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第4話


 阿佐美が去った後、男子生徒たちも興が覚めたとばかりに帰ってしまい、校舎裏に残されたのは目黒と俺の二人だけになった。

 目黒に促されるままに次の目的地へ向かいつつ、質問をする。


「なあ、目黒。武道場の地下って何?」


「行かない方がいいよ」


 目黒は不快感を隠そうともしなかった。

 こんなに拒否反応を示すなんて、ろくな場所ではなさそうだ。


「もしかして薬物パーティーでもやってるのか?」


「そういうのじゃないけど。でも、あまりお行儀の良いことはやってないよ」


 行儀の悪いことと言われて思いつくものはいくつもあるが、どれも関わりたいものではない。

 しかし、武道場の地下に行かないと俺の正義は偽物扱いされてしまう。

 それだけは我慢が出来ない。

 他人からしたら、どうでもいいことかもしれないが、俺にとっては大事なことだ。


「具体的に教えてくれ、目黒。武道場の地下では何をやってるんだ?」


「……力で他人の“想い”を奪い取る決闘だよ」


「何だそれ」


 不良グループの決闘でも行なわれているのだろうか。負けた人は勝った人の言うことを聞く、みたいな。

 もしかするとこの町はずいぶんと治安が悪いのかもしれない。


「決闘だけじゃなくて、どっちが勝つか賭けも行なわれてるの。それもかなりの高額で」


「ああ、それは確かに行儀が悪いな。じゃあ武道場の地下へ行ったら、俺は決闘をさせられるのか? そしてその決闘が賭けの対象になる?」


「さすがに初回は見学だけだと思う……けど、そんな場所のことは忘れて、剣道部に入ろうよ!」


 そう言って目黒が連れてきたのは武道場だった。

 ちょうど剣道部が部活動を行なっているようだ。


「ちなみに武道場の正面にあるのが体育館だよ」


「恵奈先輩っ」


 武道場に目黒がやってきたことに気付いた部員の一人が近付いてきた。

 小走りで近付きつつ、武道場の前に立つ俺たちに向かって大きく手を振っている。

 その部員は銀髪で、顔立ちも阿佐美と似ている。とはいえ、阿佐美ほどキツイ顔つきではないが。


「恵奈先輩、おつかれさまですっ。その人は誰ですか?」


「転校生の堀田相馬君。剣道経験者だよ。相馬君、彼女は一年生の阿佐美花林ちゃん」


 阿佐美ということは、やはりクラスメイトの阿佐美の妹なのだろう。

 そういえば俺は阿佐美の下の名前を知らない。

 本人に聞いても教えてくれないような気がするから、明日先生にクラス名簿をもらおう。

 目黒と阿佐美以外の生徒の名前も早く覚えた方がいいはずだ。


「はじめまして、阿佐美花林です。堀田先輩は剣道経験者なんですねっ」


「小学生と中学生の頃にやってたんだ」


「わあ! 強い部員は大歓迎ですっ。弱くても部員は大歓迎ですが! さあ、部活見学でも体験入部でもお好きにどうぞっ」


 花林ちゃんは俺の腕をグイグイと引っ張って、武道場の中へと連れて行こうとする。


「まだ剣道部に入ると決めたわけでは……」


「剣道経験者が剣道部に入らないなら、誰が剣道部に入るって言うんですかっ。今なら確実に団体戦のメンバーになれますよ。男子は四人しかいないので」


 花林ちゃんは、どうあっても俺を離してはくれないようだ。

 今日は武道場で剣道部の活動を見るのもいいかもしれない。

 ……阿佐美の指定した夜七時までは、まだ時間があるのだから。


「あの、花林ちゃん。武道場の地下ってどこから行くのか知ってる?」


 何となく目黒は行き方を教えてくれないような気がしたため、花林ちゃんに聞いてみることにした。

 すると花林ちゃんはニヤニヤしながら俺の脇腹をつついてきた。


「闘技場に行くんですか? 転校早々、好戦的ですねっ。もしかして堀田先輩が転校して来たのも闘技場が理由だったり?」


 武道場の地下は『闘技場』と呼ばれているらしい。

 闘技場と呼ばれるからには、勝手に決闘をしているわけではなく、きちんと会場になっているのだろうか。

 それに闘技場が理由で転校する可能性があるほどに、闘技場では重大な戦いが行なわれているのだろうか。

 決闘は、俺の思っていたような不良同士の試合ではないのか?


「なあ、闘技場では一体何が行なわれてるんだ? 決闘というからには戦うんだろうけど」


 俺の言葉を聞いた花林ちゃんは、一旦真顔になった後、口の端を上げてニヤリと笑った。


「行ってみれば分かりますよ。闘技場へは、武道場の裏にある扉から行けますっ」


 ちらりと目黒の方を見ると、目黒はものすごく険しい顔をしていた。



   *   *   *



 誘われるままに剣道部の活動を見ていたら、用事があったのか花林ちゃんが途中で帰ってしまった。

 そのことで、部活動での早退が禁止されていないことが分かったのはありがたい。

 たとえ入部したとしても、部活動にガチガチに縛られることは避けたかったからだ。


 俺は七時近くまで剣道部の活動を見学してから、闘技場へ行くことにした。

 やはり目黒には激しく止められたが、そこまで止められると逆に見たくなってくる。

 それでも俺を止めようとする目黒は、最終的には自分も一緒に行くと言い出した。

 俺を一人で行かせるくらいなら、自分と一緒の方がマシだと思ったらしい。

 しかしそんなに嫌悪感のある場所へ目黒を連れて行くのは申し訳がないと考えて断った……が、目黒はどうしても付き添うと言って粘ってきた。

 そのため俺はトイレへ行くフリをして、こっそり武道場をあとにした。





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