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第12話


 剣道部の活動後、武道場を出たところに、一人の男子生徒が立っていた。

 金髪でガタイが良く、少し怖そうな印象の生徒だ。


「あれは誰だ? 誰かの兄貴か?」


「あとで説明する。だから私が合図するまで、相馬君は何も言わないで。話がややこしくなるから」


 俺に小声でそう言った目黒は、一人で金髪の男子生徒の前に歩いて行った。


「沢村先輩。前にも言いましたが、待たれると困ります」


 なるほど。この人が花林ちゃんの言っていた目黒のストーカーか。

 勝手に陰湿な男を想像していたから、少し意外な外見だ。

 そしてこっそりあとをつけるのではなく、堂々と接触してくるタイプのストーカーなのか。

 こっそりストーキングされるのも不愉快だが、これはこれで厄介そうだ。


「いいじゃねえか、帰りを待つくらい」


「私は沢村先輩と付き合うつもりはないんです。ごめんなさい」


 ストーキングの被害者のはずの目黒は、律義に沢村という生徒に頭を下げた。


「付き合えとは言ってねえだろ。一緒に帰るだけだ」


「一緒に帰る途中で恵奈先輩に何かする気でなんでしょっ!?」


 そのとき目黒の前に花林ちゃんが立って、沢村から目黒を見えないように隠した。

 目黒の方が身長が高い関係で、実際には見えているが。


「ああん?」


 花林ちゃんの言葉に沢村はイラついている様子を見せた。

 しかし花林ちゃんも引かない。花林ちゃんは可愛い見た目に反して度胸があるようだ。


「恵奈先輩は花林と帰るんですっ」


「……お前、花瀬の妹か」


 そう言って沢村はニヤリと笑うと、懐から青と銀で彩られたネクタイを取り出した。


「それ、闘技者のネクタイ……」


 ネクタイを見た途端、花林ちゃんが顔色を悪くした。


「まさか、それを使って!?」


「ああ。なかなか良い返事がもらえねえから、実力行使に出ることにしたんだ。闘技場で優勝者になれば、俺は恵奈と恋人になれる。恵奈自身が反対したとしてもな」


 勝ち誇ったように笑う沢村に、花林ちゃんは苦々しげな表情を向けている。

 当の目黒も、沢村に対して嫌悪感をむき出しにしている。

 沢村が目黒の嫌っている闘技場に関わった上、優勝して無理やり目黒と付き合おうとしているのだから、当たり前だ。

 第三者の俺も、聞いていて不快な気分になってきた。


「……花瀬お姉ちゃんも少しは人を選べばいいのに。誰彼構わず闘技者にしちゃうんだから」


 悔しそうな花林ちゃんを見て気分を良くした様子の沢村は、手をひらひらとさせて、ここから去る意思を示した。


「今日は花瀬に免じて帰ってやるよ。花瀬は俺を闘技者にしてくれたからな。花瀬の妹だったことに感謝しろよ、チビ助」


「チビ助って呼ぶなっ! あんたなんか初戦で負けちゃえっ!」


 悔しさを集めて放ったような花林ちゃんの叫びに、沢村がさらに気分を良くしたことが、去っていく背中を見ただけで分かった。





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