さすがに公開しているサイトが「
でも……もし
折角少しずつ読者が増えてきた作品を途中で非公開にしてしまうのは忍びないし、それに――。
(尊敬する上司から
そもそも、そんなことになったら仕事がしづらくなってしまうではないか。
羽理は仁子の耳元にスッと唇を寄せて『お願い、仁子っ。小説のことは話さないでっ?』と小声で耳打ちをした。
仁子がコクコクとうなずいてくれたのを確認して恐る恐る手を離すと、仁子がぷはぁーっと吐息を落として。
「息できなくて死ぬかと思ったぁー!」
とか
「鼻は塞いでなかったでしょ?」
「バレたか」
二人でいつものようなやり取りをしていたら、岳斗が恐る恐るといった調子で問い掛けてきた。
「あの……違ってたら申し訳ないんだけど……ひょっとして
岳斗から、羽理の大好きなキュルンとした表情で小首を
「……はいっ。
言ってからマズいと思った羽理は慌てて「き、気持ち悪いこと言ってすみません!」と付け加えたのだけれど。
「部下に慕われてるのを知って、嫌な気持ちになる上司はいないと思うんだけどな? むしろ今の話を聞いて僕、可愛い
眉根を寄せられる覚悟もしていたというのに、予想に反して岳斗からニコッと極上のふんわりスマイルを向けられた羽理は、岳斗の背後にぱぁぁぁっとパステルカラーの柔らかな色合いの花々が一斉にほころぶ錯覚を覚えてしまう。
仁子から、「推し活、本人に公認してもらえてよかったね♪」とクスクス笑われた羽理は、ひとまずホッと胸を撫で下ろして。
それと同時、岳斗の〝何でも出来る〟と言う言葉に、〝至らない自分の尻ぬぐいをさせてしまっているかも?〟という問題を思い出して、(
「あ」
「ねぇ、荒木さん。今日こそはずっと伸ばし伸ばしになっていたランチに行かない?」
明日にでも、と前置きをした上で岳斗をランチに誘おうと決意した羽理が口を開いたよりもわずかに早く。
出始めの〝あ〟に被せるようにして、岳斗からランチの提案されてしまった羽理は戸惑いに瞳を揺らせた。
「あ、あの……今日は……」
昨日の買い物で、
「やっぱり今日もダメかな? ――僕、なるべく早く荒木さんに話しておきたいことがあるんだけど……」
そう言われてしまっては、グッと言葉を飲み込むしかない。
だって話したいことと言うのは、きっと羽理の仕事への苦言に違いないのだから。
そう思ってみれば、前々から
(お弁当は……惜しいけれど仁子に食べてもらっちゃおう。部長は今日、お昼は出張で会社にいないって言ってたし……平気、だよ、ね?)
***
(あー、マジで面倒くせぇーな)
朝一で社長室から呼び出しを受けた
社長室や役員室のあるフロアから降りて自室――総務部長室――のあるフロア入り口を抜けたと同時、小さく吐息を落とした。
そうしながら、ふと視線を上げた先。
自分とは対照的に、やたらと上機嫌な空気をまとった
(ひょっとして
そう思って羽理の方へ視線を移せば、こちらを見詰めていた視線とバチッと嚙み合ったと同時、わざとらしいくらいに慌てた様子で視線をそらされた。
(おい、羽理。お前、何やらかした?)
この後すぐに出張に出なければならないと言うのに、何となくこのまま放置しておいてはいけないような気持ちがして。