羽理は距離を詰めてきた岳斗から離れるようにお尻をずりずりっと移動させると、そこで一旦言葉を切って、しばし
「ただ……?」
「その、あ、ある人物と一緒にいると……心臓がバクバクしてキュゥッと締め付けられるみたいに痛くなるんです。不思議なことに相手の方も同じ症状みたいで……。しかもっ! どうやら私たちを
「それで、唯一の治療法はショック療法だってその人が言って……。私、病気
(ごめんなさい、課長。私、推しな貴方にそんな暗い顔させたくなかったから……病気のこと、話したくなかったんです)
そう思って鎮痛な面持ちのまま岳斗を見つめていたら、「――ねぇ、
「まだ話してないんですけど……
羽理の言葉に岳斗は何事かを考えているみたいに沈黙してしまう。
「あの……もしかして
不安に耐えきれず、眉根を寄せて聞いたら、岳斗がポツンとつぶやいた。
「ひとつ確認なんだけど……荒木さんが一緒にいてしんどくなる相手は……もしかして裸男さん、だったりする?」
「えっ!? どうしてそれを……っ!?」
きっと鎌を掛けられただけなのに、思わず
「やっぱりそっか……」
言われて羽理はギュウッと箸を握りしめた。
「……だとしたら、僕は荒木さんにはそんな
「え?」
裸男が
なのに、そんな正体不明なはずの裸男のことを〝不誠実〟だと言い切る岳斗に、羽理は驚いてしまう。
「あのっ、もしかして課長……」
――裸男の正体がお分かりになられたんですか……?
そう問い掛けようとしたと同時、「だって相手には彼女さんがいるんでしょう? それなのに
***
(え? 待って? どういうこと? 今の話が本当だとしたら……
着替えまで置いてあるとか……まるで恋人同士ではないか。
そうとしか思えないのに、羽理の口振りからは、まだ深い仲にはなっていないようにも感じられて……それが何とも
こんな魅力的な女性を家に連れ込んでおいて何もしないとか……。実は裸男は男性的な機能が不全なんじゃないかと思ってしまった。
だが、羽理のことを手放したくないと言っている感じからして……相手も羽理のことを憎からず思っているのは確かだな?とも思って。
そう言えば、羽理が食べていた手の込んだ弁当だって、裸男とやらの恋人が作ったものではないとなると、もしや裸男自身のお手製?と気が付いた岳斗だ。
あんな
(ニンジンとかも荒木さんの好きな猫型にしてあったし……相当な入れ込みようだよね!?)
以前、意中の男性の胃袋を掴むと
食べる気にもなれなかったのを思い出す。
だが、羽理はどう見ても嬉しそうにそれを食べていたし、何なら岳斗にその素晴らしさについて
(ちょっと待ってよ
そう気付いたと同時――。
(
今更だが、裸男には勝ち目がないのではないかとすら思ってしまった岳斗だ。
(彼女持ちだと軽視してたけど……そうじゃなかったんだ)
――
見知らぬ敵を相手に戦うのは
初めて感じるどうしようもないくらいの悔しさと焦燥感を、長々とした吐息に乗せて吐き出した。