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10.夕方は予定をあけておくように!②

 それだけならまだしも、思わずついでのように

「そ、それにっ! 〝裸男〟ってのは何だ! いつもいつも俺の前で裸を見せつけてくるお前だって立派に〝裸女〟だろーが! お、俺がっ! どれだけお前に手を出しそうになんのを我慢してると思って……!」


 思わず、『ここでそれ!?』と皆から突っ込まれてしまいそうなセリフを吐いて羽理うりを固まらせてしまう。


「み、見せつけてなんかっ! 部長のエッチ!」


 結果、大葉たいようが本当に言いたかった〝デマの責任の所在ありか〟があやふやになって。


 真っ赤になった羽理うりが、投げつけてきた曲げわっぱ入りの風呂敷包みが……あろうことか大葉たいようの――というより男性全般の急所を直撃してしまったのだった。



***



「ぐぁっ!」


 屋久蓑やくみの大葉たいようがエッチなことを言ってくるから。


 思わず条件反射みたいに手にしていた風呂敷包みを振り回したら、遠心力で手からすっぽ抜けて、大葉たいようの大事なところにクリティカルヒットしてしまったらしい。


 海老みたいにギュウッと身体を折り曲げてフルフル震えながら動かなくなってしまった大葉たいように、羽理うりは慌てて立ち上がった。


「あ、あのっ、屋久蓑やくみの部長っ、大丈夫ですか!?」


 ゆさゆさと肩を揺すって問いかけてみても返事がない。


 というより多分出来ない様子の大葉たいように、羽理はますます動揺して。


「部長、か、身体を起こして下さい! 私、私っ」


 言うが早いか涙目で顔を上げた大葉たいようの上体をグッと起こすと、股間へ手を伸ばして「痛いの痛いの飛んでいけ~!」とを撫でさすった。


「ば、バカッ、荒木あらき! んな事されから……、あっ」


 大葉たいようが慌てた様子でを上げるけれどお構いなし。


 ヨシヨシすればするほどそこがから、羽理はさらに懸命にをほどこした。



「あ、ちょ、マジで、や、めろ……っ! ホント、それ以上さ、れたらっ、本気、でヤバイ、……から、ぁっ」


 大葉たいようが羽理の手首を掴んで泣きそうな声を出すから、不安の余り、羽理の手の動きがどんどん丁寧になっていく……。


 そうして、とうとう――。



「あああ、もう!」


 本気を出した大葉たいようにガッと手を掴まれた羽理うりは、レフリーに勝者だと宣言されたボクサーみたいに右手を頭上高くにかかげられてしまった。


 大葉たいようが立ち上がったせいでお弁当包みが乾いた音を立てて地面に転がる。


 それを一瞬横目で追ってから、はぁはぁと肩で大きく息をする大葉たいようへと視線を転じてオロオロと見つめたら、

「ホントお前ってヤツは! ここが公園そとだと言うことを忘れてねぇか!?」

 思いっきり叱られてしまった。


「えっ!?」


 何故「痛いの痛いの飛んでいけ」をして抗議されないといけないんだろう?

 それは外でやったらいけない行為なのだろうか?


 サッパリ意味が分からなくてキョトンとした羽理に、大葉たいよう眉根を寄せる。


「――もしかしてお前、いま自分が何をやらかしたのか分かってない、とか……?」


 若干前かがみ。

 股のテントを隠すようにして、大葉たいようが盛大に溜め息を吐くから。


 羽理は解放されて自由になった手のひらと、微妙に姿勢の悪い大葉たいようを交互に見比べてほんのちょっと考えて。


「えっ。あっ。……わ、私っ! ……もしかしてご立派さんをで……っ!?」


 そう思えば、逞しい雄芯が手のひらの下で脈打つ感触がありありとよみがえってくるようで、今更のようにブワリと頬にしゅがさして、全身が熱くなった羽理だ。


「だっ、だからって! ……そんな風に反応しなくてもいいじゃないですかぁ! 部長の変態! エッチ!」



***



 照れ隠しだろうか。

 酷い言われようとともにバシバシ!と背中を叩かれて、大葉たいようは何て理不尽なことを言う女なんだ!と思って。


「あのなぁ。にこんなトコ触られて……反応するなって方が無理な話だろーが!」


 勢いに任せてそう抗議したのだけれど――。


「……へっ?」


 途端羽理うりに、鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな真ん丸い目をされて、「何だよ。まだ何か文句あるのか!?」と息巻いた大葉たいようだ。


「あ、あの……文句と言うか……。その、ひ、ひとつ質問なんですけど……。屋久蓑やくみの部長って……もしかして……私のこと、好き……だったり……します、か?」


 だが、ソワソワと落ち着かないみたいに羽理から恐る恐るそう確認されて、一気に怒りが冷めて。


「だっ、誰がっ! 誰をだ!?」


 あわあわしながら、逆に羽理へ問いかけてしまっていた。


「だから……部長が……私を、です。……あ、あのっ。わ、私の勘違いならいいんです。……忘れて下さいっ」


 言うなり、羽理がくるりと大葉たいように背中を向けて走り去ろうとするから。


 大葉たいようは慌てて彼女の手を掴んだ。


「バカっ。タクシーで来たのに歩いて帰る気かっ。そんなんしたら午後の業務に遅刻するだろっ」


(違う、言いたいのはそんな言葉じゃないっ!)


 握った羽理の手首が自分とは比べ物にならないほど華奢で……。少しでも力を込め過ぎてしまえば折れてしまいそうに細かったから。

 大葉たいようは今更ながら、羽理は〝異性〟なのだとハッキリ認識させられてしまう。


 こちらからは羽理の後ろ姿しか見えないけれど、ちらりと見える耳が真っ赤になっていて。

 それが何だかたまらなく大葉たいようの胸をキュンとときめかせた。



「た、タクシーくらい自分で拾えるので大丈夫ですっ」


 なのに、そんな可愛い羽理うりがこちらを振り向かないままに、有り得ないくらい非情な言葉を投げ掛けてくるから。


 大葉たいようは、思わず背後から羽理をギュッと抱き締めてしまっていた。


「ひゃっ、部長!?」


「か、勘違いなんかじゃねぇから……! だから……その、俺を置いて行くなっ」


 自分でも恥ずかしいくらい声が上ずっているのが分かって、大葉たいようは一度だけ大きく深呼吸をする。


(心臓がうるさすぎて敵わん!)


 加えて頭の中で自分の分身たちが、『こら、大葉たいよう! 今すぐ告白し直ちまえよ!』だの、『いっそのこと振り向かせてキスしたほうが手っ取り早いんじゃねぇか!?』だのてんでバラバラにやいのやいのと騒ぎ立ててくるからたまらない。


「……ぶちょ、苦し……」


 それで無意識。

 羽理を抱きしめる腕に力を込めすぎてしまったらしい。


「あ、すまんっ」


 慌てて腕の力を緩めてからもう一度深呼吸をすると、大葉たいようは腕の中の羽理を自分の方へ向き直らせた。


 そうして、やっとの思いで胸の内を語り始める。

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