剣道部の活動後、武道場を出たところに、一人の男子生徒が立っていた。
金髪でガタイが良く、少し怖そうな印象の生徒だ。
「あれは誰だ? 誰かの兄貴か?」
「あとで説明する。だから私が合図するまで、相馬君は何も言わないで。話がややこしくなるから」
俺に小声でそう言った目黒は、一人で金髪の男子生徒の前に歩いて行った。
「沢村先輩。前にも言いましたが、待たれると困ります」
なるほど。この人が花林ちゃんの言っていた目黒のストーカーか。
勝手に陰湿な男を想像していたから、少し意外な外見だ。
そしてこっそりあとをつけるのではなく、堂々と接触してくるタイプのストーカーなのか。
こっそりストーキングされるのも不愉快だが、これはこれで厄介そうだ。
「いいじゃねえか、帰りを待つくらい」
「私は沢村先輩と付き合うつもりはないんです。ごめんなさい」
ストーキングの被害者のはずの目黒は、律義に沢村という生徒に頭を下げた。
「付き合えとは言ってねえだろ。一緒に帰るだけだ」
「一緒に帰る途中で恵奈先輩に何かする気でなんでしょっ!?」
そのとき目黒の前に花林ちゃんが立って、沢村から目黒を見えないように隠した。
目黒の方が身長が高い関係で、実際には見えているが。
「ああん?」
花林ちゃんの言葉に沢村はイラついている様子を見せた。
しかし花林ちゃんも引かない。花林ちゃんは可愛い見た目に反して度胸があるようだ。
「恵奈先輩は花林と帰るんですっ」
「……お前、花瀬の妹か」
そう言って沢村はニヤリと笑うと、懐から青と銀で彩られたネクタイを取り出した。
「それ、闘技者のネクタイ……」
ネクタイを見た途端、花林ちゃんが顔色を悪くした。
「まさか、それを使って!?」
「ああ。なかなか良い返事がもらえねえから、実力行使に出ることにしたんだ。闘技場で優勝者になれば、俺は恵奈と恋人になれる。恵奈自身が反対したとしてもな」
勝ち誇ったように笑う沢村に、花林ちゃんは苦々しげな表情を向けている。
当の目黒も、沢村に対して嫌悪感をむき出しにしている。
沢村が目黒の嫌っている闘技場に関わった上、優勝して無理やり目黒と付き合おうとしているのだから、当たり前だ。
第三者の俺も、聞いていて不快な気分になってきた。
「……花瀬お姉ちゃんも少しは人を選べばいいのに。誰彼構わず闘技者にしちゃうんだから」
悔しそうな花林ちゃんを見て気分を良くした様子の沢村は、手をひらひらとさせて、ここから去る意思を示した。
「今日は花瀬に免じて帰ってやるよ。花瀬は俺を闘技者にしてくれたからな。花瀬の妹だったことに感謝しろよ、チビ助」
「チビ助って呼ぶなっ! あんたなんか初戦で負けちゃえっ!」
悔しさを集めて放ったような花林ちゃんの叫びに、沢村がさらに気分を良くしたことが、去っていく背中を見ただけで分かった。