目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第10話 隣の席

「鏡竜也君よ。今日から皆と同じクラスの仲間になる子だから、仲良くしてあげてね」


今俺の事をクラスに紹介してくれた女性、桜巫女さくらみこさんは今日から俺が世話になるクラスの担任だ。年齢は20代半ば。眼鏡をかけた優し気な先生で、その最大の特徴は桜色の腰まで伸ばした髪だった。


どう考えても人間の髪色ではないので、間違いなく染色だ。にも拘らず、その色合いは自然でとても彼女に似合っていた。俺はその美しい髪に思わず見惚れてしまう。


「竜也君?」


「あ……す、すいません。鏡竜也です。趣味はレベ……えーっと、取り敢えず体を動かす事です」


危ない危ない。危うくレベル上げと言いそうになった。まあゲームのレベル上げが好きなのだと捉えられるだけかもしれないが、それはそれでオタク宣言みたいになってしまうので余り宜しくはない。


「竜也!桜ちゃんのことスケベな目で見てんなよ!」


「うっせぇ!」


泰三が茶化してくる。どうやら奴とは同じクラスの様だ。


泰三の言葉に男性陣がどっと沸く。クラスの人数は30人。男女比は女性23に男7だ。ギフトは男より女の方が発現する可能性が高いらしいので、必然的に男の方が少なくなる。


「はいはい。静かに静かに。それじゃ竜也君の席は……」


「先生!俺の後ろでお願いします!ちゃんと見はっときますんで!」


泰三が手を上げてアピールする。俺に後ろを取らせるとか、愚か極まりない行動だ。授業中延々と襟足を伸ばしてやろうか? 俺の髪の毛を伸ばす能力でな!


「泰三君は落ち着きが無いので駄目です。じゃあ竜也君は、すめらぎさんの横に座ってくださいね」


泰三のアピールをすげも無く斬り捨てると、桜先生は教室の隅に座っている女子の右隣りを指し示す。それは俺が教室に入った瞬間から気になっていた女子の隣だった。


その子はラメ入りのキラキラした青に染めた髪の少女で、制服ではなく赤のジャケットに黒のズボン姿で席に座っている。目には濃い青のシャドーが塗りたくられ、その唇も青く染められていた。


俺が気になっていたのはそのインパクト故だ。


彼女は教室の雰囲気から盛大に浮きまくっていた。どう見ても、その風体はロックをこよなく愛する不良少女にしか見えない。


「ふふ。彼女は個性的な見た目ですけど、凄く優しい子ですから。直ぐに仲良くなれますよ」


因みに、この学園に制服は有れど、強制ではなかたりする。そのため、女子は約半数が私服だった。まあ男子連中は全員制服だが。この辺りは、おしゃれに関する感覚の違いだろうな。男子と女子とでの。


「はぁ……」


先生が俺を席に着くよう促してくる。


良い子ねぇ。全然そうは見えないが……まあ、別に誰が横でも大して問題は無いからいいけど。俺は気のない返事を返し、彼女の横に座る。


「えーっと、鏡竜也だ。宜しく」


すめらぎ


ぼーっと窓の外を見ていた皇が俺の声に反応し、一瞬だけ視線を向けて返事を寄越した。かなり素っ気ない。別に俺はコミュ障ではないが、彼女と仲良くなるのはかなりハードルが高そうだ。


「それでは授業を始めます。教科書を開いてください」


授業は一般的な普通の物だ。午前中は一般教育であり、能力系の授業は午後からになる。因みに、皇は教科書を開くでもなく、授業中ずーっと窓の外を見ていた。


大丈夫かこいつ?


授業が終わると皇は無言で教室を出て行く。何か急いでいる様にも見えたが……便所かな?


「竜也!飯食いにいこうぜ!」


泰三が席から立ちあがり、こっちにやって来て食事の誘いをかけて来る。俺は3時限目まで別の場所でこの学校に関するレクチャーを受けていた為、さっき受けたのは4時限目の授業だ。


つまり、今から昼休みという訳である。


「おう!奢りか!」


「んな訳あるか!」


新人に対する歓迎もしてくれないとは、ケチ臭い奴だ。まあ冗談はさておき。


「どこで喰うんだ?」


「中庭だよ。購買でパン買ってそこで食おうぜ。それともスーパー迄行って弁当買うか?」


「スーパーは少し遠いし面倒だ。購買でいいよ」


学園のすぐ横には、ホームセンターと半一体化された様なスーパーがある。基本的に学園の外への出入りには許可がいるのだが、そこは学生専用に作られた施設であるためフリーで出入りする事が――専用の道がある――出来た。


昨日は泰三と一緒にそこで色々買い物している。


因みに、その際一昨日の施設案内で説明が無かったぞと突っ込みを奴に入れると「ここは専用とはいえ、施設の外だからな!」と返って来た。絶対忘れていただけだろう。苦しい言い訳もいい所だ。


泰三と話していると知らない女子3人が近づいてきて「じゃあ私達先に行ってるよ。鏡君、後でね」そう言って泰三の背中をポンと叩き、彼女達は教室を出て行いった。


「誰?」


「俺のダチだよ」


そう言って泰三は小指を立てる。それはダチを表わす表現ではないのだが……ガールフレンドって事か? にしては人数が多いな。泰三の癖に生意気だ。


「あいつらは手作り弁当組だから、先に中庭で場所取りしてくれてる。ま、後で紹介するよ。さ、行こうぜ」


「ああ」


俺は泰三と購買でパンを買い、中庭へと向かう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?