いつになく真剣な顔で自分を見詰めてくる姉に、
「ちょっ、説明長くなりそうだし、先に
裸で待っている羽理を理由に、一旦保留させてもらうことにした。
***
脱衣所で
いつもなら「乾かしてやるよ」と羽理を甘やかすところなのに自分でやれと言ったからかも知れない。
そう気が付いた
ここ最近は心臓が痛いからあまり近付かないで?と言われまくってきた
だが――。
「たいちゃん、まだぁー? お姉ちゃんのこと忘れて羽理ちゃんとイチャイチャしてなーい?」
コンコン……と脱衣所の扉がノックされて、
吐息混じりに「すぐ行く」と答えて、
脱衣所から出て来るなりキュウリを足元に
「まぁ落ち着けよ。飲み物用意するから」
そんな
身体が冷え切ってしまった羽理に、温かいココアを飲ませてやりたいと言うのが本音だが、そのついでに
ついで……とか思いながらも、結局自分と
「実際んトコ、俺にもよく分かんねーんだよ」
客人というほど大仰なものではない身内ゆえの気軽さか。
適当なマグカップに入れたコーヒーをローテーブルに置きながら本心を前置きすれば、「もぉ、たいちゃん、カップが色気なさ過ぎ」と言いながら、
「でも相変わらずたいちゃんの淹れてくれる珈琲は美味しいわね」
つぶやいてから、「分からないってどういうことなの?」と本題に入った。
「まんまの意味だよ」
言って、最初は自分が七階にある羽理のワンルームアパート脱衣所に飛ばされたことを語ったら、
以後、風呂に入るタイミングが重なると、どうやら先にドアを開けた方が相手の風呂場前に飛ばされるらしいと説明して。
(そう言やぁ週末に検証実験しようって言って、結局まだしてねぇな)
そう思った
(羽理はその話、覚えてっかな?)
ふとそんなことを思って、脱衣所にいる羽理の気配に耳をすませば、まだドライヤーの音が聞こえている。
羽理は結構髪の毛が長いし、時間がかかるらしい。
もう一人の当事者――羽理の援護射撃なしに孤立無援で語るには、にわかに信じがたい話だよな?と思って、(さて、どうしたもんか……)と次の一手に考えを巡らせた
「ふぅーん。世の中にはよく分かんない不思議なことがあるもんなのねぇー」
ほぅ、と溜め息を落としてマグカップを傾けるなり、感心したようにそうつぶやいた姉を見て、
「なぁ、
嘘はついていないのだから信じてくれとしか言いようがないのだけれど、こうもすんなり受け入れられては逆に落ち着かないではないか。
折角淹れたくせに、カップに一度も口をつけていなかったことに気が付いた
生唾を飲み込むついでのようにコーヒーを口にした。
ほろ苦く薫り高い液体が、喉を通って腹に落ちていくのを感じる。
「信じるも何も……お姉ちゃん、
どう考えても説明のつかない羽理出現の謎も、いま語られたことが真実ならば説明がつく。
言外にそう付け加えてくる
「――で、たいちゃん、その不思議現象の原因は探ったの?」
「原因?」
「だって……絶対にあるはずでしょう? 今まで起こらなかったことが急に起こるようになったならその理由が」