春の陽だまりのような
(推しとそんなことになるのは本意じゃないもの)
羽理にとって、岳斗はあくまでも日々に
ヒーローのモデル役である彼が迫るべき相手は、羽理が『
(何なら仁子に迫ってくださったら私、萌えまくれるんだけどな!?)
そう。羽理は、岳斗が女性を口説くところを、あくまでも〝外野として観察したい〟のだ。
さっきは岳斗の行動が恋愛経験の乏しい羽理にすごく良い絵面を思いつかせてくれる刺激になって「よっしゃぁ!」となったけれど、ハッキリ言ってそれ以上のことは望んでいない。
「それは……いま僕たちのいるところが、周りから見通せる場所だから、かな?」
キュルンとした目で小首を傾げられて、羽理はふぅっと小さく吐息を落とした。
「場所の問題ではありませんよ? 先ほどから
未だ髪に掛かったままの岳斗の手をすっと避けながら一気にそこまで告げて。
「えっと……
横道にそれかけている上司を、懸命に軌道修正した。
***
部下の
(あれ?
そう思いはした
(男からの誘いにすぐ
岳斗は
だからこそ彼女たちの汚い面も沢山見せ付けられてきたのだ。
外見の清楚な女の子が中身もそうだとは限らないことを、過去の経験から嫌と言うほど思い知っている。
岳斗は、今まで
もちろん相手がそうと気付くような馬鹿な別れ方はしないし、何ならあと腐れのない相手を選んで寝ることの方が圧倒的に多い。
都合のいいセフレたちとは、利用価値を感じなくなった後も、表向きは円満な関係を続けるのがモットー。
面倒事はイヤなので、社内や取引先の女性とは関係を持たないことも徹底してきた。
だが、
正直これが案外手強くて苦戦している岳斗だ。
(キスしようとして拒まれたの、初体験だよ……)
羽理には場所の問題じゃないと否定されたけれど、それだってきっとゼロではないはずだ。
髪の毛に触れることは許してくれたのに、その先はNGとか、岳斗的には想定の範囲外。羽理が何を考えているのか、はっきり言ってサッパリ分からない。
そればかりか、羽理は仕事のことで何か伝えることがあって、岳斗が自分を食事に誘ったとかバカなことを思っているらしい。
(二人きりで食事に行かない?って聞かれて……普通そっちに受け取る? ――ヤバいな、発想が斜め上過ぎて、全然読めないトコ。逆に燃えるんだけどっ)
仕事の話ならば、社内の小会議室でも押さえれば済む話だ。
わざわざ食事に誘ってまで指導しようとは思わないし、そんなことをしたら勘違いするのが女性と言うものではないか。
(僕はキミに勘違いして欲しくてわざわざ外へ誘ったのに。少しは色気のある方向へ考えてよ)
***
「
いきなり
ギュウッとお弁当箱を包み込んだままの手に力を込める。
そうして気合いを入れるみたいに
昼休み中に昼食を食べ終われないのは困ると思っていた羽理は、自分の机までの移動時間も込みで考え、話しながらもちょっとずつ箸を進めていて。
甘いグラッセをデザートにするつもりはなかったのだけれど、これでお弁当箱の中身は空っぽだ。凄く残念な気がする。
「実は私、最近体調が良くなくて……」
口の中のモノをごくんと飲み込んでお弁当箱のふたを閉めながら観念したようにそう告げたら、岳斗が「えっ!? 大丈夫なの!?」と身を乗り出してきた。
「あっ。って言っても普段はそんなに問題ないんです……。ただ……」