易く処理出来たのは、それだけこの傭兵団――青の剣のレベルが高いという証である。
「まったく……少しは手伝ってくれていいだろうに」
木の上から眺めているだけで、一切手出ししなかったニンジャマンにタルクが恨めし気に目を向ける。
「拙者は討伐依頼を受けていないで御座る。それにあの程度の魔物、手伝わなくともそなたらなら敵ではなかったで御座ろう?にんにん」
ニンジャマンが正論で返す。
あ、因みにニンジャマンは俺の分身じゃないぞ。
え? 嘘つけ? いやほんと。俺もあいつがこのパーティーに近づいて来た時には、普通にびっくりしたし。
名前が名前だし、最初は転生者かと思ったんだが……調べてみたところ、アイツは俺より以前にこの世界に転生していた日本人の子孫だという事が判明した。
どうやら神は、定期的に転生者をこの世界に送り込んでいる様だ。
因みに見た目はゴツめの男だが、実際は細身の女性だったりする。姿形は先祖から受け継いでいる力の一つ、変容術という特殊なスキルで変えているっぽい。戦闘能力の方は、アークと同じぐらいだと思って貰えばいいだろう。一般人としては糞強いが、転生者目線で言うならそこそこって感じだな。
調べたところ転生者――ニンジャマンの祖先はかなり強かったらしいので、どうやら子孫にはチート能力が完全に受け継がれたりはしない様である。ま、現地人の血が混じる訳だから、当然と言えば当然ではあるのかもしれないが。
あ、因みに俺は犬な。正確には狼。青の剣で飼われている狼のウルとして、彼らに同行している。
闇蠍の情報を得るために。
アーク達は闇蠍に狙われていたからな。彼らの懐に入るのは、人間以外が適切だと判断したのさ。それに狼なら、ふらっとどこかに行っても違和感ないだろ?
え? 狼なら服着てないんじゃないかって?
フルチンですが何か?
俺は全裸だろうと気にしない。何故なら勇者だから。