「だ、だからっ。私の後ろを歩くのは無しですっ」
チュニックの下にレギンスを履いているとはいえ、その中はショーツなしだ。
背後から
「ブランケットを巻き付けてんだから……俺がどう頑張ったって見えやしねぇだろ」
「がっ、頑張らないで下さいっ!」
「いや、今のは言葉の綾だ。別に見えたらいいなぁなんて期待してるわけじゃないとも言えないわけじゃないが……ややこしくなりそうだから一応ないってことにしておけ!」
「なっ、何なんですか、それっ! 意味分かんない!」
「俺にも分かんねぇよ!」
羽理のアパートから少し離れたコインパーキングにエキュストレイルを駐車した
一〇〇メートル足らずの距離をギャイギャイ言いながら少し距離をあけて一緒に歩く。
途中、一〇段ばかりの階段に差し掛かった時、「こ、ここだけは私が前にっ!」と数段下にいる
「何でだよ」
下から見上げるように振り返られて、羽理は「ひっ!」と声にならない悲鳴を上げる。
マントのように羽織ったブランケットは、歩きやすい様に前のところが二つにパックリ割れていて。
下から見上げる形になった
薄っすらと、羽理の秘めやかな場所の縦筋が目に入ってしまった
「なっ、何でブランケット、ぐるぐる巻きにしてないんだっ!」
と抗議した。
文句を言うや否や、
「た、
「お前が見せつけてくるからだろうが!」
「見せつけてません!」
耳まで真っ赤にして「被害者は俺の方だ……」とかブツブツ言う
「あそこに見える
鳥居の先に三毛猫が悠々と歩いて行く姿を見つけて、ハッとしたように足を止めた。
「そう言えば私、そのお祭りで……」
***
「その祭りで……何だ?」
早く先を話せと急かしたつもりだったのに、「いっ、いきなり距離を削って来ないで下さいっ」と羽理が悲鳴のような声を上げるなり胸元を押さえて飛び
羽織っていたブランケットのすそを踏んでよろけてしまう。
「危ねっ」
常に何かしゃべっている印象の羽理が大人しくなったことを疑問に思って腕の中を見遣れば、真っ赤になって固まっている羽理が目に入ってきた。
(やべぇ。めちゃくちゃ可愛い……)
羽理を茹でダコみたいに真っ赤にしてしまっているのは、きっと自分に他ならないんだと思うと愛しさが五割増し、いや百倍増しになるなとニマニマが止まらなくなってしまった
「あ、あのっ、……う、腕を……」
放して欲しいと、消え入りそうな声音でゴニョゴニョ訴えてくる羽理を、わざとギュゥッと腕の中に一層強く抱き込んで。
「なぁ、羽理。ひょっとしてお前、今、すっげぇ心臓バクバクしてる?」
分かっていて意地悪く問い掛ければ、コクコクと必死にうなずいてくる。
「そっか……」
「――な?」
「だ、だったら……」
なおのこと離れましょうと言いたげな羽理をじっと見下ろして、
「はぅっ」
途端腕の中の羽理が心臓を撃ち抜かれたみたいに小さく悲鳴を上げるから。
その反応を確認した
「お前のそれな、病気とかじゃねぇから」
「えっ?」
「恋愛もの書いてるんなら知識くらいあんだろ。――恋のときめきってやつ」
「こ、いの……とき、めき?」
「ああ。何か気付いてないみてぇなのがめっちゃムカつくんだがな。――羽理、お前は、胸がざわついて苦しくなっちまうくらい俺のことが好きなんだよ」
自分も同じだから分かると続けたら、羽理が瞳を見開いた。
「いい加減、自覚してくれ」
***
いきなり
「自覚しろって言われても……私、私……」
本当に目の前の
(腹立たしいくらいハンサムなのは認めてますし、そんな見た目の割に話しやすくてギャップ萌えなトコも嫌いじゃないですっ!)
それに――。
作ってくれる料理も絶品で、
でも――。
それを恋心だと断じるのは、何か違う気がした羽理だ。
「なぁ羽理。俺は
眉根を寄せて、
それこそ、やけに不機嫌になってさしたる用もないのに部長室へ呼び付けてきたり、会話の途中なのに話を
(モヤモヤさせてしまっていたのだとしたら、確かに申し訳ないことをしました)
一応にそう反省してみた羽理だったのだけれど――。
「わ、私っ、二人とは何にもない……です、よ?」
思わず語尾がしどろもどろ。言い訳するみたいにそう言ったら、「それでも、だ」と溜め息混じりに
「あ、あの……」
ギュッとされるのはやっぱりとってもソワソワして恥ずかしくて……心臓がバクバクして苦しくてたまらないからやめて欲しいのだと羽理は涙目で
「俺はお前を好きになるまで、自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかった……」
切ないぐらいに真っすぐな瞳で見つめられてそんなことを言われた羽理は、胸がキュッと苦しくなって言葉に詰まってしまう。
「わ、私なんかのために嫉妬だなんて……ホントですか……?」
「お前だからこそ、だ。なぁ、羽理。俺の好きになった女を〝私なんか〟とか
ここまで自分のことを
(内緒にしておいた方がいい、よ、ね?)
そんなことを思ってから、別に
「あ、あの……私……」
「ん?」
――お昼に
分からない感情に支配されるくらいなら、いっそのことさらりと白状してしまえばいいと思うのに、羽理はやっぱりそれが出来なくて。
「好きとか嫌いとか……嫉妬するとかしないとか……よく分かりません……。ごめんなさい……」
気が付けば、全然違うことを口走ってしまっていた。
心にやましいことがあるからだろうか。
自然と視線がブレて、羽理はとうとう
「ホントに……分からないのか?」
なのにまるでそれを許さないと言いたいみたいに、
「なぁ、羽理。例えば、なんだがな。――俺がお前を
あごを掴まれたままそんなことを問われた羽理は「へ、平気に決まってますっ」と答えたのだけれど。
「だったら何で……俺が
「そ、それは……た、
「ん? お前、あん時ロビーにいたのか……?」
勢い込んでそこまで言ったら、
羽理はその時のどうしようもなく苦しかった気持ちを思い出して、何だか腹立たしくなってきてしまう。
「し、仕事だって手に就かなくて早退までして……泣きながらお風呂に入ったのに……! 笑うとか酷い!」
「……ああ、俺と一緒で重症だな」
「え?」
「分からないのか? 羽理。それが〝ヤキモチを妬く〟ってことだ」
「やき、もち?」
確認するみたいにそう問いかけた。
「ああ、そうだ。――羽理はしんどかったかも知れねぇけど……すまん。俺はお前が
「……え?」
「お前が俺のことを意識してくれてるんだなって分かって……。俺だけの一方通行じゃないって思えたの、すっげぇ幸せなことだったんだよ。羽理がクソ真面目に心臓が痛い、死ぬかもって悩んでんのも恋愛初心者な感じがして可愛くて……。けど一応俺なりにそれは恋
「ひょっとして
「恋の
羽理はそんな