翌日から早速俺の婚約者のクラウディア・バルシュミーデ侯爵令嬢は馬車に荷物を抱えて王宮へとやってきた。しばらく滞在予定だ。
と言うのも
「婚約者が剣の師匠とかおかしいだろうがっ!!」
と動きやすいトラウザーズに履き替えた赤髪の美少女は微笑む。うぐっ!綺麗!!
「ジークヴァルト様は私が10歳で敵国と闘ったことを知らないのでしたわね?以前も申した通り、この国で私の名を知らない者はおりませんのよ?鮮血姫の由来ですもの」
「で、でも女だろ!万一傷がついたらどうすんだ!!」
すると彼女は恥じらった!
「わ…私が傷などつくはずありませんわ!しかも殿下相手に!!何の心配をしているのです!わ、私が剣を教えてる時は婚約者も女扱いも辞めていただいて結構ですわ!!」
ええええ!無理だろおおお!?だって可愛いもん!美少女だもん!好きな子だもん!!
「あ…でもそれじゃ俺が全然クラウディアに敵わないってこと?」
「当たり前でしょう?まともに剣を習ったこともない初心者ではないですか…」
呆れた顔をされる。
まぁ、今まで痩せることに夢中で自分で剣は振ってたけど誰かに教わったことなかったし。
「くっ…解ったよ…。じゃあ、勝負だ!俺がクラウディアの髪を申し訳ないけど一房でも切れたら俺のお願いを一つ聞いてもらうと言うのは?」
クラウディアはふむとうなづき
「いいでしょう!その願い聞き入れましょう!」
「よしっ!約束した!」
「まぁその前にとりあえず剣の構えから教えましょうね?殿下…全然ダメダメな構えです」
ええっ!?まじで?これだせぇ構えなわけ?
「例えば剣の持ち方!右手メインで持ちますが親指を立てて
と彼女は自分で剣を持ち剣を親指一本だけでクルリクルリといとも簡単に回している!!
「なっ!何それっ!!凄い!!」
「全然凄くありません!初歩中の初歩です!!できて当たり前ですよこれ!!」
えええ!?そうなの?
と俺は一回やってみたけどガシャリと情けなく落ちた。だって西洋剣って絶対日本刀より重いぜ?それなのにクラウディアはあんな華奢なのに自在にクルクル回してるよ!
「騎士団も全員できるわけ?これ?」
「できますでしょ?こんなの…。できないと騎士団には入ってないですわ」
と言われて落ち込んだ。ダメじゃねぇかー!俺!ショック再び!
それから俺は一日中親指でクルクル回す訓練をやり続けた!
ガシャリ ガシャリ ガシャリ ガシャリ ガシャリ
何回も剣を落としては拾い、落としては拾い、で夕方になりかけた頃……ようやくクルリと回せた!!
クラウディアはもはや庭の雑草をむしってるしよぉ!!
「出来た!!出来たぞ!!クラウディア!クルリできた!!」
クラウディアは半目で
小さく
「あっ…はい…。良くできましたねー…」
とペチペチ小さい拍手をした。
くっそおおおお!!!
腹立つわああ!!クラウディア可愛いけどめっちゃバカにされてるわああ!しょうがないだろ!俺は前世日本人だし剣道もやったことねえし!バスケ部+軽音部掛け持ちだったし!補欠だけど!!
「あら…殿下…親指が腫れて豆が潰れてますわ…」
とクラウディアが気付いてヘンリックに救急箱を持ってきてもらう。
んで俺の親指に布を当て包帯を短く巻いた。
うっっ!こんな女の子らしいこともできるのか?
「ありがとう…」
思わず赤くなる。
「ジークヴァルト様?こんなことでお礼を言わなくていいのですよ?修行が進むとこんな軽いものでは済まなくなりますから」
慣れてる!慣れてるはずだよ!一体どのくらいの死地を潜り抜けてきたんだお前は!!
それから風呂に入りユリウスやエリーゼが食卓にクラウディアがいるのを見て
「お姉様お久しぶりです!!」
「一緒に夕飯が食べれるなんて嬉しい!!」
と喜んだ!
「お久しぶりですわ、ユリウス王子、エリーゼ王女」
にこにこと彼女は二人の頭を撫でた。
うっわ!見たことないくらい優しい!誰この美少女!子供好きオーラ漏れてるよ!!
「そうですわ、ユリウス王子には異国の船の本を…エリーゼ王女にはレースの可愛いリボンのついたクマちゃんをお土産に持って参りました」
と二人にプレゼントまで渡している!
ていうか物で手名付けとる!!
二人が好きなはずだわ。
俺なんか誕生日にプレゼント一つ貰えなかったけど?
まぁいいけど。
そして俺たちは食事についた。
俺のメニューを見てクラウディアがギョッとした!
「え?それだけ?」
俺はなんか未だに魚料理とサラダに卵とスープをモショモショ食ってた。一応肉を食べる時はなんか特別な日とかに少しつまむ程度だ。
妹たちは一応普通のやつ食べてる。
「うん?まぁ…別に父上も母上も留守だし贅沢するくらいなら国民に肉食べてもらって復興の為に働いて貰ったほうがいいじゃん」
と言うと彼女は驚いて
「素晴らしい…お心構えです…」
と彼女は手を組み
「女神ザスキア様…今日の食事に感謝を!」
と祈った。
ザスキアねえ…。あいつに祈ったことねぇわ。なんも俺に恩恵ないし…。
「あっつ!!」
痛めた親指でフォークが落ちる。
「大丈夫ですか?兄上」
「うんへーきへーき」
「………」
それを見てクラウディアが俺の側まで来て新しいフォークで魚を切り分け
「殿下お口を…」
「へ?あ…う」
とこれは美少女からのあーんか!!
ぎゃあ!これはなんと言うご褒美?
とりあえず平静を装いパクリと食べる。
んん!いつもより魚が美味しく思える!
明日からまた厳しい剣指導が始まると言うのに俺のクラウディアへの恋心が止まらなかった!
*
「いいですか殿下!斬撃は剣を前に振り出してから足を進めて腰を落とし一気に斬り下ろすのです!」
とクラウディアは髪の毛の剣ではなく普通の剣を手で持ち丸太人形をズバリと斬った!
げえっ!!凄い!!本当に凄いぞ!
「基本的には相手の頭を狙って殺すのが一番ですがまずはお腹を狙いましょうね」
とにこりと微笑む。段々と笑顔が怖く思えてきたぞ。可愛いけど!
そんでまた一日中俺は木の人形に打ち込んだ。
まだクラウディアとは手合わせもしてないのにこのしんどさ!
こんなんで髪一房なんて切れるのだろうか?
しかも髪の毛剣みたいに硬くできるしクラウディア。
「あーあ…俺にも特殊能力あればいいのに!!女神クソがっ!」
はぁはぁと息をして休憩しているとクラウディアが冷たいお水をくれた。
「私たちのような特殊な能力は女神ザスキア様が授けてくださったらしいですよ。伝承ですが」
「ふーん…王家にもあったらいいのに」
「王家にも能力を持つ者はいるみたいでしたよ?でも何年か何十年かに一人の確率らしいですから殿下が力を持ってなくても当たり前と言うか…」
俺はガバリとクラウディアの肩を掴み迫った!
「ひっ!」
「クラウディア!それは本当か?王家の者にも特殊能力者はいるのか?どんな力?また髪の毛?」
「ちちち…近いですわ!!」
ドォンとクラウディアに思いっきり突き飛ばされ俺はゴロゴロ土を転がって木に激突して気を失った。
「ああ……」
クラウディアはしまったという顔をした。