「……あ、
――付き合って欲しい!
そう言えば済むだけの話だ。
だが、テンパる余り、
「きょ、今日の仕事後、一緒に買い物へ行かないか?」
と、何ともしまらないお誘いをしてしまった。
「えっ?」
「だっ、だからっ。その、ほらっ! け、化粧品とかっ。うちに置いとくやつ、いるだろ? だから……い、一緒にドラッグストアへ行こう! な!? そんなわけだから……ゆ、夕方は予定をあけておくように! いいな? ――お、俺からの伝達事項は以上だ!」
一気にまくし立てた挙句、まるで上司からの業務命令のように締めくくったら、羽理が条件反射のように「か、かしこまりました」と答えてくれて。
そのことにホッと胸を撫で下ろした
「あ、あの、部長……」
そんな
「だ、ダメだぞ!」
(今更やめましたとかなしだからな!?)
心の中でそう付け加えつつ
「あ、ああ……」
そのことにホッとして羽理に風呂敷包みを差し出した途端、お互いの指先がちょっぴり触れてしまって。
「きゃっ!」
「わっ!」
そんな風に思わず二人して過剰反応してしまったことが可笑しくなって、顔を見合わせて笑い合う。
ひとしきり笑った後で、息を整えるみたいに深呼吸をした
空気も心なしか甘く感じられた――。
***
それこそ作る所から農作物のあれこれに
そんな感じなので、扱う農作物の種類も
だが、イベントの企画などの
今回みたいにイベントの話し合いのため農家を
特に沢山の夏野菜が収穫期を迎えるこの時期は、どこも人手が足りていないから作業を手伝いながらの話し合いというのはざらだ。
そんな身体を使いまくった出張の帰り道、折悪しく事故渋滞にはまって思いのほか帰りが遅くなってしまった
(くそ! 何で畑ってやつは町中にねぇんだよ!)
……だなんて、そりゃぁ土地を広く取れるのが田舎だからですよ!?とすぐさま農家様から冷ややかな目で見られそうなことを思いつつ。
普段なら少々残業になってもお構いなしの
就業時間後に、やっと想いを打ち明けた相手――
(ヤバイ。定時を
――
暑い
(こんなことなら今日はアクアポニックスの視察にすべきだったな!)
ちょっと前から
それこそ開発部の領分だが、
開発部長の話によると、提携先の第一プラント内ではエビの養殖とワサビの水耕栽培が進行中らしい。
きっとそちらへ行けば、こんなに汗だくになることもなかったはずだ。
(ま、現実逃避だがな)
実際問題、時間的ゆとりがないのは今日出向いた先とコラボ予定のイベントの方だ。
アクアポニックス視察は、急いで行かなくても別に問題はないので、夢想するだけ無駄なのは
***
社員らは皆、大抵作業して帰った後はシャワーで汚れを落として着替えることにしている者が多い。
『迷ってるくらいなら、ちょっと遅くなるってメールしたらいいじゃないですか。時間がもったいないですよ?』
脳内でミニ羽理がそうささやいてくるのだけれど、いざスマートフォンを持ち上げて羽理の連絡先を呼び出したら、妙に緊張して手指が震えてしまう
(お、俺はいつからこんなヘタレになったんだ!)
そう自問自答したら、すぐさま『ずっとですよ?』とミニ羽理が律儀に答えてくれる。
(いや、そういうの、要らねぇから!)
と脳内で色々ミニ羽理に言い訳をしていたら、手に持ったままのスマートフォンがブブッと震えて驚いてしまう。