「羽理とはまた後日出直せばいいじゃないですかぁ〜。私はもう、課長に提案されたお好み焼き屋さんの口になってます!」
なんて具合。
(おう! 行ってこい、行ってこい!)
仁子の強引さに心の中で拍手
***
「
ネギがたっぷり入った、甘めの卵焼きを摘み上げながら、
先ほどのことを嫌でも思い出させられてしまった
「あ、そう言えば……」
まるで
「よく考えてみたら
と――。
悔しいけれど
「あ、は、はい……。実は裸男さんが自分のを作るついでに作ってくれました」
自分が作ったわけではないのは確かだったので、羽理が思わずその言葉を肯定して。
仁子が嬉し気にポン!と手を打った。
「そっか、そっか。そう言うことだったのかぁー。考えてみたら
「ごめんね、見栄張っちゃった」
弁当箱が犬柄だったのにも、もっと言えば風呂敷包みが男っぽい渋柄だったのにも、得心が言った様子の仁子が、「弁当箱も包みもちゃんと洗って返しなよー?」と、まるでお母さんのようなことを言ってくる始末。
「分かってるって」
羽理がムムッと口を突き出して答えるのを見つめながら。
呼び名が〝裸男〟で定着してしまっていることにも思いっきりモヤモヤしてしまう。
(俺ンところに泊まりましたって素直に言えねぇのは分かる。分かるが! もっと言い方があんだろーが!)
(それに……俺が同棲してる女って誰だよ! 話の感じからして荒木ってわけじゃなさそうだよな!? おい荒木! お前、二人にどんな説明をしたんだ!)
木漏れ日のさす木陰に設置されたベンチへ横並びに腰掛けて、ふたりして
***
「はぁ~。どのおかずもめっちゃ美味しかったですっ! 料理のことだけで判断したらダメかもしれないですけど……
綺麗に平らげて、米粒ひとつ残さず空っぽにした弁当箱を元のように
結局ここに至るまで、羽理に聞きたいことを何一つ聞けていない
食事を摂りながら話したことと言えば、「この煮物、朝から煮込んだわけじゃないですよね?」と言う質問に「ああ」と答えたり、サバの塩焼きをつつきながら問われた「朝からお魚焼いたんですか?」の言葉に「ああ」と言ったとか……そんなのばかり。
(考えてみたら俺、『ああ』しか言ってないじゃないか!)
今更のようにそれに気が付いた
「――なぁ
ポツンとそうつぶやいたら、即行で「はい!」と返って来た。
「じゃあ、さ……。毎日俺の料理が食えるポジションに来てみるとか……どうだ?」
だって……それこそよくプロポーズで引き合いに出される「毎日キミの作った味噌汁が食べたいんだ」に匹敵するくらいのセリフだったから。
「えっ?」
だからそのセリフに羽理が珍しく言葉に詰まったみたいにこちらをじっと見つめてきたのも当然に思えて、
なのに――。
「あの、部長……それって……もしかして
と返されるとか、さすがに『嘘だろ!?』と思わずにはいられない。
しばし後、やっとの思いで「何でそうなる!」と抗議したのだけれど。
(そもそも上司の手料理が食える
口に出せばいいのに、ヘタレゆえ
「だって……」
つぶやくなり、どうしたら良いか分からないみたいにソワソワとコチラを見て身じろぐから。
その様が愛らし過ぎて、羽理の顔をしたミニミニキューピッドが、ズキューン♥と心臓を撃ち抜いたのを感じた
それは恋の矢で、というよりライフル銃で狙撃されたのに近い感覚で。
羽理と出会ってからこっち、
締め付けられるように痛む心臓をギュッと押さえつつ――。
(やばい。モジモジする
となった挙句、
「俺に同棲してる彼女がいるってデマを流したのはお前だぞ? 責任を取れ!」
とまくし立ててしまっていた。